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負債の流動・非流動への分類に関する論点

~IAS第1号の修正に係る影響の考察~

プライムジャパン・コンサルティング
会計情報リサーチ

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国際会計基準審議会(IASB)は、2020年1月23日、「負債の流動または非流動への分類(IAS第1号の修正)」(以下、「本修正」という)を公表しました。

 

本修正は、負債の流動または非流動への分類に係る従来の規定を変更するものではなく、分類に関する要件を明確化するものとされ、その観点では財務諸表へ重大な影響を及ぼすものとは想定されていません。しかしながら、財務制限条項が付与されている長期借入金や一部の転換社債などでは、本修正に基づいて分類を再検討する必要が出てくる可能性があり、留意が必要です。

 

本稿では、負債の流動または非流動への分類に係る日本基準とIFRSとの差異について比較検討した上で、具体的な事例について考察したいと思います。

 

1.負債の流動・非流動への分類に関する基準間差異

 

借入金や社債等の負債の流動・非流動への分類に関して、日本基準では、正常営業循環基準に1年基準を加味して判断することを原則とします。したがって、基本的には契約上の返済日・満期日までの期間に着目するため、当該企業が負債の決済を延期できる「権利」を保有しているか否かという点は、通常考慮されないこととなります。

 

一方、IFRSでは、正常営業循環基準および1年基準に加えて、「負債の決済を少なくとも期末日後12ヶ月にわたり延期することのできる権利」を有しているか否かに基づいて判断することになります(IFRS第1号第69項)。当該権利は実質的なものでなければならないこととされ(第72A項)、また企業が当該権利を行使するか否かは考慮されず、経営者の意図や見込みにも影響されないことも明確化されています(第75A項)。

 

2.財務制限条項が付与されている長期借入金

 

上記のとおり、日本基準では1年基準が適用され、契約上の返済日に基づいて流動・非流動の分類を判定することになります。すなわち、期末時点において、負債の決済を延期できる権利・義務関係は、原則として考慮されません。したがって、財務制限条項が付与された長期借入金の場合、期末時点において財務制限条項に抵触したことにより、債権者より要求されれば直ちに返済する義務が生じる状態であっても、実際に返済が要求される見込みがなければ、流動負債には分類されない可能性があります。

 

これに対して、IFRSでは、負債の決済を期末日後少なくとも12ヶ月にわたり延期することのできる「権利」を有しているか否かが要件となり、実際の履行の有無や要否は問われません。したがって、期末時点において財務制限条項に抵触し、債権者より要求されれば直ちに返済する義務が生じる状態であれば、実際に返済が要求される見込みがない場合であっても、当該借入金は流動負債に分類しなければなりません。この分類は、あくまで期末時点における権利義務関係に基づきますので、経営者の意図や見込み、さらには期末日後の事象の変化にも影響されないことになります。

 

例えば、期末日後、財務諸表が公表されるまでの間に、少なくとも12ヶ月にわたり返済を要求しないことに関係者が合意した場合や、契約変更により財務制限条項が見直しされたことにより期末時点での権利義務関係が解消されていた場合であっても、このような事象の変化は負債の分類には影響しないことになります。この場合、これら期末日後の事象の変化は、開示後発事象として取り扱われることになります。

 

3.希薄化防止条項が付与されている転換社債

 

転換社債のような複合金融商品については、日本基準上、社債の対価部分と新株予約権の対価部分を一括して処理する方法(一括法)と区分して処理する方法(区分法)のいずれかにより処理することが認められています。日本基準では、金融商品の法的形式を重視し、社債の対価部分は普通社債に準じて、1年超の長期の場合は非流動負債に、また転換権に相当する部分は純資産の部に計上されることになります。

 

これに対して、IFRSでは、単に法的形式ではなく契約の実質を重視しており、IAS第32号「金融商品:表示」における定義に従って、具体的な契約条件に基づき、金融商品の構成要素を負債と資本に分類することを要求しています。希薄化防止条項(転換価格を下回る株価での新株発行が行われた場合、転換価額を発行価額に合わせて調整する条項)が付与された転換社債の場合、当該転換権が資本の定義(固定対固定の要件)を満たすか否かがポイントになります。転換価額の調整条項が、固定額の現金(または金融商品)と固定数の資本性金融商品の交換に抵触すると判断された場合には、当該転換権は資本の要件を満たさないことになり、負債に分類されることになります。

 

以上

 

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