Knowledge/解説コラム

【代表者コラム】不正会計問題と監査制度

菊川 真  プライムジャパン代表 公認会計士

2015/08/24

次に、上記の問題意識を踏まえて、今後の監査制度のあり方としては、①監査報告書による情報提供機能の向上、および②監査事務所のローテーション制の導入について、国内でも真剣に検討すべき段階になっているのではないかと考える。


① 監査報告書の情報提供機能


   先に述べたように、現代の財務諸表は、会計上の見積りの要素が増加しており、その内容が複雑化・高度化しているにもかかわらず、現行の短文式監査報告書は、定型的なフォームに基づいた適正・不適正等の監査意見を表明することがメインとなっている。したがって、その意見形成の過程については明らかとはされていない。
この点に関して、特にリーマンショック以降、監査報告書による情報提供機能を高めるべきはないかという指摘がなされてきた。国際監査・保証基準審議会(IAASB)は、2015年1月、監査報告に関する基準改正を公表しており、監査情報の有用性と透明性の向上を図る観点から、監査報告書において「Key audit matters」(監査上の重要事項)の開示を求めることとしている※1。先に触れたように、現在の財務報告は、経営者の判断や仮定に基づいた見積りの要素が増大している。そのような財務諸表に対する会計監査において、監査上の重点領域やそれらに対する見解等を明らかにすることは、財務諸表利用者にとって有用であり、また同時に監査の品質向上にもつながることは間違いないと考える。



② 監査事務所のローテーション制
   監査のローテーション制についても、これまで様々な意見や議論がなされている古くて新しい問題である。制度のあり方としては、強制ローテーションの他、共同監査や分担監査、あるいは監査契約の入札制など、いくつかの方法が考えられる。この中で、共同監査や分担監査は、他の方法と比較しても実務上の効率性・有効性に難点が多いであろう。入札制については、例えばコーポレートガバナンス・コード(以下、「CGコード」)の発祥とされる英国のCGコードにおいて、FTSE350企業(ロンドン証券取引所上場企業のうち時価総額上位350社)は、少なくとも10年毎に外部監査契約を入札にかけるべきであること、また取締役会が監査委員会の提案を受け入れない場合には、その理由を説明することを求めている。   さらに欧州連合(EU)は、金融危機を発端とした監査制度改革の一環として、域内の影響度合いの高い企業(PIE:Public interest entity)に対する監査事務所の強制ローテーション制(10年毎)を2016年6月以降(移行措置あり)から適用することにしている※2。ローテーション制については賛否両論あるが、監査を引き継ぐ際には、監査調書の閲覧と併せて、監査上の重要項目やリスクの高い領域について、結論に至る検討プロセスとその判断の根拠等について、後任の監査人に対して明らかにしなければならない。   本年6月に施行された日本のCGコードでは入札制については求められていない。しかし、一部の国内企業においては、すでに任意で、定期的に複数の監査法人による入札を行っている事例もある。ローテーション制については、移行コストなどのデメリットはある。しかし、制度による強制措置だけでなく、例えば、ソフトローの観点から、英国のようなCGコードによる入札制も考え得る。いずれにしろ、利害関係者のコンセンサスを得ながら、新たな制度の導入を検討する段階にあると考える。


以上、本稿でご紹介した監査報告書の変革やローテーション制は、これまで常に議論されてきている課題であり、特にリーマンショックや財政金融危機を契機として議論が活発化し、一部制度の見直しも行われている。国内においても、上場企業による不正会計と言われる問題が後を絶たず、監査の限界を指摘されている状況においては、監査制度の根本が問われているのではないだろうか。


以上



※1 監査報告書の記載内容の改訂については、以前、Tweedie前IASB議長が日本公認会計士協会によるインタビューの中で、「(監査の問題は)金融危機のときに、表面化した。」「私達が衝撃を受けたことの1つは、監査報告書は変わらなければならないと確信したことです。現在の監査報告書の問題は、基本的に、『適正表示か否か』しか示していないことです。良い監査と悪い監査を区別することはできません。」とした上で、「監査報告書を変更することは、(中略)最終的に国際的な流れになるだろうと思います。見積り、仮定について、議論になった事項等、何が問題になったのかを述べることが求められるでしょう。」と答えている(会計・監査ジャーナル2012年10月)
※2 欧州の監査制度改革については、本コラムで以前にご紹介しているが(「監査制度を巡る改革論議」)、監査人の強制ローテーション制について、当初の改革案では6年毎とされていた。