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金融庁、「金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ報告」を公表

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金融庁は、2022年12月27日、「金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(以下、「本報告書」という)を公表しました。本報告書では、2022年10月以降、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(以下、「DWG」という)が4回にわたり、以下の事項について検討および審議を行った結果がとりまとめられています。

 

  • 四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング
  • サステナビリティに関する企業の取組みの開示

 

今後、四半期開示については、金融商品取引法その他関連法令を整備し、またサステナビリティ開示については、制度の整備に向けた必要な対応を進めることが期待されています。

 

 

経緯

 

 

金融庁は、2022年6月13日、「金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ報告-中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-」(以下、「2022年6月報告書」という)を公表しました。

 

2022年6月報告書は、昨今の経済社会情勢の変化等を踏まえ、2021年9月以降、計9回にわたり、非財務情報開示の充実と開示の効率化等について審議を行った結果を取りまとめたものでしたが、具体化に向けた課題や、サステナビリティ開示に関するロードマップ等については更なる検討が必要とされていました。本報告者は、これらの検討結果をとりまとめ、公表されたものです。

 

 

概要

 

Ⅰ.四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング

 

1.四半期開示の見直し

 

2022年6月報告書では、四半期開示について金融商品取引法上の四半期開示義務(第1・第3四半期)を廃止し、取引所規則に基づく四半期決算短信に「一本化」することが適切との考え方が示されていました。

 

この「一本化」の具体化に当たっては、信頼性を確保しつつ、投資判断における重要性が高まっている適時の情報開示に重点を置いた枠組みへと見直していくことも考えられる等の議論を踏まえ、以下の各論点について検討が行われました。

 

(1)四半期決算短信の義務付けの有無

 

四半期開示は、速報性と、比較可能性および信頼性を確保しながら、特定の期限までに、集約された財務情報が開示される枠組みであり、投資家および企業双方にメリットがあるという意見がある一方で、膨大な人的資源の投入を必要とし、企業に多大な事務負担をもたらしていることなどから、四半期開示の任意化を求める意見があるとされています。

 

本報告書では、日本企業の開示を巡る現状に照らして、経営戦略の進捗状況の確認としての意義、平均的な企業の開示姿勢への懸念や、開示の後退と受け取られることで日本市場全体の評価が低下する恐れなどに鑑みて、「当面は、四半期決算短信を一律に義務付ける」ことが提案されています。

 

将来的な四半期決算短信の任意化については、まず、企業の開示に対する意識の改善・向上や、企業が積極的に投資家へ充実した情報を提供するような市場環境の確立によって、投資家からの懸念を払しょくする必要があるとの考えから、今後、以下を踏まえた上で、幅広い観点から継続的に検討していくことが考えられるとしています。

 

  • 適時開示の充実の達成状況
  • 企業の開示姿勢の変化
  • 適時開示と定期開示の性質上の相違に関する意見等
 
(2)適時開示の充実

 

四半期開示の任意化を検討する前提として、適時開示の充実は重要な考慮要素となっていることから、企業の積極的な開示を促す観点から、本報告書では、以下の事項について提案されています。

 

  • 取引所による好事例の公表やエンフォースメントの強化
  • 取引所における適時開示ルールの見直し(細則主義から原則主義への見直し、包括条項における軽微基準の見直し)
  • 細則やインサイダー取引規制およびフェア・ディスクロージャー・ルールとの関係を踏まえた、適時開示ルールの見直しの検討
  • 重要な適時開示事項(例えば、重要な財務情報等)について臨時報告書提出の検討

 

なお、臨時報告書の提出については、重要な適時開示事項の範囲や将来情報が含まれる場合の取扱い、適時開示との重複を避けるためのワンストップ化に向けた制度上の整理やシステムとの連携、利用者および作成者の利便性の観点を踏まえた中期的な視点でのシステムのあり方の検討が考えられるとしています。

 

(3)四半期決算短信の開示内容

 

これまで、四半期決算短信は、その後に四半期報告書が開示されることを前提に、速報性の観点から開示内容が簡素化されてきた経緯があります。

 

このため、今回の見直しが情報開示の後退と受け取られないようにする観点から、原則として速報性を確保しつつ、投資家の要望が特に強い事項(セグメント情報、キャッシュ・フローの情報等)の開示を四半期決算短信に追加する方向で具体的に検討を進めることが示されています。

