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平成29年3月期決算に係る会計上の留意事項(下)

プライムジャパン・コンサルティング
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本稿では、会計上の主要な論点を中心に平成29年3月期決算に関する留意事項についてまとめています。なお、最近の会計基準等の改正内容の詳細については、末尾の関連リンクでご確認ください。


【目次】

  1. 税効果会計
  2. (1) 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針
    (2) 税効果会計の法定実効税率
    (3) 繰越欠損金の控除限度額改正による影響
〔以上 上巻〕

  1. 法人税、住民税および事業税等に関する会計基準
  2. 平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い
  3. マイナス金利への対応
  4. (1) 退職給付債務等の計算における割引率
    (2) 金利スワップの特例処理その他の会計上の論点
  5. リスク分担型企業年金
  6. 連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理
〔以上 下巻(本巻)〕


【PDFはこちら】

2.法人税、住民税および事業税等に関する会計基準


ASBJは、2017年3月16日、企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(以下、「法人税等会計基準」という)を公表しています。


法人税等会計基準は、監査保証実務委員会実務指針第63号「諸税金に関する会計処理及び表示に関する監査上の取扱い」等において定められている法人税、住民税および事業税等に関する会計処理および開示について、基本的にその内容を踏襲した上で、表現の見直しや考え方の整理等を行ったものであり、実質的な内容の変更は意図されていません。したがって、会計実務への影響も大きくはないものと考えられます。なお、法人税等会計基準は公表日以後適用され、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当しないものとして取扱われます。



3.平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い


ASBJは、2016年6月17日、実務対応報告第32号「平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」(以下、「実務対応報告第32号」という)を公表しました。


平成28年度税制改正において、平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備および構築物の法人税法上の減価償却方法について定率法が廃止され、定額法のみとなる見直しが行われています。これを受けて、従来、法人税法に規定する普通償却限度額を減価償却費として処理している企業において、建物附属設備、構築物またはその両方に係る減価償却方法について定率法を採用している場合、平成28年4月1日以後に取得する当該すべての資産の減価償却方法を定額法に変更するときは、法令等の改正に準じたものとし、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取扱うこととされています(実務対応報告第32号第2項)。


上記の定めに従って取扱う場合、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下、「企業会計基準第24号」という)第10項、第19項および第20項の定めにかかわらず、次の事項を注記することとされています(実務対応報告第32号第4項)。


① 会計方針の変更の内容として、法人税法の改正に伴い、本実務対応報告を適用し、平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備、構築物又はその両方に係る減価償却方法を定率法から定額法に変更している旨② 会計方針の変更による当期への影響額

当該注記事項は、平成28年度税制改正に合わせて減価償却方法を定額法に変更する場合に会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取扱うことを意図したものであるため、平成28年4月1日以後に建物附属設備または構築物を取得したかどうかにかかわらず記載することになりますので留意が必要です(本実務対応報告第18項)。


なお、実務対応報告第32号第2項に定める会計基準等の改正に伴う会計方針の変更以外の減価償却方法の変更については、正当な理由に基づき自発的に行う会計方針の変更(企業会計基準第24号第5項(2))として取扱うものとされています(実務対応報告第32号第3項)。



4.マイナス金利への対応


(1)退職給付債務等の計算における割引率


ASBJは、2017年3月29日、実務対応報告第34号「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い」(以下、「実務対応報告第34号」という)を公表しました。


【会計処理】


退職給付債務等の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りが期末においてマイナスとなる場合、以下のいずれかの方法によることとされています(本実務対応報告第2項)。なお、いずれの方法を採用しているのかに関する開示については、特段、定められていません。


① 利回りの下限としてゼロを利用する方法
② マイナスの利回りをそのまま利用する方法


【適用時期】


実務対応報告第34号は、2017年3月31日に終了する事業年度から2018年3月30日に終了する事業年度までの1年間に限って適用することとされています(本実務対応報告第3項)。


(2)金利スワップの特例処理その他の会計上の論点


2016年1月の日銀によるマイナス金利政策の導入後、平成28年3月期決算への対応として、ASBJからは、次の2つの議事概要が公表されていました。


  1. 退職給付債務の計算における割引率について(「議事概要別紙(審議事項(4)マイナス金利に関する会計上の論点への対応について)」(第331回企業会計基準委員会(平成28年3月9日))
  2. 金利スワップの特例処理についての議論(「議事概要別紙(審議事項(2)マイナス金利に関する会計上の論点への対応)(第332回企業会計基準委員会(平成28年3月23日))

