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適時開示とは、証券取引所規則に基づいて、上場有価証券について投資者に対して適切な投資判断材料が提供されることを目的として、証券取引所に上場した会社に義務付けられている会社情報の開示のことをいいます。
適時開示する情報として、東京証券取引所「上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則(適時開示規則)」において、以下のように定められています。1.決定事実に関する情報(決定した理由 として①概要 、②今後の見通し 、③その他取引所が投資判断上重要と認める事項)2.発生事実に関する情報(発生した経緯として①概要 、②今後の見通し、③その他取引所が投資判断上重要と認める事項)3.決算に関する情報(①決算内容(決算短信) 、②業績予想の修正 、③配当予想の修正)
このうち「2.発生事実に関する情報」に関連して、日本基準を適用している企業では、一般的に特別損益項目に属する事実が発生した場合には、適時開示が行われているケースが多く見受けられます。一方で、米国基準や国際財務報告基準を適用している企業の場合、特別損益項目が存在しないため、日本基準で言うところの発生事実に相当する事象の適時開示のあり方が論点になるケースがあります。そこで米国基準を適用している日本企業について過去の開示例に基づいて、どのように適時開示を行っているかの調査を行いました。
米国基準を適用している日本企業35社ついて、2010年1月1日から2012年5月31日までの適時開示事例の調査を実施
開示内容は、連結業績への影響を記載している例や段階損益まで記載している例もあり、開示情報の種類、開示時点での損益額の確定状況や連結段階損益へのインパクトを考慮して、開示されていると考えられます。 開示例をケース別に分類すると、以下のようになりました。(1) 利益/損失発生の事実のみの開示例・・・2例 (2) 連結業績に対する影響額のみの開示例・・・5例(3) 連結業績への影響として段階損益への影響まで記載している例・・・5例(4) 個別決算における特別利益/特別損失の計上(連結業績影響なし)・・・5例
結局は特別損益項目に該当するか否かという形式ではなく、事象の性質に鑑みて実質的な判断に基づいた開示を行っていることがわかります。
最近では「統合報告」(こちらもご参考)についての議論も国内で活発にされるようになっています。健全な財務情報の開示は、会計情報の有用性の向上に資することは言うまでもありませんが、開示の促進・充実と企業価値の向上が相関する仕組み作りが求められます。と同時に、それらは、昨今における持続可能な社会への関心の高まりに伴って、社会全体における価値創造プロセスに関する情報提供につながることが期待されます。
(1) 事実の記載のみ
企業名 | 公表日 | 表題 | 記載内容要旨 |
三菱商事 | 2010年 1月29日 | 株式会社大京の新株式発行に伴うみなし売却益について | 「保有有価証券の減損および売却損をそれぞれ7億および150億円計上する旨」のみ記載 |
ソニー | 2012年 4月12日 | 2012年度における構造改革費用の計上の見込みに関するお知らせ | 「2012年度には構造改革費用として、約750億円を計上する見込みであること」の記載 |
(2) 連結業績への影響額のみ記載
企業名 | 公表日 | 表題 | 記載内容要旨 | オリックス | 2010年 2月8日 | 株式会社大京の新株式発行に伴うみなし売却益について | 「連結業績への影響として、2010年3月期第4四半期連結決算(2010年1月1日~2010年3月31日)にみなし売却益が約40 億円計上される見通しである」との記載 |
東芝 | 2010年 4月26日 | 子会社株式売却に関するお知らせ | 「本件の影響により2009年度の単独決算に約290億円(概算)、連結決算に約160億円(概算)がそれぞれ純損失として計上される見込み」との記載 |
京セラ | 2010年 10月28日 | 株式会社ウィルコムの会社更生手続に伴う追加損失計上について | 「債権の貸倒損失等708 百万円を連結業績に計上した旨」のみ記載 |
