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IFRSでは、一般的な日本の財務諸表と比較して広範かつ詳細な開示が求められています。そのため、IFRSの適用に当たっては、開示資料の作成負担が少なくなく、GAAP差異の検討段階から開示項目を意識した準備が実務上、重要と考えます。
そこで本シリーズでは、金融庁から公表されているIFRSに基づく連結財務諸表の開示例を参考に、財務諸表の開示における主要項目について、実務上の留意点にも触れながら、IFRSと日本基準との差異および実際の開示例等についてご紹介していきます。
今回は第1回目として、「重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」を取り上げます。
<金融庁IFRS開示例における記載>
・見積りを伴う判断とは別に、重要な会計方針を適用する過程で経営者が行った判断(IAS 1.122)
・翌会計年度における重要な修正をもたらす重大なリスクを伴う、将来に関する主要な想定事項及びその他の見積り上の不確実性の主な要因に関する情報(IAS 1.125、129)
<日本基準との差異および開示例>
■経営者の判断
企業は、重要な会計方針の注記等において、いわゆる会計上の見積りとは別に、財務諸表に最も重要な影響をもたらす会計方針の選択適用に係る経営者の判断について開示することが求められています(IAS 1.122)。
このような判断の事例としては、例えば金融資産およびリース資産の所有に伴う重要なリスクと経済価値のすべてが実質的にいつ移転するかを決定する際の判断などが挙げられます(IAS 1.123)。
■見積り上の不確実性
企業は、翌事業年度において資産・負債の帳簿価額に重要な修正をもたらす重大なリスクを伴う、将来についての主要な仮定およびその他の見積り上の不確実性の主な要因の開示が求められ、注記には次の事項の詳細を記載しなければなりません(IAS 1.125)。
その内容
・期末日における帳簿価額
将来に向けた見積り項目としては、有形固資産の回収可能価額、棚卸資産の技術的陳腐化の影響度合い、係争案件に関する引当金および年金債務等があります。これらの項目の見積りにおいては、キャッシュフローや割引率に対するリスク調整、将来における賃金の変動などの項目についての仮定を伴います(IAS 1.126)。
ただし、期末日現在、直近の市場価格に基づく公正価値で測定されている資産、負債については、翌事業年度において帳簿価額が大きく変動しても、それは期末日の仮定や見積りの不確実性を原因とするものではないため、上記開示は求められていません(IAS 1.128)。また、予算に関する情報や予測を開示することも不要です(IAS 1.130)。
上記開示によって提供される情報の内容と範囲は、仮定やその他の状況の内容に応じて変わってきますが、開示の例としては次のようなものがあります(IAS 1.129)。
仮定またはその他の見積り上の不確実性の内容
・帳簿価額の計算の基礎となる方法、仮定および見積りに対する感応度およびその理由
不確実性について予測される解消方法および影響を受ける資産、負債の帳簿価額について翌事業年度に生じる結果の合理的な可能性の範囲
不確実性が解消されない場合における、当該資産、負債に関する過去の仮定に対して行われた変更内容についての説明
日本基準との差異
日本基準においては、重要な会計方針の注記において、経営者の判断についての開示は求められていません。また、会計上の見積りについても、変更を行った場合における変更の内容や影響額等に関する注記は求められていますが、見積りの不確実性の要因についての記述は求められていません。
なお、IFRSによって求められている開示の範囲は、文字通り「翌事業年度」において帳簿価額に重要な修正をもたらす重大なリスクを伴う事項に限られますので、当該期間を越えるものは含まれません。
実際の開示状況を見ると、経営者の判断および見積りの不確実性の要因という多様で主観的な要素を含んでいることから、その開示の程度も企業によってさまざまなようです。
以下に実際の開示例をひとつご紹介します。
開示例
ドイツテレコム・アーゲー2009年度有価証券報告書より抜粋。
判断及び見積り
(前略)有形固定資産及び無形固定資産の測定は、特に企業結合により取得された資産の場合、取得日現在の公正価値を算定するための見積りの利用を必要とする。また、当該資産の耐用年数の見積りが必要である。資産及び負債の公正価値並びに資産の耐用年数の算定は、経営者の判断に基づいている。
有形固定資産及び無形固定資産の減損の算定は、減損の原因、時期及び金額を含む(これらに限られない)見積りの利用を必要とする。減損は、現在の競争状況の変化、通信産業の成長予想、資本コストの増加、将来の資金調達の可能性、技術の陳腐化、サービスの中止、現在の再取得価格、類似取引における支払価格及び減損を示唆するその他の状況の変化といった多くの要素に基づいている。回収可能価額及び公正価値は、通常、合理的な市場参加者の仮定を盛り込んだ割引キャッシュ・フロー法を用いて算定される。減損兆候の認識と評価は、見積将来キャッシュ・フロー及び資産(又は資産グループ)の公正価値の算定と同様、予想キャッシュ・フロー、適用する割引率、耐用年数及び残存価額に関する経営者の重要な判断を必要とする。特に、モバイル事業の公正価値の基礎を成すキャッシュ・フローの見積りにおいては、新しいデータ通信商品及びサービスの提供を通じた将来の収益の増加に必要なネットワーク・インフラに対する継続的投資が検討されているが、これらの商品及びサービスに対する顧客需要の過去情報は限られている。これらの商品及びサービスに対する需要が予想通りに実現しなければ、収益及びキャッシュ・フローは減少し、減損により当該投資は公正価値に評価減される可能性があり、将来の経営成績に不利な影響を与えることになる。 (以下、省略)
*上記開示例は、EDINETより入手した情報に基づいています。
以上