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「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」の第9回会議が、2015年3月5日、金融庁において開催され、「コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」(以下「本コード原案」という)が確定・公表された。これは昨年12月17日よりパブリックコメントを募集していた「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)」について、寄せられた意見等を踏まえて、今般、正式決定されたものである。パブリックコメントでは、和英両文で121の個人および団体から意見提出がなされたが、若干の文言修正等があるのみで、コードの内容自体に大きな変更はなされていない。以下、本コード原案の概要等について紹介する。
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2013年6月に閣議決定された「日本再興戦略」を踏まえ、2014年2月に「日本版スチュワードシップ・コード」(以下、「スチュワードシップ・コード」という)が策定・公表され、実施に移されている。また、2014年6月には、会社法改正案が可決・成立し、社外取締役を選任しない場合における説明義務に関する規定なども盛り込まれている。
このように、我が国のコーポレートガバナンスを巡る動きは、近年加速しているが、2014年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014」では、新たに「コーポレートガバナンス・コード」を策定する旨の施策が盛り込まれた。これを受け、金融庁・東京証券取引所(以下、「東証」という)を共同事務局とする「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」(以下、「本有識者会議」という)が設置され、2014年8月から9回にわたる議論を経た上で、今般、本コード原案として取りまとめられた。
なお、本有識者会議では「OECDコーポレート・ガバナンス原則」の内容に沿って議論が進められた。そのため本コード原案は同原則の趣旨を踏まえたものとなっている。
今後は、東証において、関連する上場規則等の改正を行うとともに、本コード原案をその内容とする「コーポレートガバナンス・コード」を制定することが予定されている。
成長戦略の一環として策定された本コード原案は、「コーポレートガバナンス」を「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」と定義し、このような仕組みを通じて、いわば「攻めのガバナンス」を実現することを目指している。
本コード原案には、株主等のステークホルダーに対する責務を踏まえ、一定の規律を求める項目も含まれているが、これらを事業活動に対する制約と捉えることは適切ではないとし、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則が盛り込まれている。このような観点から、本コード原案は、会社におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止といった側面を過度に強調するのではなく、むしろ健全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることに主眼を置いている。
また、本コード原案は、中長期の投資を促す効果をもたらすことをも期待している。中長期保有の株主を会社にとって重要なパートナーとなり得る存在と捉え、スチュワードシップ・コードに基づいた建設的な「目的を持った対話」によって、一層の充実を図ることが可能であるとしている。その意味において、本コード原案とスチュワードシップ・コードとは、いわば「車の両輪」とし、両者が適切に相まって実効的なコーポレートガバナンスが実現されることが期待されている。
本コード原案は、それぞれの会社が自らの置かれた状況に応じて適用すべきものとされ、「ルールベース・アプローチ」(細則主義)ではなく、「プリンシプルベース・アプローチ」(原則主義)が採用されている。
また、法令とは異なり、法的拘束力を有する規範ではなく、「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明するか)の手法を採用している。すなわち、本コード原案の中に、個別事情に照らして実施することが適切でないと考える原則があれば、それを「実施しない理由」を十分に説明することにより、一部の原則を実施しないことも想定されている。全ての原則を一律に実施しなければならない訳ではないことには留意が必要である。
その意味では、特に、各原則を表面的に捉え、その一部を実施していないことのみをもって、実効的なコーポレートガバナンスが実現されていない、と機械的に評価することは適切ではないとしている。一方、会社としては、「実施しない理由」の説明を行う際には、株主等のステークホルダーの理解が十分に得られるよう工夫すべきであり、「ひな型」的な表現により表層的な説明に終始することは「コンプライ・オア・エクスプレイン」の趣旨に反するものとされている。
