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【会計情報トピックス】平成27年3月期決算の留意事項


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平成27年3月期決算では、退職給付会計基準の改正項目のうち、退職給付債務等の計算方法および割引率に関する取扱いが原則適用となる。また平成27年度税制改正の公布に応じて、税効果会計に与える影響も考慮する必要があるほか、改正企業結合会計基準の早期適用も可能となる。以下、本稿では、平成27年3月期における決算上の留意事項についてポイントを解説する。


Ⅰ.退職給付会計関連


平成24年5月、退職給付に関する会計基準が改正され、企業会計基準委員会(ASBJ)より企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」(以下、「退職給付会計基準」という)および企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」(以下、「退職給付適用指針」という)が公表された。当該改正は、変更項目によって適用開始時期が異なっている。以下では、平成26年3月期適用の未認識数理計算上の差異等の処理方法の変更に伴う適用2期目の対応および平成27年3月期の期首から適用となる退職給付債務等の計算方法についてまとめている。


図表1 未認識項目の即時認識(適用2年目の対応)

項目留意事項退職給付
会計基準
退職給付
適用指針
未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用の即時認識(連結のみ)未認識項目の即時認識は、連結財務諸表のみに適用されるが、適用初年度については、その他の包括利益を通さないで、直接純資産の部のその他の包括利益累計額に計上するものとされていた。適用2年目となる平成27年3月期については、その他の包括利益を通して、純資産の部のその他の包括利益累計額に計上することになる点に留意が必要である。13項
15項
24項
25項
(1)未認識項目の即時認識
  • 未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用は、税効果を調整した上で、その他の包括利益「退職給付に係る調整額」を通じて、純資産の部のその他の包括利益累計額「退職給付に係る調整累計額」に計上する。
  • 退職給付債務と年金資産の差額を「退職給付に係る負債」(または「退職給付に係る資産」)として計上する。
  • 連結子会社に少数株主が存在する場合には、親会社持分相当額をその他の包括利益累計額に計上し、少数株主持分相当額は少数株主持分に計上する。
  • また持分法適用会社の未認識項目については、投資会社の持分相当額のみを投資会社株式の増減として処理し、その他の包括利益については、「退職給付に係る調整額」ではなく、「持分法適用会社に対する持分相当額」などとして一括して区分表示する。ただし、連結貸借対照表上は「退職給付に係る調整累計額」に含めて表示する。
(2)組替調整
未認識項目について、個別財務諸表は遅延認識を継続適用する一方、連結財務諸表上では即時認識するため、その他の包括利益累計額に計上されている未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用のうち、当期に費用処理された部分については、その他の包括利益の調整(組替調整)を行うことになる。
(3)注記
未認識項目の即時認識の適用2期目では、その他の包括利益に計上された数理計算上の差異および過去勤務費用の内訳を「退職給付に関する注記」として記載することになる。注記に当たっては、当期発生額だけでなく費用処理に係る組替調整による計上額の合計を記載する。また、当該内訳は税効果控除前の数値を記載することになる点に留意が必要である。
30項58項
開示例1

図表2 退職給付債務の計算方法等(適用初年度)

項目留意事項退職給付
会計基準
退職給付
適用指針
退職給付債務および勤務費用の計算方法(1)適用時期
  • 退職給付債務および勤務費用の計算方法の変更については、平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する。
  • なお、平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首からの適用が実務上困難な場合には、所定の注記を条件に、平成27年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することができる。
  • 適用初年度の取扱いとして、過去の期間の財務諸表に対しては遡及処理しない。
  • また、適用に伴って生じる会計方針の変更の影響額については、期首の利益剰余金に加減する。
35項
37項
(2)退職給付見込額の期間帰属方法
  • 退職給付見込額の期間帰属方法として、期間定額基準と給付算定式基準の選択適用可能とする。期間定額基準を採用していた場合であっても、適用初年度期首において給付算定式基準を選択することができる。当該期間帰属方法の変更によって生じた退職給付債務の変動は、期首の利益剰余金に加減する。
  • 給付算定式基準による場合、勤務期間の後期における給付算定式に従った給付が、初期よりも著しく高い水準となるときは、当該期間の給付が均等に生じるとみなして補正した給付算定式に従う。
19項
38項
11項
12項
13項
(3)割引率
割引率は、退職給付支払ごとの支払見込期間を反映するものでなければならない。割引率は期末における安全性の高い債券の利回りを基礎として決定する。当該割引率としては、例えば、退職給付の支払見込期間および支払見込期間ごとの金額を反映した単一の加重平均割引率を使用する方法や退職給付の支払見込期間ごとに設定された複数の割引率を使用する方法が含まれる。
20項
65項
注8
24項
30項
設例3
割引率等の計算基礎については、重要な変動が生じていない場合には、見直さないことができる。割引率に関する重要性基準(10%)の判定の結果、重要な影響を及ぼすと判断した場合には、見直しの上、期末の割引率を用いて再計算する。
割引率変更の要否について、適用初年度期首においては重要性基準を考慮せずに、改正後の基準により算定した新しい割引率を使用する場合、当該変更により生じた退職給付債務の差額は、本来数理計算上の差異に含めて処理されると考えられる。しかし、適用初年度の期首に関しては、新基準適用に伴う会計方針の変更の影響額に含めて、期首の利益剰余金に加減する取扱いが認められる。