実務対応報告第34号は、上記aの論点について、2017年3月期決算に関する当面の取扱いを定めたものです。一方で、金利スワップの特例処理については、上記bの審議において、「平成28年3月決算においては、これまで金利スワップの特例処理が適用されていた金利スワップについて、特例処理の適用を継続することは妨げられない」との見解が示されていましたが、2017年3月決算における取扱いについては、実務上の問題や混乱が聞かれていないとして、今回の検討対象とはされていません。また、マイナス金利に関するその他の会計上の論点(資産除却債務、固定資産の減損、金融商品の時価開示等)についても、同様の理由から検討の対象には含まれていません(審議事項(5)マイナス金利に関連する会計上の論点への対応)。


実務対応報告第34号の結論は、あくまで退職給付債務等の計算に用いる割引率に限定されたものであるため、金利スワップの特例処理の適用可否およびその他の会計上の論点を検討するにあたっては、上記①、②の方法を採用する論拠を参照しつつも、各論点における背景、前提条件、取引の性質および状況の変化に留意して対応方針を固める必要があると考えます。



5.リスク分担型企業年金


ASBJは、2016年12月16日、実務対応報告第33号「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」(以下、「実務対応報告第33号」という)を公表しました。実務対応報告第33号は、新たな確定給付企業年金制度である「リスク分担型企業年金」について、必要と考えられる会計処理および開示の取扱いを明らかにするために公表されたものです。


【会計処理】


リスク分担型企業年金のうち、企業の拠出義務が、給付に充当する各期の掛金として、規約に定められた標準掛金相当額、特別掛金相当額およびリスク対応掛金相当額の拠出に限定され、企業が当該掛金相当額の他に拠出義務を実質的に負っていないものは、確定拠出制度として取扱われ、規約に基づきあらかじめ定められた各期の掛金の金額を各期において費用として処理することとされています。


【開示】


金融庁は、2016年12月27日、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(以下、「内閣府令」という)を公表しています。これは、実務対応報告第33号等の公表を受けて、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等について所要の改正を行ったものです。実務対応報告第33号では、確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金について、以下の注記事項の開示が求められています。


① 企業の採用するリスク分担型企業年金の概要② リスク分担型企業年金に係る退職給付費用の額③ 翌期以降に拠出することが要求されるリスク対応掛金相当額および当該リスク対応掛金相当額の拠出に関する残存年数


財務諸表等規則および連結財務諸表規則の確定拠出制度に基づく退職給付に関する注記項目として「その他の事項」が新設され、上記③に該当する記載が求められています。またガイドラインにおいても、関連する留意事項が定められています。


【適用時期】


本実務対応報告および内閣府令は、2017年1月1日から適用・施行されています。



6.連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理


ASBJは、2017年3月29日、以下の実務対応報告(以下、「本改正実務対応報告」という)を公表しました。


  • 改正実務対応報告第18号
  • 「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」

  • 改正実務対応報告第24号
  • 「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」

本改正実務対応報告は、国内子会社または国内関連会社(以下、「国内子会社等」という)が指定国際会計基準※1または修正国際基準※2(以下、「指定国際会計基準等」という)を適用している場合の連結財務諸表作成における国内子会社等の取扱いを明確化したものです。


※1 「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」第93条に規定する指定国際会計基準※2 「国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準」


【改正内容】


国内子会社等が指定国際会計基準等に準拠した連結財務諸表を作成して金融商品取引法に基づく有価証券報告書により開示している場合(当連結会計年度の有価証券報告書により開示する予定の場合も含む。)には、当面の間、本実務対応報告の対象範囲に含めることとされ、重要性が乏しい場合を除き、会計処理に一定の修正を行うことにより、それらを連結決算手続上利用することができることとされています。


ただし、国内子会社等が米国会計基準に準拠している場合や任意に指定国際会計基準等に準拠した連結財務諸表を作成している場合には本改正実務対応報告の対象とはなりませんので、留意が必要です。


【適用時期】


適用時期は、2017年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用されます。ただし、本改正実務対応報告の公表日(2017年3月29日)以後、早期適用することも認められています。


なお、本実務対応報告の適用初年度の前から国内子会社等が指定国際会計基準等に準拠した連結財務諸表を作成して金融商品取引法に基づく有価証券報告書により開示している場合において、当該適用初年度に本実務対応報告を適用するときは、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取扱うこととされています。


以上


以下 平成29年3月期決算に係る会計上の留意事項(上)へ戻る





関連リンク:
・ASBJ、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」を公表
・ASBJ、「平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」を公表
・ASBJ、「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い」の公表
・実務対応報告第33号「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」等の公表
・「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」等の公表 ~リスク分担型企業年金の注記項目~
・ASBJ、「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」等の公表


外部リンク:
・ASBJ 企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」の公表
・ASBJ 実務対応報告第32号「平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」の公表
・ASBJ 実務対応報告第34号「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い」の公表
ASBJ 実務対応報告第33号「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」等の公表
・金融庁 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの結果等について
・ASBJ改正実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」等の公表