本コード原案は、国内上場会社を適用対象としているが、本則市場(市場第一部及び市場第二部)以外の適用に当たっては、例えば体制整備や開示などに係る項目の適用について、一定の考慮が必要となる可能性があり得るとしている。今後は、東証において必要な制度整備を行った上で、2015年6月1日から適用開始を予定している。
なお、体制整備に関するもの等を中心に、適用当初から完全に実施することが難しいこともあり得ることから、そのような場合には、今後の取組み予定や実施時期の目途を明確に説明(エクスプレイン)することにより、対応を行う可能性は排除されるべきではないとしている。
本コード原案は、不変のものではなく、変化する経済・社会情勢に合わせて、定期的に見直しの検討に付されることが期待されている。
本コード原案は、基本原則・原則・補充原則の三層構造を採っている
基本原則 | 原則 |
1. 株主の権利・平等性の確保 | 1-1 株主の権利の確保 1-2 株主総会における権利行使 1-3 資本政策の基本的な方針 1-4 いわゆる政策保有株式 1-5 いわゆる買収防衛策 1-6 株主の利益を害する可能性のある資本政策 1-7 関連当事者間の取引 |
2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働 | 2-1 中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定 2-2 会社の行動準則の策定・実践 2-3 社会・環境問題をはじめとするサステナビリティーを巡る課題 2-4 女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保 2-5 内部通報 |
3. 適切な情報開示と透明性の確保 | 3-1 情報開示の充実 3-2 外部会計監査人 |
4. 取締役会等の責務 | 4-1 取締役会の役割・責務(1)~戦略的な方向付け 4-2 取締役会の役割・責務(2)~適切なリスクテイクを支える環境整備 4-3 取締役会の役割・責務(3)~実効性の高い監督 4-4 監査役および監査役会の役割・責務 4-5 取締役・監査役等の受託者責任 4-6 経営の監督と執行 4-7 独立社外取締役の役割・責務 4-8 独立社外取締役の有効な活用 4-9 独立社外取締役の独立性判断基準および資質 4-10 任意の仕組みの活用 4-11 取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件 4-12 取締役会における審議の活性化 4-13 情報入手と支援体制 4-14 取締役・監査役のトレーニング |
5. 株主との対話 | 5-1 株主との建設的な対話に関する方針 5-2 経営戦略や経営計画の策定・公表 |
最後に今般のパブリックコメントの概要について紹介する。
金融庁によれば、和文80、英文41の合計121のコメントが寄せられた。このうち、コード策定に賛成・歓迎の意を明らかにしているものが約3分の2、反対の意を明らかにしているものが数件という結果であった。
【主なコメントの概要および回答】
①開示方法
本コード原案に基づく開示は、東証における検討の後、東証が定めるコーポレートガバナンス・コード報告書において統一的に記載するよう求められることが想定されている。また、本コード原案は2015年6月1日適用開始予定であるが、適用初年度におけるコーポレートガバナンス・コード報告書の提出は、定時株主総会後、準備ができ次第速やかに、かつ定時株主総会の6ヶ月後までに行うことが想定されている。
②政策保有株式に関する情報開示
原則1-4では、政策保有株式に関する方針の開示等を求めている。こうした開示規律のもと、市場との対話を経た上で、結果として政策保有をどうすべきかは、経営判断の問題であり、その経営判断に対して、さらに市場との対話が継続されていくべき事柄であるとしている。
③中期経営計画策定と説明責任
原則4-1「取締役会の役割・責務(1)~戦略的な方向付け」に関連して、中期経営計画が目標未達に終わった場合には、その原因等を分析し、株主に説明を行うことを求めているが(補充原則4-1②)、そもそも中期経営計画を策定しないという経営判断も否定すべきではないと考えられ、そのような上場会社には、当該原則は適用されないとしている。
④独立社外者による情報交換
原則4-8「独立社外取締役の有効な活用」に関連して、独立社外者による自由闊達な議論の場を確保する観点から、独立社外者のみを構成員とする会合の定期的な開催が例示として挙げられているが(補充原則4-8①)、必要に応じて社内者に会合への参加や説明を求めること等が妨げられるものではなく、むしろそのような方法によって情報収集に努めることは、本コード原案の趣旨に適うものとしている。
外部リンク:
金融庁サイト:コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~の確定について
東証サイト:コーポレートガバナンス・コード原案の公表