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企業会計基準委員会(ASBJ)は、2024年9月13日、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」および企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」(以下、合わせて「新リース基準」という)を公表しました。
新リース基準は、日本基準を国際的に整合性のあるものとする取組みの一環として、借手のすべてのリースについて資産および負債を認識するリースに関する会計基準として開発が進められ、今般、公表されたものです。
我が国においては、国際的な会計基準との整合性を取る観点から、2007年3月、ASBJが企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」および企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(以下、合わせて「改正前リース基準」という)を公表しました。
しかしながら、2016年1月に国際会計基準審議会(IASB)より国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」(以下「、IFRS第16号」という)が公表されました。IFRS第16号では、借手の会計処理に関して、主に費用配分の方法が異なるものの、原資産の引渡しによりリースの借手に支配が移転した使用権部分に係る資産(使用権資産)と当該移転に伴う負債(リース負債)を計上する使用権モデルにより、オペレーティング・リースも含むすべてのリースについて資産および負債を計上することとされています。これに伴い、我が国の会計基準とは、主に負債の認識において違いが生じることとなり、国際的な比較可能性において議論となる可能性が指摘されていました。
こうした状況を踏まえ、ASBJでは、利害関係者から幅広く意見を聴取したうえで、借手のすべてのリースについて資産および負債を計上する会計基準の開発に着手することとし、公開草案の公表およびコメント募集を経て検討を重ねた結果、今般、新リース基準が公表されました。
新リース基準の公表に伴い、関連する会計基準等の改正として、ASBJおよび日本公認会計士協会(JICPA)から多数の改正が公表されています。
詳細はASBJウェブサイトおよびJICPAウェブサイトをご覧ください。
主な改正の内容は、以下のとおりです。
新リース基準では、借手は、IFRS第16号の定めと同様に、すべてのリース取引について使用権資産およびリース負債を計上することとしています。
すなわち、改正前リース基準におけるファイナンス・リースに加え、オペレーティング・リースも含むすべてのリースについて使用権資産およびリース負債を計上することとしています。これに伴い、借手ではファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分はなくなります。
新リース基準では、借手のリース期間について、IFRS第16号の定めと同様に、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間および借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間を加えて決定することとしています。このため、新リース基準の適用によって改正前リース基準よりもリース期間が長くなる場合があると考えられます。
借手は、借手が延長オプションを行使することまたは解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかを判定するにあたって、経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮することとし、例えば、次の要因が含まれます。
新リース基準では、借手は、改正前リース基準と同様、短期リースおよび少額リースについて、リース開始日に使用権資産およびリース負債を計上せず、リース期間にわたって費用処理できるとしています。
また、新リース基準では、改正前リース契約1件当たりの300万円基準に加えて、IFRS第16号の取扱いを踏まえて新品時の原資産の価値が5千米ドル程度以下のリースを基準とする選択も認められています。
新リース基準では、貸手の会計処理については、基本的に改正前リース基準の定めを維持しています。ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分も従来とおりとなります。
改正前リース基準では、貸手のファイナンス・リースについて以下の3つの方法の選択適用が認められていました。
新リース基準では、収益認識会計基準との整合性から、このうち②のリース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法が廃止されています。また、①と③の方法は選択適用ではなく、製造または販売を事業とする貸手が行うリースかどうかによって適用すべき方法を決定するとされています。
このほか、新リース基準では、貸手が事業の一環以外で行うリース(例えば、事業の一環ではない不動産のリース)の会計処理を明らかにするため、別途取使いを定めています。このようなリースは、リース開始日に売却損益を認識し、その後は③の方法と同様に会計処理されます。
改正前リース基準では、オペレーティング・リース取引は、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行うことのみを定めており、収益の計上方法に関する詳細な定めは存在しませんでした。
新リース基準では、収益認識会計基準との整合性を図り、貸手は、オペレーティング・リースによる貸手のリース料について、貸手のリース期間にわたり原則として定額法で計上することとしています。また、フリーレント(契約開始当初数か月間賃料が無償となる契約条項)やレントホリデー(例えば、数年間賃貸借契約を継続する場合に一定期間賃料が無償となる契約条項)等の無償賃貸期間が存在する場合の取扱いが明確化されています。
