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【会計情報トピックス】IASB、IAS第12号の狭い範囲の修正「未実現損失に関する繰延税金資産の認識」を公表


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サマリー
  • IASBは、2016年1月19日、IAS第12号「法人所得税」の修正「未実現損失に関する繰延税金資産の認識」を公表した。本修正では、公正価値で測定される負債性金融商品に未実現損失が発生している場合における繰延税金資産の認識について、IAS第12号での取扱いを明確化するため設例を追加しているほか、以下の論点について規定を明確化している。
    • 元本が満期に支払われる固定金利の負債性金融商品が公正価値で測定され、取得原価を下回る場合(税務基準額は取得原価)の未実現損失は、将来減算一時差異を生じさせる(第26項(d))。
    • 将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性を判断する際、将来の課税所得の見積りには、当該将来減算一時差異の解消により生じる税務上の損金算入額は含めない(第29項(a))。
    • 将来の課税所得には、可能性の程度に応じて帳簿価額を超えて回収することが見込まれる金額が含まれる(第29A項)。
    • 将来減算一時差異の利用が税法上制限されている場合には、その範囲内で当該利用の判断を行う(第27A項)。
  • 本修正は、2017年1月1日以降に開始する事業年度から遡及適用される。なお早期適用も認められている。


1. 修正の背景


【現行基準】


現行のIAS第12号では、将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性の判断について、以下のように定めている。


  • 繰延税金資産は、将来減算一時差異を利用できる課税所得が生じる可能性が高い範囲内でのみ認識する(第24、27項)。
  • 十分な将来加算一時差異があり、将来減算一時差異の解消が予測される期間と同一期間に解消すると見込まれる場合には、将来減算一時差異を利用できる課税所得が生じる可能性が高いといえる(第28項)。
  • また、十分な将来加算一時差異がない場合には、将来減算一時差異の解消する時期に十分な課税所得を得る可能性が高い場合、もしくはタックスプランニングが可能な場合には、その範囲内で繰延税金資産を認識する(第29項)。

【論点】

しかしながら、公正価値で測定される負債性金融商品に未実現損失が生じている場合の繰延税金資産の認識について、IAS第12号の規定が明確でなく、実務上の取扱いが統一されていないとの指摘がなされていた。
具体的には、元本が満期に支払われる固定金利の負債性金融商品の公正価値が取得原価を下回る場合(税務基準額は取得原価)、当該未実現損失は将来減算一時差異を生じさせるのか、特に当該負債性金融商品を満期まで保有することにより契約上のキャッシュフローのすべてを受け取る可能性が高い場合に、将来減算一時差異を生じさせるのかについて実務上の解釈が分かれていた。このため、これら論点に対処すべく現行規定を明確化するため、2014年8月20日に公開草案が公表されていたものである。



2. 修正内容


(1)負債性金融商品の未実現損失に係る将来減算一時差異


売却可能金融資産に分類される負債性金融商品は、その他の包括利益(OCI)を通じて公正価値で測定されるが、市場金利の変動により元本が満期に支払われる固定利付債券の公正価値が下落し未実現損失が生じている場合(税務上は取得価額のまま)、当該未実現損失に係る繰延税金資産の認識について多様な見解があった※1


※1. 現行実務では、例えば毎年利息が支払われる固定利付債券の場合、満期時の元本の支払は課税所得を増減させないため、公正価値と税務上の簿価との差額は、満期まで保有することにより解消され、将来減算一時差異を生じさせないとする見解も見られた。


この点、IAS第12号は、公正価値で測定される資産の帳簿価額とそれより高い税務基準額との差額は、将来減算一時差異を生じると定めている(第20項、第26項(d))。このため本修正では、公正価値で測定され、元本が満期に支払われる固定金利の負債性金融商品の未実現損失は、将来減算一時差異を生じさせることを明確化し、IAS第12号の原則の適用を例示する設例を設けている(第26項(d)設例)。これは、元本の回収を満期まで保有することにより見込んでいるのか、あるいは売却することにより見込んでいるのか、さらには発行者が契約上のキャッシュフローのすべてを支払う可能性が高いかどうかに関係なく適用されるとしている(BC43項)。また将来減算一時差異の有無は、貸借対照表日における資産の帳簿価額と税務基準額との差額によってのみ判断され、またそれは資産の帳簿価額の将来的な変動の可能性に影響されないことも明確化されている(BC42項)。



(2)将来の課税所得と将来減算一時差異の損金算入額


将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性を判断する際、将来の課税所得の見積りには、当該将来減算一時差異の解消により生じる税務上の損金算入額は含めないことを明確化している(第29項(a))。


将来減算一時差異と比較する将来の課税所得の見積りに際して、当該将来減算一時差異に係る税務上の損金算入額を含めるのか、除外するのかについて明確でないとの指摘があった。本修正では、将来の課税所得の見積りにおいて、将来の損金には将来減算一時差異の解消分も含まれるため、それらの損金算入額を除外しないと、二重に計算されるとしている(BC56項)



(3)将来の課税所得と帳簿価額を超えて回収が見込まれる資産


将来の課税所得の見積りにあたって、資産の帳簿価額を超えて回収することが仮定できるのかについて解釈が分かれていた。例えば、公正価値で測定される負債性金融商品に係る将来減算一時差異について、満期まで保有することにより契約上のキャッシュフロー全体を回収することができる場合などに論点となる。この点、本修正では、将来の課税所得には可能性の程度に応じて、帳簿価額を超えて回収することが見込まれる金額が含まれることを明確化している(第29A項)。



(4)将来減算一時差異の利用が制限されている場合


本修正では、将来の課税所得の見積りにあたっては、原則としてそれぞれの将来減算一時差異を合算して評価する一方、将来減算一時差異の利用が税法上制限されている場合には、その利用できる範囲内で別個に評価することを明確化している(第27A項)。


例えば、税法上、キャピタルロスの相殺をキャピタルゲインに限定されている場合には、当該キャピタルロスに係る将来減算一時差異の評価は他の将来減算一時差異とは別個に行うことになる。



【発効日と経過措置】


本修正は、2017年1月1日以降開始する事業年度から適用される。早期適用は認められるが、その場合はその旨開示しなければならない。また本修正はIAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従って遡及適用しなければならない。ただし、経過措置として、期首資本勘定の変動については、利益剰余金およびその他の資本の内訳項目への配分はせず、利益剰余金(または他の内訳項目)で認識することも認められるが、その場合にはその旨を開示しなければならない(第98G項)。初度適用企業に対しては、当該経過措置は適用されない。


以上


外部リンク:

・IASB

IASB issues narrow-scope amendments to IAS 12 Income Taxes
IAS 12 Income Taxes: Recognition of Deferred Tax Assets for Unrealised Losses

・ASBJ

IASBがIAS第12号「法人所得税」の狭い範囲の修正を公表