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実務対応報告第33号「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」等の公表


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企業会計基準委員会(ASBJ)は12月16日、実務対応報告第33号「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」(以下、「本実務対応報告」という)を公表しました。本実務対応報告は、平成28年度に導入されている新たな確定給付企業年金制度である「リスク分担型企業年金」について、必要と考えられる会計処理および開示の取扱いを明らかにするために公表されたものです。なお、本実務対応報告ついては、ASBJが6月2日に公開草案を公表していました。その後、寄せられたコメントを検討し、公開草案の修正を行った上で、今般の公表に至ったものです。


【公表された実務対応報告等】

  • 本実務対応報告
  • 改正企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」
  • 改正企業会計基準適用指針第1号「退職給付制度間の移行等に関する会計処理」


1.リスク分担型企業年金について


リスク分担型企業年金は、将来の財政悪化リスクを事業主と加入者で柔軟に分け合うことができる新たな年金制度の仕組みです。2015年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2015」では、事業主が企業年金を実施しやすい環境を整備するため、将来の景気変動を見越した弾力的な運営が可能となる措置等について検討する旨が明記されていました。


従来の企業年金制度のうち、確定給付年金制度はあらかじめ給付額の算定方法が決まっているため、積立不足が生じた場合には、事業主が追加で掛金を拠出しなければならず、事業主の負担が大きいとの指摘がありました。一方、確定拠出年金制度は、あらかじめ拠出額の算定方法が決まっているため、事業主は定められた掛金以外に追加で拠出する必要はありません。ただし、運用が低調であった場合には、従業員の年金額が減ることになりますので、運用リスクは加入者側が負っていることになります。


このように従来の企業年金制度は、運用悪化等に伴う将来的な財政負担が事業主または加入者のいずれかに偏っており、新たな年金制度の導入の必要性が指摘されていました。これを受けて、企業年金制度の普及・拡大等に向けた制度の見直しの一環として、新たな確定給付企業年金制度の仕組みであるリスク分担型企業年金制度※1が導入されています。リスク分担型企業年金は、将来発生し得るリスクを労使間でどのように分担するかをあらかじめ定めるハイブリッド型の企業年金制度とされていますが、従来の退職給付会計基準では、「確定給付年金制度」または「確定拠出年金制度」のいずれに該当するのかが必ずしも明確ではありませんでした。このため、ASBJでは、当該年金制度に係る実務上の取扱いを明確にするため、本実務対応報告を公表したものです。


※1.主な改正点については、厚生労働省「確定給付企業年金制度の主な改正点」をご参照ください。

本実務対応報告が取り扱うリスク分担型企業年金とは、確定給付企業年金法に基づいて実施される企業年金のうち、給付額の算定に関して、確定給付企業年金法施行規則第25条の2に規定される調整率(積立金の額、掛金額の予想額の現価、通常予測給付額の現価および財政悪化リスク相当額(通常の予測を超えて財政の安定が損なわれる危険に対応する額。以下同じ。)に応じて定まる数値)が規約に定められる企業年金です。


図表1:リスク分担型企業年金の概要

  • 規約に定められる企業の拠出義務
    • 標準掛金額:給付に要する費用に充てるため、事業主が将来にわたって平準的に拠出する掛金の額
    • 特別掛金額:年金財政計算における過去勤務債務の額に基づき計算される掛金の額
    • リスク対応掛金額:財政悪化リスク相当額に対応するために拠出する掛金の額
    • 景気変動等に伴う積立不足に備えるため、将来的な財政悪化リスクを事前に想定する。
    • 財政悪化リスク相当額は、事業主が拠出するリスク対応掛金額および毎事業年度における財政状況に応じた加入者等への給付の調整額によって分担され、各々の範囲は労使合意によりあらかじめ定められる。
    • 運用悪化等により積立不足が生じた場合には、リスク対応掛金により手当する。事業主は将来想定し得るリスクの一部を事前に負担することになるが、積立不足が発生した場合であっても、リスク対応掛金を超えた追加負担が求められることはない。
    • 一方で、加入者はリスク対応掛金を超える積立不足が生じた場合には、給付調整(給付水準の減少)を負うことになる。逆に積立余剰が発生した場合には、「財政悪化時に想定される積立不足」相当部分を留保した上で、給付水準の増加が行われる。