 

(4)四半期決算短信に対する監査人によるレビューの有無

 

これまで、四半期報告書には監査人によるレビューが求められてきましたが、「一本化」後の四半期決算短信については、速報性の観点等から、四半期決算短信における監査人によるレビューを一律には義務付けないこと、レビューを受けるかは任意とし、レビューの有無を四半期決算短信において開示することが提案されています。

 

他方、例えば、会計不正が起こった場合(これに伴い、法定開示書類の提出が遅延した場合を含む)、企業の内部統制の不備が判明した場合などは、取引所規則により一定期間、監査人によるレビューを義務付けることなどが提案されています。

 

(5)四半期決算短信の虚偽記載に対するエンフォースメント

 

四半期決算短信は取引所における開示書類のため、「一本化」後の四半期決算短信の虚偽記載に対するエンフォースメントについては、まず取引所でエンフォースメントをより適切に実施していくことが考えられるとしています。

 

四半期決算短信に対する法令上のエンフォースメントについては、半期報告書および有価証券報告書において法令上のエンフォースメントが維持されるため、現時点では不要とすることが提案されています。ただし、意図的で悪質な虚偽記載が行われた場合には、現行でも金融商品取引法上の罰則の対象となると考えられます。

 

なお、将来的に、重要な適時開示事項(例えば、重要な財務情報等)を臨時報告書の提出事由とする場合には、四半期決算短信に含まれる情報も重要な適時開示事項に含め臨時報告書の提出事由とすることを検討していくことが示されています。

 

(6)半期報告書および中間監査のあり方

 

金融商品取引法において、第1・第3四半期報告書を廃止した後、上場企業は、開示義務が残る第2四半期報告書を、同法上の半期報告書として提出することとなります。この場合において、上場企業と投資家のこれまでの実務への配慮や、半期の財務諸表に対する保証の国際的な整合性の観点から、上場企業の半期報告書は、現行と同様、第2四半期報告書と同程度の記載内容と監査人のレビューを求め、提出期限を決算後45日以内とすることが提案されています。

 

(7)その他の論点

 

その他の論点として、会計基準・監査基準の整備および公衆縦覧期間の延長について触れられています。会計基準・監査基準の整備に関しては、実務的な混乱を避ける観点から、四半期会計基準や四半期レビュー基準について、金融庁、企業会計基準委員会(ASBJ)、取引所、日本公認会計士協会等の関係者において、今回の見直しに伴う必要な対応を行うことが考えられるとしています。

 

また、公衆縦覧期間の延長に関しては、金融商品取引法を改正し、半期報告書および臨時報告書の公衆縦覧期間を、有価証券報告書の公衆縦覧期間および虚偽記載に対する課徴金の除斥期間である5年間へ延長する考えが示されています。

 

 

Ⅱ.サステナビリティ開示に関する企業の取組みの開示

 

1.サステナビリティ開示を巡る国際的な動向と我が国における対応
 
(1)国際的な動向と我が国における今後の議論

 

2022年6月報告書では、サステナビリティ情報の重要性の急速な高まりを踏まえ、有価証券報告書にサステナビリティ情報の「記載欄」を新設すべきであると提言されていました。また、国内の開示基準設定主体の役割の明確化や、サステナビリティ情報に対する保証のあり方、企業や投資家の実務的準備に資するロードマップについて、更なる検討を進める必要があるとされていました。

 

2022年7月には、サステナビリティ開示について、国際的な意見発信や、具体的開示内容(「開示基準」)の検討を行うことを目的とする、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が正式に設立され、我が国における開示基準の検討を行っています。

 

国際的には、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が公表したサステナビリティ開示基準(S1およびS2)案を2023年前半に最終化することを目指して、公開草案後の議論を行っています。また、欧州では、2021 年4月に公表した企業サステナビリティ報告指令(CSRD)案が2022年 11 月に最終化されています。CSRDに基づく具体的な開示基準である欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)案が、2022年 11 月に欧州委員会(EC)に送付され、更なる検討が進められています。米国では、証券取引委員会(SEC)が2022年3月に気候関連開示を義務化する規則案を公表して市中協議を行い、検討が進められています。

