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平成29年3月期決算に係る会計上の留意事項(上)

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本稿では、会計上の主要な論点を中心に平成29年3月期決算に関する留意事項についてまとめています。なお、最近の会計基準等の改正内容の詳細については、末尾の関連リンクでご確認ください。


【目次】

  1. 税効果会計
  2. (1) 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針
    (2) 税効果会計の法定実効税率
    (3) 繰越欠損金の控除限度額改正による影響
〔以上 上巻(本巻)〕

  1. 法人税、住民税および事業税等に関する会計基準
  2. 平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い
  3. マイナス金利への対応
  4. (1) 退職給付債務等の計算における割引率
    (2) 金利スワップの特例処理その他の会計上の論点
  5. リスク分担型企業年金
  6. 連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理
〔以上 下巻〕


【PDFはこちら】

1.税効果会計


(1)繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針


企業会計基準委員会(ASBJ)は、2015年12月28日、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下、「回収可能性適用指針」という)を公表しました。回収可能性適用指針は、原則として2016年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用されますので、3月決算の会社の場合、2017年3月期の年度決算が適用初年度となります。


【主要な改正ポイント】

回収可能性適用指針では、会社分類の要件および繰延税金資産の計上額について、以下の3つの定めを新たに設けています(回収可能性適用指針第49項(3))。ポイントは、回収可能性適用指針の適用が会計方針の変更に該当するのは、これら3つの定めを適用したことにより繰延税金資産の計上額に影響が生じた場合のみに限定されている点です※1


① (分類2)において、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には、回収可能性があるものとする。② (分類3)において、 おおむね5年を明らかに超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には、回収可能性があるものとする。③ (分類4)の要件に該当する場合であっても、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には、(分類2)に該当するものとする。

※ 後述の反証規定のうち、「(分類4)に該当する場合であっても、一定の要件を満たすことにより、(分類3)に該当するものとする取扱い」を適用した場合には、会計方針の変更には該当しないので留意が必要です。


【全体像イメージ】
繰延税金資産回収可能性


つまり、適用初年度の期首において回収可能性適用指針第49項(3)①~③の3つの定めを適用したことにより、適用初年度期首の繰延税金資産と前年度末の繰延税金資産との間に差異が生じた場合には、「会計基準等の改正に伴う会計方針の変更」として取り扱い、また、その影響額の算定については過去に遡及せず、適用初年度の期首の利益剰余金に加減する経過措置が取られています(回収可能性適用指針第49項(4))。回収可能性適用指針を新たに適用した場合であっても、上記①~③以外の取扱いによる影響は会計方針の変更には該当せず、当該影響額は法人税等調整額またはその他の包括利益に計上することになります。


なお、上記①~③の定めを適用したことにより会計方針の変更に該当する場合、期首の利益剰余金およびその他の包括利益累計額への影響額については、株主資本等変動計算書の期首残高に対する影響額として区分表示(「会計方針の変更による累積的影響額」)することになります(企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」第5-2項)。



【回収可能性の判定】


回収可能性適用指針では、繰延税金資産の回収可能性の判断において、原則的な定めとは異なる以下の3つの定めを設けています(反証規定)。


  • (分類2)の企業においてスケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産を回収可能であるものとする取扱い
  • (分類3)の企業においておおむね5年を明らかに超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産を回収可能であるものとする取扱い
  • (分類4)の企業において一定の要件を満たすことにより(分類2)または(分類3)に該当するものとして判断する取扱い

これらの反証規定に関して、適用初年度期首では適用していなかった場合に、当該事業年度末において適用することが認められるかどうかが実務上の論点となり得ます。この点、反証規定を置いている趣旨は、企業の実態をより適切に財務諸表に反映するために設けられているものと考えられます(回収可能性適用指針第74項、第84項、第89項)。したがって、企業の実態に影響を及ぼすような内外の環境変化がない限り、継続して適用することが原則です。期首では反証規定を適用せず、事業年度末において当該規定を適用することを検討するような場合には、内外の経営環境の変化と企業実態に及ぼす影響について慎重な判断が求められます。


【開示】


回収可能性適用指針の適用により会計方針の変更に該当するのは非常に限定されていますが、会計方針の変更に該当する場合には、以下の項目を注記することになります(財務諸表等規則第8条の3③、連結財務諸表規則第14条の2、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第10項、回収可能性適用指針第49項(5))。