図表1



2.本実務対応報告のポイント


(1)会計上の分類と会計処理

  • 確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金(第3項および第7項)
    • リスク分担型企業年金のうち、企業の拠出義務が、給付に充当する各期の掛金として、規約に定められた標準掛金相当額、特別掛金相当額およびリスク対応掛金相当額の拠出に限定され、企業が当該掛金相当額の他に拠出義務を実質的に負っていないものは、退職給付会計基準第4項に定める確定拠出制度に分類する。
    • 退職給付会計基準第4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金については、規約に基づきあらかじめ定められた各期の掛金の金額(移行時に未払金等として計上した特別掛金相当額を除く)を、各期において費用として処理する。
    • 確定給付制度に分類されるリスク分担型企業年金(第4項)
    • 上記以外のリスク分担型企業年金は、退職給付会計基準第5項に定める確定給付制度に分類する。
    • 確定給付制度に分類されるリスク分担型企業年金については、退職給付会計基準等に基づいた確定給付制度の会計処理および開示に従う。
    • 分類の再判定(第5項)
    • 退職給付会計基準第4 項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金については、直近の分類に影響を及ぼす事象が新たに生じた場合、本実務対応報告第3項および第4 項に従い、会計上の退職給付制度の分類を再判定する。


(2)退職給付制度間の移行に関する取扱い

  • 退職給付会計基準第5 項に定める確定給付制度に分類される退職給付制度から退職給付会計基準第4 項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金に移行する場合、退職給付制度の終了に該当する。この場合、次の会計処理を行う(第9項・10項)。
① リスク分担型企業年金への移行の時点で、移行した部分に係る退職給付債務と、その減少分相当額に係るリスク分担型企業年金に移行した資産の額との差額を、損益として認識する。移行した部分に係る退職給付債務は、移行前の計算基礎に基づいて数理計算した退職給付債務と、移行後の計算基礎に基づいて数理計算した退職給付債務との差額として算定する。② 移行した部分に係る未認識過去勤務費用および未認識数理計算上の差異は、損益として認識する。移行した部分に係る金額は、移行した時点における退職給付債務の比率その他合理的な方法により算定する。③ 上記①および②で認識される損益の算定において、リスク分担型企業年金への移行の時点で規約に定める各期の掛金に特別掛金相当額が含まれる場合、当該特別掛金相当額の総額を未払金等として計上する。④ 記①から③で認識される損益は、原則として特別損益に純額で表示する。


(3)開示

  • 退職給付会計基準第4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金については、退職給付会計基準第32-2項に従い、以下の事項を注記する(第12項)。
① 企業の採用するリスク分担型企業年金の概要② リスク分担型企業年金に係る退職給付費用の額③ 翌期以降に拠出することが要求されるリスク対応掛金相当額および当該リスク対応掛金相当額の拠出に関する残存年数


(4)適用時期


本実務対応報告等は、2017年1月1日以後適用する(第13項)。



3.IFRS適用上の課題


ASBJでは、リスク分担型企業年金の会計処理について、IFRS適用上の課題として取扱うテーマとした上で、IFRS解釈指針委員会に要望書を提出するかどうかに関する論点整理を行っています。
IFRS上、確定拠出年金制度に分類するにあたっては、「企業がさらに掛金を支払うべき法的債務または推定的債務」のいずれも有していないことを確認する必要があるとされています。この点、論点整理では、「日本基準には推定的債務の概念が存在しないが、リスク分担型企業年金の分類にあたっては、企業が掛金相当額の他に拠出義務を実質的に負っていないものが確定拠出制度に分類される」とした上で、推定的債務の有無の検討にあたっては、「労使合意に基づく規約の内容のほか、経営者が従業員に対して行っている説明等を考慮する」など、「事実関係に即した判断が求められる」としています。詳細については、「我が国におけるIFRS適用上の課題」をご参照ください。


以上


外部リンク:
ASBJ 実務対応報告第33号「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」等の公表