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Ⅱ.税効果会計関連


1.法定実効税率の変更等※1

平成27年1月14日に「平成27年度税制改正の大綱」が閣議決定され、同年2月17日に平成27年度税制改正に係る法律案が国会に提出されている。同法案では、法人税率の引下げおよび資本金1億円超の法人の事業税率(所得割)の引下げと地方法人特別税率を引上げる内容が盛り込まれている。これらの改正を反映した税制改正法案が国会で成立し、平成27年3月31日までに公布された場合、税効果会計の実効税率は期末日現在で確定している税率に基づいて算定されるため、改正後の税率を用いることに留意する必要がある。具体的な算定方法等については、本サイト2015年3月20日付けのトピックスを参照されたい。

【参考】:ASBJ、「平成27年度税制改正に伴う税効果会計の適用における法定実効税率の検討」の公表


事業税率(所得割)の引下げと地方法人特別税率の引上げは、平成27年4月1日以後に開始する事業年度と平成28年4月1日以後に開始する事業年度の2段階にわたって行われる。繰延税金資産または繰延税金負債の金額は、回収または支払が見込まれる期の税率に基づいて計算されることになるため、一時差異等の解消時期によって適用される法定実効税率が異なることに留意が必要である。
また、今回の税制改正では、法人税率の引下げに伴う代替財源として、大法人の欠損金の繰越限度額を現行の80%相当額から段階的に引下げることが予定されている※2。また、平成29年4月1日以後に開始する事業年度において生じた欠損金額について、繰越期間を10年(現行9年)に延長することが予定されている。期末に税務上の繰越欠損金がある場合は、「その繰越期間内にわたって将来加算一時差異の解消見込額および課税所得の見積額を限度として、それに係る繰延税金資産を計上する」(監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」3)ことになるため、繰越欠損金に係る税効果会計については、改正内容に基づいたスケジューリングを行い、繰延税金資産の回収可能性を判断する必要がある。


※1. ここで記述している内容・税率は税制改正大綱に基づいているため、実際の適用に際しては、政省令を含めた改正条文の確認が必要である。※2. 平成27年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する繰越控除をする事業年度については、その繰越控除前の所得の65%相当額とし、平成29年4月1日以後に開始する事業年度については、その繰越控除前の所得の50%相当額となる見込みである。


2.注記

税率変更により繰延税金資産および繰延税金負債の金額が修正された場合には、その旨と修正額を注記することになる(連結財務諸表規則15条の5第1項3号、財務諸表等規則8条の12第1項3号)。なお、公布日が期末日後である場合においても、開示後発事象として、その内容およびその影響を注記することになるので留意が必要である(税効果会計に関する会計基準第四4、連結財務諸表規則15条の5第1項4号、財務諸表等規則8条の12第1項4号)。



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Ⅲ.企業結合会計関連


平成25年9月13日、ASBJは企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(以下、「企業結合会計基準」という)および企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」(以下、「連結会計基準」という)を改正した。本改正は、平成27年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用となるが、平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首から早期適用することができる。改正に伴う大きな変更は、非支配株主(改正前の少数株主)との取引(子会社株式の追加取得・一部売却)について、改正前の損益取引から改正後は資本取引、すなわち資本剰余金とする点である。
子会社株式を追加取得した場合、改正前は、親会社の追加取得持分と追加投資額との差額は、のれん(または負ののれん)として処理していたが、改正後は、当該差額を資本剰余金として処理するものとされた。また、改正前は、子会社株式を一部売却した場合(支配関係が継続している場合に限る)には、売却による親会社持分の減少額と投資の減少額との差額は、子会社株式の売却損益の修正として処理していたが、改正後は、売却による親会社持分の減少額と売却価額との差額を、資本剰余金として処理するものとされている。以下では、支配が継続している場合の子会社株式の追加取得または一部売却および関連する主要論点についてまとめている。