 

このように、国際的にサステナビリティ開示に関する基準策定の議論が進んでいる中、国際的に整合性を図りつつ、全体として充実したサステナビリティ開示を着実に進めていくことが重要であるとされ、この観点から、国内の開示基準の検討や有価証券報告書への取込み、保証のあり方の議論、これらを支える人材育成等が必要であるとされています。

 

(2)我が国におけるサステナビリティ開示基準

 

ISSBは、開発中のサステナビリティ開示基準案を2023年前半に最終化することを目指していますが、我が国では、ISSBにおける基準開発の方向性を見据えながら、国内の開示基準の開発に向けた議論を進めていくことが重要であるとしています。最終的に全ての有価証券報告書提出企業が必要なサステナビリティ情報を開示することを目標としつつ、今後、円滑な導入の方策を検討していくこと、またその際には、法定開示である有価証券報告書には、国内において統一的に適用しうる開示基準を策定して取り込んでいくことが考えられるとしています。

 

2.サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の役割や開示基準の位置け

 

今後、ISSBにおける基準開発の方向性を見据えながらサステナビリティ情報に関する我が国の開示基準を開発し、これを法定開示である有価証券報告書に取り込んでいく場合には、我が国の開示基準設定主体や当該開示基準設定主体が開発する開示基準を、金融商品取引法令の枠組みの中で位置づけることが重要であるとしています。

 

今後、必要となる関係法令の整備を行うとともに、SSBJが開発する開示基準を個別の告示指定により国内の「サステナビリティ開示基準」として設定することで、サステナビリティ開示の比較可能性を確保しつつ、投資家に有用な情報を提供していくことが重要であるとしています。

 

3.サステナビリティ情報に対する保証のあり方

 

サステナビリティ情報に対する第三者による保証については、国際的には、欧州や米国において限定的保証から導入し、合理的保証に移行するアプローチが提案されているほか、監査・保証に関する国際的な基準設定主体である国際監査・保証基準審議会(IAASB)では、基準開発に向けた審議が開始されており、今後、2023年9月までに基準の公開草案を承認し、 2024年12月から 2025年3月の間に最終化することが予定されています。

 

有価証券報告書において、我が国の開示基準に基づくサステナビリティ情報が記載される場合には、法定開示において高い信頼性を確保することに対する投資家のニーズや、国際的に保証を求める流れであることを踏まえて、将来的に、当該情報に対して保証を求めていくことが考えられるとしています。

 

この点、サステナビリティ情報について、その外縁が拡張し続けている中、どの範囲に保証を求めるか検討する必要があるとしています。また、有価証券報告書のサステナビリティ情報に対して保証を求める場合には、金融商品取引法において規定する必要があるとされています。保証の担い手については、財務情報との結合性(コネクティビティ)を踏まえると、財務諸表の監査業務を行っている公認会計士・監査法人によって担われることが考えられるとしていますが、サステナビリティというテーマが広範であり、多様な専門性を必要とする領域であることを踏まえると、保証の担い手を広く確保することも重要であることが示されています。

 

担い手の要件については、独立性や高い専門性、品質管理体制の整備、当局による監督対象となっていることが考えられ、特に保証の担い手を法制度の中で位置付けることにより、保証業務の一定の品質を確保し、必要な場合にはサンクションを設けておくことや、当局の監督対象とすることが考えられるとしています。

 

保証基準および保証水準については、我が国の開示基準が、国際的な開示基準と整合的なものとなることを目指していることを踏まえると、サステナビリティ情報に対する保証についても、国際的な保証基準と整合的な形であることが、比較可能性の確保に資するとしています。

 

4.ロードマップ

 

サステナビリティ開示については、企業や投資家における予見可能性を高め、実務的な準備を確実に進める観点から、「我が国におけるサステナビリティ開示のロードマップ」が示されていますが、国際的な動向が流動的であることを踏まえ、将来の状況変化に応じて随時見直しすることを前提とするとされています。

 

上記ロードマップに沿って、我が国のサステナビリティ開示基準の開発やその法定開示への取込み、サステナビリティ情報に対する保証のあり方の議論やサステナビリティに係る人材育成の取組みを進めることで、サステナビリティ開示の充実を着実に進めることが期待されるとしています。

 

以上

 

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