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IASB、「金利指標改革(IFRS第9号、IAS第39号及びIFRS第7号の改訂)」を公表

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国際会計基準審議会(IASB)は、2019年9月26日、「金利指標改革(IFRS第9号、IAS第39号及びIFRS第7号の改訂)」(以下、「本改訂」という)を公表しました。本改訂は、今後の金利指標改革に伴う不確実性のみを理由としたヘッジ会計の中止を生じさせる可能性のある特定のヘッジ会計の要求事項に対する救済措置を提供することを目的としています。

 

 

背景

 

 

銀行間取引金利(IBOR)などの金利指標は、国際金融市場において重要な役割を果たしています。しかしながら、いくつかの金利指標について市場操作が試みられたことにより、既存の金利指標の信頼が損なわれる事例が発生しました。これを背景に、G20は金融安定理事会(FSB)に主要な金利指標の根本的な見直しを行うよう依頼し、FSBでは主要な金利指標を改革する提言書を公表しました。

 

一方で、IFRS第9号「金融商品」およびIAS第39号「金融商品:認識及び測定」における特定のヘッジ会計の要求事項では、企業に将来予測的な分析を要求しています。金利指標改革※1の結果、代替金利がどのようなもので、いつ行われるのかについて不確実性が存在し、特定の将来予測的なヘッジ会計の適用に影響を与える可能性が生じています※2。

 

IASBは、金利指標改革に伴う不確実性が存在する間の救済措置を提供するため、IFRS 第9 号およびIAS 第39 号ならびに関連する開示に関する基準であるIFRS第7号「金融商品:開示」について、特定のヘッジ会計に関する取扱いを決定しました。

 

なお、本改訂は、金利指標改革(既存の金利指標から代替金利への置換えなど)を実施する前の期間における論点を取扱っており、実施時点での論点に関する取扱いについては、別途審議されることになっています。

 

※1金利指標改革とは、IBORなどの既存の金利指標をFSBの提言に基づいた代替金利に市場全体で置き換えることを指している。

 

※2このような不確実性だけのために企業がヘッジ会計を中止すること、あるいは、そのような不確実性がなければヘッジ適格となる新たなヘッジ関係を企業が指定することを妨げる可能性が指摘されている。

 

 

主な内容

 

 

予定取引の発生可能性について

 

 

ヘッジ対象が予定取引である場合、ヘッジ適格であるためには、その発生可能性が非常に高いことが要件となります。もし発生可能性が非常に高いとはされなくなった場合、ヘッジ会計は中止されます。さらにヘッジ対象とされていた将来キャッシュ・フローの発生が見込めなくなった場合には、ヘッジ関係から生じていたキャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金の残高を取り崩さなければなりません。本改訂では、ヘッジ対象キャッシュ・フローの発生可能性の評価を行う際に、今般の金利指標改革による金利指標の変更はないものと仮定して当該要求事項を適用することとしています。

 

 

ヘッジ対象とヘッジ手段の相殺関係について

 

 

ヘッジの有効性評価にあたっては、ヘッジ対象とヘッジ手段とは将来に向かって相殺関係が見込めることが要求されています。本改訂では、これら相殺関係についての評価を行う際に、金利指標改革による金利指標の変更はないものと仮定することとしています。

また、IAS第39号におけるヘッジの有効性の評価では、将来に向かっての有効性に加え、ヘッジの結果が80%から125%の範囲内にあることも要求されていましたが、本改訂では、当該要件が満たされなかったことを理由としたヘッジ会計の中止は要求されないことを明確化しています。

 

 

リスク要素のヘッジ対象指定について

 

 

リスク要素をヘッジ対象に指定するには、当該リスク要素が独立して識別可能であることが求められています。本改訂では、金利指標改革によって影響を受ける金利リスク要素について、当該要件の成立はヘッジ関係の開始時のみとすることとし、ヘッジ対象期間を通じた評価は不要とすることとしています。なお、ヘッジ関係を頻繁に再設定するいわゆる「マクロヘッジ」の手法を採用している場合、「ヘッジ関係の開始時」については当初指定の時点のみをさし、再設定時には要求されないことを明確化しています。

 

 

本改訂の適用および開示

 

 

本改訂は、金利指標改革の影響を受ける全てのヘッジ関係について強制的に適用されます。一方、本改訂による要求事項は時限的な措置であることから、金利指標改革がもたらす不確実性の懸念が解消した時点で適用が終了する取扱いが設けられています。

 

また本改訂の対象となるヘッジ関係については、所定の開示が要求されています。ただし、IFRS第7号に係るヘッジ会計の注記に関して、本改訂による取扱いの対象とそれ以外に区分して開示することを要求していた公開草案の提案内容については取下げられており、開示負担は軽減されました。

 

 

発効日および経過措置

 

 

本改訂は、2020年1月1日以後開始する事業年度から遡及適用されます。また早期適用は認められます。

 

以上