図表3 企業結合関係(早期適用)

項目留意事項会計基準※3実務指針※3
適用時期等
  • 平成25年9月改正の企業結合会計基準、連結会計基準、事業分離等会計基準は、平成27年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する。
  • ただし、平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首から早期適用することができる。早期適用する場合には、表示方法の変更(当期純利益の表示および少数株主持分から非支配株主持分への表示変更)を除き、同時に改正された上記会計基準を全て適用する必要がある。
  • 適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取扱う。
  • 適用に当たっては、非支配株主との取引について、過去の期間のすべてに新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の期首時点での累積的影響額を、適用初年度の期首の資本剰余金および利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用する。
  • ただし、上記の定めによらず、新たな会計方針を適用初年度の期首から将来にわたって適用することも容認されている。
企58-2項
連44-5項
事57-4項
子会社株式の追加取得子会社株式を追加取得した場合には、追加取得した株式に対応する持分を非支配株主持分から減額し、追加取得により増加した親会社持分を追加投資額と相殺消去するが、追加取得持分と追加投資額との間に生じた差額は、資本剰余金とする。連28項
子会社株式の一部売却子会社株式を一部売却した場合(支配関係が継続している場合に限る)には、売却した株式に対応する持分を親会社持分から減額し、非支配株主持分を増額するが、売却による親会社持分の減少額と売却価額との間に生じた差額は、資本剰余金とする。連29項
一部売却に伴う法人税等
  • 子会社株式の一部売却において、関連する法人税等(子会社への投資に係る税効果の調整を含む)は、資本剰余金から控除する。
  • 子会社への投資を一部売却した場合、売却により生じた親会社の持分の減少額と売却価額との差額に係る法人税相当額について、連結仕訳上「法人税、住民税および事業税」を相手勘定として資本剰余金から控除する。
  • 資本剰余金から控除する法人税等相当額は、売却元の課税所得や税金支払額にかかわらず、原則として、親会社の持分変動による差額に法定実効税率を乗じて算定する。
連注9(2)連税指針
39項
一部売却に伴うのれんのれんが計上されるのは支配を獲得した時点ということになり、支配関係が継続している場合は、親会社の持分に変動があったとしても、支配獲得時に計上したのれんの未償却額は減額しない。このため、一部売却して持分が減少したとしても、当初支配獲得した持分に対応するのれんの償却額は、親会社株主に帰属する当期純利益に全額計上することになる。連結指針
44項
連結指針66-3項
資本剰余金の取扱い資本剰余金が負の値となる場合には、期末において資本剰余金をゼロとし、当該負の値を利益剰余金から減額する。連30-2項
複数の取引が一つの企業結合等を構成している場合の取扱い
  • 子会社株式を段階的に取得する場合や売却する場合においても、複数の取引が1つの企業結合等を構成している場合には、それらを一体として取扱う。
  • 複数の取引が一体として取扱われる場合、支配獲得後に追加取得した持分に係るのれんについては、支配獲得時にのれんが計上されていたものとして算定し、追加取得時までののれんの償却相当額を追加取得時に一括して費用として計上する。
連結指針7-3項
連結指針7-4項
連結キャッシュ・フロー計算書の表示
  • 連結範囲の変動を伴う子会社株式の取得または売却に係るキャッシュ・フローは、「投資活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載する。
  • 連結範囲の変動を伴わない子会社株式の取得または売却に係るキャッシュ・フローは、非支配株主との取引として「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載する。
連CF指針
8-2項
連CF指針
9-2項

※3. 略称は次の通り。企:企業結合会計基準、連:連結会計基準、事:事業分離等に関する会計基準、連結指針:連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針、連税指針:連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針、連CF指針:連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針


今回の企業結合会計基準の改正に伴い、関連する他の基準や実務指針等についても多岐にわたる改正が行われている。したがって、早期適用等に当たっては、各社の連結財務諸表および個別財務諸表に与える影響について十分な確認が必要であると考える。



以上