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企業会計基準委員会(ASBJ)は、2017年6月6日、企業会計基準公開草案第60号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正(案)」および関連する企業会計基準適用指針の公開草案(以下合わせて、「本公開草案」という)を公表しました。
コメント期限:2017年8月7日
ASBJでは、日本公認会計士協会(JICPA)から公表されている税効果会計に関する実務指針をASBJに移管するための審議を重ねており、これまでに企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(2015年12月28日)、企業会計基準適用指針第27号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」(2016年3月14日)、企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(2017年3月16日)を公表しています。本公開草案では、先行して移管された繰延税金資産の回収可能性に関する定め以外の税効果に関する定めのうち、基本的にその内容を踏襲しつつ、必要と考えられる見直しを加えています。
今般、公表された公開草案は以下のとおりです。
(1)主な改正点
本公開草案では、税効果会計に係る会計処理および開示について、以下の見直しを行うことを提案しています。
① 個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い(税効果適用指針案第8項(2))
将来加算一時差異が生じる場合、原則として繰延税金負債を計上する必要がありますが、子会社への投資に係る税効果については、一部、例外的な取扱いが定められています。
この点、現行の取扱いでは、個別財務諸表における子会社株式および関連会社株式(以下、「子会社株式等」という)に係る将来加算一時差異については、事業休止等による特定の場合を除き、一律に繰延税金負債を計上することとされています。
一方で、連結財務諸表における子会社株式等に対する投資に係る将来加算一時差異については、親会社または投資会社(以下、「親会社等」という)がその投資の売却を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却を行う意思がない場合には、繰延税金負債を計上しないとされています。
このように現行の規定では、子会社株式等に対する投資に係る将来加算一時差異について、連結財務諸表と個別財務諸表とで異なった取扱いが定められています。しかしながら、両者で異なった処理を定める理由は乏しいことから、その整合性を図るため、個別財務諸表において、連結財務諸表における取扱いと平仄を合わせる提案がなされています。
本公開草案 | 改正前 |
---|---|
個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異については、次の場合を除き、繰延税金負債を計上する。① 企業が清算するまでに課税所得が生じないことが合理的に見込まれる場合② 親会社等がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合 | 個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異については、事業休止等により会社が清算するまでに明らかに将来加算一時差異を上回る損失が発生し、課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合を除き、繰延税金負債を計上しなければならない。 |
② (分類1)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い(回収可能性適用指針案第18項)
現行の取扱いでは、(分類1)に該当する企業においては、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとされています。
しかし、例えば、完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損について、企業が当該子会社を清算するまで株式を保有し続ける方針がある場合等、将来において税務上の損金に算入される蓋然性が低いときには、当該評価損に係る繰延税金資産の回収可能性はないと判断することも考えられます。
こうしたケースがあることを勘案し、本改正案では、(分類1)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性について、「原則として」の文言を追加することが提案されています。
③ 繰延税金資産および繰延税金負債の表示(税効果会計基準一部改正案第2項)
従来、繰延税金資産および繰延税金負債は、貸借対照表上、関連する資産・負債の分類に基づいて、流動項目・固定項目に区分して表示することとされていましたが、本公開草案においては、繰延税金資産は投資その他の資産の区分、繰延税金負債は固定負債の区分に表示することが提案されています。
本公開草案 | 改正前 |
---|---|
繰延税金資産は投資その他の資産の区分に表示し、繰延税金負債は固定負債の区分に表示する。 | 繰延税金資産および繰延税金負債は、これらに関連した資産・負債の分類に基づいて、繰延税金資産については流動資産または投資その他の資産として、繰延税金負債については流動負債または固定負債として表示しなければならない。 |
④ 注記事項の追加(税効果会計基準一部改正案第4項および第5項)
本公開草案では、税効果会計に関する注記事項として、以下のとおり、評価性引当額の内訳に関する情報および税務上の繰越欠損金に関する情報を追加して記載することが提案されています。
【追加して記載することが提案されている注記事項】
評価性引当額の内訳 | 税務上の繰越欠損金 |
---|---|
【数値情報】 繰延税金資産の発生原因別の主な内訳の注記にあたって、税務上の繰越欠損金の額が重要であるときは、評価性引当額の合計を、「税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額」と「将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額」に区分して記載する。 | 【数値情報】 税務上の繰越欠損金の額が重要であるときは、繰越期限別に以下の数値を記載する。
(連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表での記載は不要) |
【定性的な情報】 評価性引当額に重要な変動が生じている場合には、主な変動の内容を記載する。 (連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表での記載は不要) | 【定性的な情報】 税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合、当該繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由を記載する。 (連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表での記載は不要) |
なお、上記のうち、評価性引当額の内訳に関する数値情報以外の注記事項については、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表での記載は不要とすることが提案されています。
(2)見直しを行わなかった論点
⑤ 未実現損益の消去に係る税効果会計(税効果適用指針案第129項~第133項)
連結決算手続上の未実現損益の消去に係る税効果会計について、従来、資産負債法の例外として繰延法が採用されている点に関して、審議の過程では、国際財務報告基準(IFRS)や米国会計基準との整合性を図る観点から、資産負債法に変更するかどうかについての検討が行われました。
この点、資産負債法に変更する場合には、すでに売却側の企業で課税関係は完了しているものの、連結決算手続上、購入側の企業で繰延税金資産の回収可能性を検討する必要があるなど、当該変更により多大なコストが生じる可能性がある等の意見を踏まえ、現行の取扱いどおり、繰延法を継続して採用することが提案されています。
本公開草案では、適用時期および適用初年度の取扱いについて、以下のように提案されています。
【税効果会計基準一部改正案、税効果適用指針案、回収可能性適用指針案】
2018年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用する。
ただし、表示および注記に関する取扱いについては、公表日以後最初に終了する連結会計年度および事業年度の年度末に係る連結財務諸表および個別財務諸表から適用することができる。
【中間税効果適用指針案】
2018年4月1日以後開始する中間連結会計期間および中間会計期間の期首から適用する。
改正事項 | 適用時期 | 適用初年度の取扱い | 遡及処理 |
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個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い(税効果適用指針案第8項(2) |
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(分類1)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い(回収可能性適用指針案第18項) | |||
繰延税金資産および繰延税金負債の表示(税効果会計基準一部改正案第2項) |
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注記事項の追加(税効果会計基準一部改正案第4項および第5項) |
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以上
外部リンク:
ASBJ 企業会計基準公開草案第60号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正(案)」等の公表