KNOWLEDGE & TOPICS ナレッジ&トピックス
ナレッジ&トピックス
「『日本再興戦略』改訂2014」(2014年6月)において明記された「IFRSの任意適用企業の拡大促進」方針に基づき、金融庁、企業会計審議会は、2015年4月15日、「IFRS適用レポート」(以下、「本レポート」という)を公表した。本レポートは、IFRSの任意適用の積上げを図る政府方針の取組みの一環として実施されたもので、IFRS任意適用企業(適用予定企業を含む。以下同様。)に対し実態調査・ヒアリングを実施し、IFRSへの移行に際しての課題への対応やメリットなどをとりまとめ、IFRSへの移行を検討している企業の参考とするために公表されたものである。
【実態調査の対象・方法】
調査対象:IFRSを任意適用した企業40社および任意適用を予定している企業29社の計69社(なお、2015年3月末時点のIFRS任意適用企業は75社)
調査方法:質問調査票の送付(回答企業65社、回収率94.2%)および回答企業65社のうち28社に対する直接ヒアリング
図表1は、IFRS任意適用の決定理由または移行前に想定したメリットについての回答結果である。
【図表1.IFRSの移行理由または移行前に想定していた主なメリット】
項目 | 回答数※ | 割合 | |
---|---|---|---|
① 経営管理への寄与 | 29社 | 44.6% | |
② 比較可能性の向上 | 15社 | 23.1% | |
③ 海外投資家への説明の容易さ | 6社 | 9.2% | |
④ 業績の適切な反映 | 6社 | 9.2% | |
⑤ 資金調達の円滑化 | 5社 | 7.7% | |
⑥ その他 | 4社 | 6.2% |
※質問・回答は項目から選択する形で実施された。「回答数」は各項目を1位に選択した企業数。
今回の調査では、IFRSへの移行理由として、「経営管理への寄与」を最大のメリットとして挙げる企業が一番多かった。この点について、これらの企業は、単に海外子会社等を通じた会計基準の統一だけに留まらず、IFRSを用いてグローバルベースの統一した業績の測定・管理、財務の透明性の高度化を目指していることが明らかになった。また、②については、競合相手が世界各地に存在する企業や同業他社が先行してIFRSに移行している企業などにおいて、投資家にとっての比較可能性の向上やIR上の利便性の向上、さらには自社が他社との比較可能性を高めることによる経営管理面のメリットを目的としていることが明らかになった。
本レポートでは、IFRS移行時の課題への対応について、3つのポイントを取り上げている。
(1)移行プロセスと社内体制
本レポートに基づいて、IFRSへの移行プロジェクトを初期・中期・後期に分けた場合の主な業務内容と社内体制を図表2に示す。いずれにしても、回答例を踏まえると、プロジェクト遂行には経営トップや経理部門だけではなく事業部門等を含めた全社的な取組みが重要となり、一体としてプロジェクトを進める態勢整備が肝要となる。
【図表2.IFRSへの移行プロジェクトにおけるフェーズ別の主な業務内容と社内体制】
フェーズ | 主な業務内容 | 社内体制 |
---|---|---|
初期 |
|
|
中期 |
|
|
後期 |
|
|
(2)移行コストおよび移行期間
移行コストは、企業規模およびシステム構築方針、そしてIFRS導入の目的・メリットとして何に重点を置くかに影響される。例えば、IFRS導入の目的・メリットとして「経営管理の高度化」に重点が置かれる場合には、IFRS導入を契機としてシステムの全面改修までが行われる傾向にあるが、「同業他社との比較可能性」や「投資家への説明の容易さ」等に重点が置かれる場合には、システム対応において連結仕訳の調整のみ、または連結仕訳の調整中心となるため、全体のコストは大きく変わってくる。また、移行期間の長短については、システム対応に要する期間に大きく影響される。
(3)会計項目への対応と監査対応・人材育成
IFRS移行時の課題として、多くの企業が、「特定の会計基準への対応」、特に減価償却や減損といった見積り要素の強い項目の会計処理を挙げている。監査法人の対応については、企業実態に応じた柔軟性や迅速性・円滑性に欠けるという意見が多数あり、また人材の育成および確保については、IFRSに精通した人材の確保という質的な課題とIFRS適用に必要となる業務量に応じた人員の不足という量的な課題が挙げられている。今後、こうした課題は適用企業数の拡大により解消していく側面もあると考えられるが、会計人材の裾野の一層の拡大が期待される。
外部リンク:IFRS適用レポートの公表について