新リース基準では、貸手のリース期間について、以下のいずれかを選択できるとしています。
新リース基準では、リースの一般的な定義に加えて、リースの識別に関する定めが新たに設けられています。これにより、改正前リース基準により会計処理されていなかった契約にリースが含まれると判断される場合があると考えられます。
具体的には、リースの識別に関して主に次の定めが設けられています。
我が国では、建設工事請負契約と一括借上契約が同時に締結される取引などにおいて、収益が一定の期間にわたり認識される場合、セール・アンド・リースバック取引の定めが適用されるか否かについて論点になり得るとの意見があります。IFRS第16号においては、収益が一定期間にわたり認識される場合であってもセール・アンド・リースバック取引の定めが適用されるのか否かについて明確にされていません。
この点、新リース基準では、リースバックが行われる場合であっても、売手である借手による資産の譲渡が次のいずれかである場合、セール・アンド・リースバック取引に該当しないとされています。
また、売手である借手が原資産を移転する前に原資産に対する支配を獲得しない場合(例えば、取引の都合上、借手が貸手を通さずに資産を第三者から購入して当該資産を貸手に譲渡し当該貸手から原資産としてリースするような場合)についても、当該資産の移転と関連するリースバックについては、セール・アンド・リースバック取引に該当せず、リースとして会計処理を行うことが明確化されています。
新リース基準では、セール・アンド・リースバック取引について、以下のそれぞれについての会計処理が定められています。これらの会計処理は、改正前リース基準と異なりますが、米国会計基準を参考に定められており、IFRS第16号の定めとも異なっています。
次のいずれかを満たす場合、売手である借手は、当該資産の譲渡とリースバックを一体の取引とみて、金融取引として会計処理を行います。
上記①のいずれも満たさない場合、売手である借手は、資産の譲渡について収益認識会計基準などの他の会計基準等に従い当該損益を認識し、リースバックについて新リース基準に従い通常の借手の会計処理を行います。
ただし、この場合であっても、資産の譲渡対価が明らかに時価ではない場合または借手のリース料が明らかに市場のレートではない場合には、一定の調整が求められます。
新リース基準では、「サブリース取引」について、IFRS第16号と同様にヘッドリースとサブリースを2つの別個の契約として借手と貸手の両方の会計処理を行うとされています。
IFRS第16号においては、サブリース取引の会計処理に対する例外は設けられていませんが、新リース基準では、サブリース取引の例外的な定めとして、次の2つの場合の取扱いを定めることとしています。
新リース基準では、連結財務諸表と個別財務諸表の会計処理を同一とすることとしています。
新リース基準では、リースに関する注記における開示目的を、借手または貸手が注記において、財務諸表本表で提供される情報と合わせて、リースが借手または貸手の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローに与える影響を財務諸表利用者が評価するための基礎を与える情報を開示することと定めています。
また、開示目的を達成するためのリースに関する注記として、次の事項を示しています。
ただし、各注記事項のうち、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる注記事項については、記載しないことを認めています。
また、上記に掲げる注記事項以外であっても、開示目的の達成に必要な情報は、リース特有の取引に関する情報として注記する必要があるとされ、そのような注記事項の例も示されています。
なお、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表においては、特定の項目を注記しないことおよび連結財務諸表における記載を参照することを認めています。
リース負債については、「金融商品の時価等に関する事項」および「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」の注記が不要とされています。ただし、満期分析(返済予定額の合計額を一定の期間に区分した金額の注記)のみ、引き続き必要となります。
リース債権およびリース投資資産については、「金融商品の時価等に関する事項」の注記が引き続き必要となります。これには、満期分析も含まれます。しかし、「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」の注記は不要とされています。
賃貸等不動産の定義を満たす使用権資産については、賃貸等不動産の当期末における時価およびその算定方法の注記の対象外とされています。
新リース基準は、リースに関する会計処理および開示に適用します。ただし、次の場合を除きます。
新リース基準(関連する会計基準等の改正を含む)は、公表から原則的な適用時期までの期間を2年半程度とし、早期適用も認めることとしています。具体的には以下の通りです。
① 2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用
② ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用可
新リース基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用します(完全遡及アプローチ)。
ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することが認められています(修正遡及アプローチ)。
さらに、修正遡及アプローチを適用する場合には、適用初年度の期首における帳簿価額を決定するにあたって、IFRS第16号と同様に各種の経過措置が設けられています。
以上