本田技研 | 2011年 3月23日 | 関連会社の合弁解消に伴う特別利益計上に関するお知らせ | 「平成23年3月期(平成22年4月1日~平成23年3月31日)の個別財務諸表において、合弁解消に伴う利益として1,122億円を特別利益に計上する予定」、「この特別利益には、株式譲渡とライセンス契約締結による利益が含まれること(なお、平成23年3月期の連結財務諸表における、当該事象による利益への影響は、税引前利益において約800億円となる見込み。)」との記載 |
アドバンテスト | 2011年 10月5日 | 平成24年3月第2四半期 有価証券評価損に関するお知らせ | 「連結での減損額1,333百万円」のみ記載 |
(3) 連結業績への影響を段階損益まで記載
企業名 | 公表日 | 表題 | 記載内容要旨 | ワコールHD | 2011年 5月9日 | 減損損失の計上及び通期連結業績予想の修正に関するお知らせ | 「1,772百万円を減損損失として計上」、「米国会計基準を採用しているため、これらの減損損失は営業費用となり、営業利益に影響」「また、これに伴う当期純利益への影響額は555百万円の減少」との記載 |
日本ハム | 2012年 1月19日 | 連結子会社における特別利益の発生に関するお知らせ | 「子会社(球団)は、ポスティングシステムによる移籍金約40億円(51.7百万米ドル)を特別利益に計上」、「連結決算(米国会計基準)におきましては、平成24年3月期第4四半期において、当該移籍金を「収益」の部に独立科目を設けて表示する予定ですが、本件による連結損益計算書への影響については、税金等調整前当期純利益(税前利益)に約40億円の増益効果がある見込み」との記載 |
日本電産 | 2012年 1月24日 | タイ洪水被害に伴う影響に関するお知らせ | 「連結業績に与える影響として、固定資産及びたな卸資産に対する損失については保険を付保しており、上記の損失は、現時点にて回収が確定した保険収入と相殺した後に、営業損益として計上」との記載 |
リコー | 2012年 1月31日 | 業績予想の修正と配当予想の修正および減損損失などの計上に関するお知らせ | 「プロダクションプリンティング事業について、のれん274 億円、長期性資産95 億円を米国会計基準に基づき減損処理し、当該費用を「販売費及び一般管理費」として連結損益計算書に計上」との記載 |
ソニー | 2012年 2月2日 | ソニーが保有するS-LCD Corporation 持分の減損にともなう営業損失の計上のお知らせ | 「2011 年度第3四半期においてS-LCD 持分の減損634 億円は、S-LCD の持分法投資損失の一部として、2011 年度第3四半期の連結営業損益に含まれています。」との記載 |
(4) 連結業績への影響を段階損益まで記載
企業名 | 公表日 | 表題 | 記載内容要旨 | 日本ハム | 2010年 2月5日 | 特別損失(個別)の計上及び業績予想の修正に関するお知らせ | 「関係会社株式評価損約28億円及び関係会社貸付金に対する貸倒引当金繰入額約46億円など、合計約74億円を特別損失(個別)に計上いたします。尚、当該特別損失計上による連結業績への影響はありません。」との記載 |
コマツ | 2010年 4月27日 | 「個別決算における特別損失の計上に関するお知らせ | 2010年3月期において、関係会社株式評価損4,473百万円を特別損失として計上することとなりました。なお、連結業績への影響はありません。」との記載 |
本田技研 | 2011年 4月28日 | 通期業績予想との差異および特別損失の計上に関するお知らせ | 「平成23年3月期の個別財務諸表において、「関係会社株式評価損」915億円を特別損失に計上」、「当社の連結子会社であり、当該会社の財政状態および経営成績につきましては毎期連結財務諸表に反映さているため当該減損による連結業績への影響はありません。」との記載 |
日本電産 | 2012年 4月24日 | 個別決算における特別利益の計上に関するお知らせ | 「タイ子会社との間の取引に係る移転価格についての独立企業間価格の算定方法等に関する事前確認の仮合意に伴う価格調整金の受取に対して、個別決算において特別利益25,077 百万円を計上する旨を記載連結財務諸表に与える影響はない旨」を記載 |
オリックス | 2012年 4月27日 | 株式評価減に関するお知らせ | 「個別決算において、当社の持分法適用関連会社であるルネサスエレクトロニクス(株)の株式評価減に関わる損失376 億円を特別損失に計上」との記載、連結業績への影響記載なし |