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IASB、IAS第8号の狭い範囲の修正案「会計方針及び会計上の見積り」を公表

プライムジャパン・コンサルティング
会計情報リサーチ

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国際会計基準審議会(IASB)は、2017年9月12日、IAS第8号の修正案「会計方針及び会計上の見積り」(以下、「本公開草案」という)を公表した。本公開草案は、会計方針と会計上の見積りの区別を明確にするため、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」を狭い範囲で修正するものである。


コメント期限は2018 年1月15日。


本公開草案のポイント

  • 会計方針の定義を見直し、また会計上の見積りの変更の定義を削除して、新たに会計上の見積りの定義を示すことにより、会計方針と会計上の見積りの関連性を明確化している。
  • ある財務諸表項目を正確に測定できない場合、当該項目に会計方針を適用する際に使用する見積技法や評価技法の選択は、会計上の見積りの選択とする。
  • 通常は代替性のある棚卸資産について、先入先出法または加重平均法のうち1つを選択することは、会計方針の選択とする。


【背景】


IAS第8号では、会計方針の変更および会計上の見積りの変更による会計処理方法について異なる取扱いを定めている。会計方針の変更は原則として過去の期間に遡及適用されるのに対して、会計上の見積りの変更は将来に向かって適用され、当期および将来の純損益に影響を与える。このため、会計方針の変更と会計上の見積りの変更を区別することは重要である。


しかしながら、現行のIAS第8号では、会計方針と会計上の見積りの定義が必ずしも明確でなく、また2つの定義が重複しているようにも見られるため、実務上、会計方針の変更と会計上の見積りの変更に関する取扱いについて、ばらつきがあることが指摘されていた。このため、本公開草案では、会計方針の変更と会計上の見積りの変更の区別をより明確化することを目的として公表された。




【本公開草案の概要】



① 会計方針と会計上の見積りの定義の明確化


本公開草案における提案の中心は、会計上の見積りは会計方針を適用する際の目的を達成するために使用されるものであることを明確化することである(BC9項)。加えて、現行実務で生じている問題は、IAS第8号において、会計上の見積りの定義がなされていないため、会計方針と会計上の見積りの区別が不明確となっている点にあることが指摘されている。


そのため、本公開草案では、会計方針と会計上の見積りの区別をより明確にするため、会計方針の定義を修正するとともに、従来示されていた会計上の見積りの変更の定義を削除し、代わりに会計上の見積りの定義を示すことが提案されている(BC10項)。


【提案されている定義】(5項)

会計方針会計方針とは、企業が財務諸表を作成および表示するにあたって採用する特定の原則、測定基礎および実務をいう。
会計上の見積り会計上の見積りとは、見積りに不確実性が存在することにより、ある財務諸表項目を正確に測定できない場合に、会計方針を適用する際に使用される判断または仮定をいう。

なお、会計上の見積りの定義において、「判断」と「仮定」の用語が使用されているのは、これらの2つの用語がIFRS基準の中で、それぞれ用いられていることによるとされている(BC12項)※1


※1 例えば、IAS第1号「財務諸表の表示」では「判断」という用語が使用され、IAS第19号「従業員給付」では「仮定」という用語が使用されている。



② 会計上の見積り


財務諸表項目の中には、事業活動に固有の不確実性が存在することにより、正確に測定できないものも多い※2。本公開草案では、そのような場合に、企業が一部の項目に対して会計方針を適用する際に会計上の見積りを使用することが必要となる場合があることが明記されている(32項)。


※2 IAS第8号では、不良債権、棚卸資産の陳腐化、資産・負債の公正価値などが例示されている。


(1)見積技法および評価技法の選択

本公開草案では、ある財務諸表項目を正確に測定できない場合、当該項目に会計方針を適用する際に使用する見積技法や評価技法の選択には判断または仮定を伴うことから、これら見積技法または評価方法の選択は、会計方針の選択ではなく会計上の見積りの選択であることが提案されている(32A項、BC18項)。したがって、見積技法の変更または評価技法の変更は、会計方針の変更ではなく会計上の見積りの変更となる。


なお、ここで「見積技法」と「評価技法」の用語が使用されているのは、これらの2つの用語がIFRS基準の中で、それぞれ用いられていることによる(BC19項)※3


※3 例えば、IFRS第9号「金融商品」では「見積技法」という用語が使用され、IFRS第13号「公正価値」では「評価技法」という用語が使用されている。


(2)棚卸資産の原価算定方式

本公開草案では、通常は代替性のある棚卸資産について、IAS第2号「棚卸資産」で定める2つの原価算定方式(先入先出法および加重平均法)のうち1つを選択することは、当該棚卸資産を販売する順序を決定するための判断や仮定を伴うものではないことから、会計上の見積りではなく会計方針の選択であることが提案されている(32B項)。したがって、棚卸資産の原価算定方式を先入先出法から加重平均法(あるいはその逆)に変更することは、会計上の見積りの変更ではなく会計方針の変更となる。


通常は代替性のある棚卸資産が多数ある場合に、原価の個別特定※4は、原価の配分に恣意性が介入するおそれがあることから不適切であるとみなされ、原価算定方式としては先入先出法または加重平均法によることが求められている(IAS第2号24項~25項)。本公開草案では、原価の個別特定には、必然的に販売する順序(フロー)の決定を伴うが、代替性のある棚卸資産について先入先出法または加重平均法のうちいずれかを選択することは、実際のフローを見積る行為ではないと結論付けている(BC19項~20項)。


※4 特定の原価を特定の棚卸資産に帰属させること(IAS第2号24項)。



③ 適用日および経過措置 (54F項)


本公開草案は、適用日を含んでおらず、IASBが公開後に決定する予定である。ただし、本公開草案で提案された事項は、本基準適用以後に生じるすべての会計方針の変更および会計上の見積りの変更に適用する。なお、早期適用は認められる。


以上


外部リンク:
IASB publishes Exposure Draft to clarify how to distinguish accounting policies from accounting estimates
IASBが会計方針と会計上の見積りを区別する方法を明確化する公開草案を公表