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【会計情報トピックス】リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)のポイント
~ASBJが公開草案を公表~


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企業会計基準委員会(ASBJ)は、6月2日、実務対応報告公開草案第47号「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」(以下、「本公開草案」という)を公表しました。本公開草案は、平成28年度に導入が検討されている新たな確定給付企業年金制度である「リスク分担型企業年金」について、必要と考えられる会計処理および開示の取扱いを明らかにするために公表されたものです。


またこれに関連して、企業会計基準公開草案第58号「退職給付に関する会計基準(案)」(企業会計基準第26号の改正案)、企業会計基準適用指針公開草案第56号「退職給付制度間の移行等に関する会計処理(案)」(企業会計基準適用指針第1号の改正案)も併せて公表されています。



1 公表の経緯


リスク分担型企業年金は、将来の財政悪化リスクを事業主と加入者で柔軟に分け合うことができる新たな年金制度の仕組みとされています。2015年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2015」では、事業主が企業年金を実施しやすい環境を整備するため、将来の景気変動を見越した弾力的な運営が可能となる措置等について検討する旨が明記されていました。


現行の企業年金制度のうち、確定給付年金制度はあらかじめ給付額の算定方法が決まっているため、積立不足が生じた場合には、事業主が追加で掛金を拠出しなければならず、事業主の負担が大きいとの声がありました。一方、確定拠出年金制度は、あらかじめ拠出額の算定方法が決まっているため、事業主は定められた掛金以外に追加で拠出する必要はありませんが、運用が低調であった場合、従業員の年金額が減ることになります。


このように現行の企業年金制度は、運用悪化等に伴う将来的な財政負担が事業主または加入者のいずれかに偏っており、新たな年金制度の導入の必要性が指摘されていました。これを受けて、厚生労働省では現在、企業年金制度の普及・拡大等に向けた制度の見直しの一環として、リスク分担型企業年金制度の導入を進めています※1。リスク分担型企業年金は、柔軟で弾力的な給付設計であるハイブリッド型の企業年金とされていますが、現行の退職給付会計基準では、「確定給付年金制度」または「確定拠出年金制度」のいずれに該当するのかが必ずしも明確ではありません。このため、ASBJでは、当該年金制度に係る実務上の取扱いを明確にするため、本公開草案を公表したものです。


※1.厚生労働省は5月27日、「確定給付企業年金法施行令の一部を改正する政令案」に関する意見募集を実施している(6月26日締切)。


図表1:リスク分担型企業年金

  • 景気変動等に伴う積立不足に備えるため、将来的な財政悪化リスクを事前に想定し、あらかじめ労使合意により定められたリスク対応掛金を事業主が負担する。
  • 運用悪化等により積立不足が生じた場合には、リスク対応掛金により手当する。事業主は将来想定し得るリスクの一部を事前に負担することになるが、積立不足が発生した場合であっても、リスク対応掛金を超えた追加負担が求められることはない。
  • 一方で、加入者はリスク対応掛金を超える積立不足が生じた場合には、給付調整(給付水準の減少)を負うことになる。逆に積立余剰が発生した場合には、「財政悪化時に想定される積立不足」相当部分を留保した上で、給付水準の増加が行われる。

リスク分担型企業年金



2 本公開草案のポイント



(1)目的

本公開草案は、リスク分担型企業年金(確定給付企業年金法に基づいて実施される年金制度のうち、給付の額の算定に関して、調整率※2が規約に定められる企業年金制度)の会計処理および開示の取扱いを明らかにすることを目的とする

※2.確定給付企業年金法施行規則第25条の2に定める調整率であって、積立金の額、掛金額の予想額の現価、通常予測給付額の現価および財政悪化リスク相当額に応じて定まる数値。



(2)会計上の分類と会計処理

  • 確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金
  • リスク分担型企業年金のうち、企業の拠出義務が、制度導入時の規約に定められた掛金の拠出に限定され、企業が当該掛金の他に拠出義務を実質的に負っていない場合には、確定拠出制度に分類する(本公開草案第3項)。
  • 確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金については、規約に基づきあらかじめ定められた各期の掛金の金額を、各期において費用処理する(本公開草案第7項)。
  • 確定給付制度に分類されるリスク分担型企業年金
  • 確定拠出制度に分類されないリスク分担型企業年金については、確定給付制度に分類する(本公開草案第4項)。
  • 確定給付制度に分類されるリスク分担型企業年金については、退職給付会計基準等に基づいた確定給付制度の会計処理および開示に従う(本公開草案第20項)。
  • 分類の再判定
  • 確定拠出制度に分類されたリスク分担型企業年金については、制度の導入後、新たな労使合意に基づく規約の改訂の都度、会計上の分類の再判定を行う必要がある(本公開草案第5項)。


(3)退職給付制度間の移行に関する取扱い

  • 確定給付制度から確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金に移行する場合、確定拠出制度に分類される退職給付制度への資産の移管は、企業会計基準適用指針第1号「退職給付制度間の移行等に関する会計処理」に従い、退職給付制度の終了に該当するものとし、以下の会計処理を行う(本公開草案第9項・10項)。
① リスク分担型企業年金への移行の時点で、移行した部分に係る退職給付債務と、その減少分相当額に係るリスク分担型企業年金に移行した資産の額との差額を損益として処理する。② 移行した部分に係る未認識過去勤務費用および未認識数理計算上の差異は、損益として認識する。③ 移行の時点で規約に定める各期の掛金に特別掛金相当額が含まれる場合、当該特別掛金相当額の総額を未払金等として計上する。④ 上記①から③で認識される損益は、原則として特別損益に純額で表示する。


(4)開示

  • 確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金については、退職給付会計基準第32-2項に従い、以下の事項を注記する(本公開草案第12項)。
① 企業の採用するリスク分担型企業年金の概要② リスク分担型企業年金に係る退職給付費用の額③ 翌期以降に拠出することが要求されるリスク対応掛金相当額および当該リスク対応掛金相当額の拠出に関する残存年数


(5)適用時期

本公開草案は、公表日以後適用することとされています。



(6)コメント募集期限

コメントの募集期限は2016年8月2日です。



以上



外部リンク:
ASBJ 実務対応報告公開草案第47号「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」等の公表