  • 会計基準等の名称
  • 会計方針の変更の内容
  • 経過的な取扱いに従って会計処理を行った旨および当該経過的な取扱いの概要
  • 適用初年度の期首の繰延税金資産に対する影響額、利益剰余金に対する影響額、その他の包括利益累計額または評価・換算差額等に対する影響額

回収可能性適用指針第49項(3)①~③以外の取扱いにより影響が生じている場合、あるいはこれら①~③を適用しても影響がない場合は、会計方針の変更には該当しないため、上記会計方針変更の注記は必要ありません。ただし、回収可能性適用指針を適用している旨を追加情報として記載することが考えられます(財務諸表等規則第8条の5、連結財務諸表規則第15条)。なお、この場合であっても、会計方針の変更ではないことから、適用による影響額の記載は必要ないものと考えられます。



(2)税効果会計の法定実効税率


【税制改正の内容】

平成28年度税制改正(平成28年3月29日成立)および消費税率10%への引上げ時期を平成31年10月1日まで2年6ヶ月延期する税制上の措置(平成28年11月18日成立)により、税効果会計に影響する以下の見直しが行われています。


  1. 法人税率の引下げ
  2. 平成28年度および平成30年度の2段階に分けて実施
  3. 地方法人課税の偏在是正措置の実施時期の延期
  4. ① 地方法人税の拡大
    平成29年度実施から平成31年10月1日以後に開始する事業年度からに延期
    ② 地方法人特別税の廃止
    平成29年度実施から平成31年10月1日以後に開始する事業年度からに延期

① 法人住民税(地方税)を引下げ、地方法人税(国税)を引上げる措置。ただし、合計の税率は変わらないため、単体申告納税会社の法定実効税率には影響しない。② 地方法人特別税の廃止に伴う法人事業税(所得割)への復元措置。ただし、地方法人特別税の税源がそのまま法人事業税に移行するので、税率は復元前と変わらず、単体申告納税会社の法定実効税率には影響しない。

地方法人課税の偏在是正措置は消費税率の引上げに合わせて行うこととされていましたが、消費税率の10%への引上げ時期が2年6ヶ月延期されたことに伴い、同措置の実施時期も、当初予定されていた平成29年度から平成31年10月1日以後開始事業年度からに延期されました(「消費税率の引上げ時期の変更に伴う税制上の措置」)。


東京都など各自治体の一部では、平成29年度からの是正措置の実施を前提とした税条例の改正を昨年までに済ませていましたが、今回の延期を受けて再度の条例改正を実施しています。東京都についても、法人事業税・法人都民税の税率改正の施行日を平成31年10月1日以後開始事業年度からに延期する東京都税条例改正が2017年3月30日に成立しています(消費税率引上げ時期の変更に伴う法人事業税・法人都民税に係る税率改正の施行日の変更について)


【東京都の外形標準課税適用法人の場合】

以上の改正により、平成29年3月期以降の法定実効税率(東京都の外形標準課税適用法人の場合)は以下となります。なお、具体的な計算例は、「平成29年3月期決算における法定実効税率の算定~平成28年度税制改正および消費税率引き上げ時期の変更に伴う実務対応~」 をご参照ください。


【平成28年度税制改正および消費税率引き上げ時期の変更に伴う税率改正】
平成28年度税制改正および消費税率引き上げ時期の変更に伴う税率改正



(3)繰越欠損金の控除限度額改正による影響


平成28年度税制改正により繰越欠損金の控除限度額は、以下のとおり段階的に引き下げられることが決まっています(中小法人等を除く)。また、平成30年4月1日以後に開始する事業年度に生じた欠損金の繰越期間が10年に延長されることになっています。


【欠損金繰越控除の縮小】
欠損金繰越控除の縮小


税務上の欠損金は、一時差異に準ずるものとして将来減算一時差異と同様に扱われますので、税務上の欠損金についても回収可能性があれば繰延税金資産を計上することができます。ただし、上記のとおり課税所得と相殺できる繰越欠損金の控除限度額が年度毎に異なっていますので、繰延税金資産の回収可能性の判断にあたっては留意が必要です。例えば、2018年3月期に繰り越された税務上の欠損金がある場合、当該事業年度の繰延税金資産の回収可能額の算定にあたっては、当該事業年度の繰越控除前の課税所得の見積額の55%を限度として相殺可能かに基づいて判断することになります。



以上





以下 平成29年3月期決算に係る会計上の留意事項(下)へ続く


関連リンク:
ASBJ、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」を公表
平成29年3月期決算における法定実効税率の算定~平成28年度税制改正および消費税率引き上げ時期の変更に伴う実務対応~