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【図解M&A】第4回:デューデリジェンスの概要

トランザクションサービスチーム


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1.デューデリジェンスの目的と効果

1.目的と効果
買い手にとって企業買収実務における最も重要なプロセスであるデューデリジェンスの目的は、一口に言って「Deal issue」すなわちリスクの把握であるが、より具体的には対象企業のビジネスの実態や財務の状況に関する情報収集、想定されるリスクの洗い出しをすることにある。
またその効果は、デューデリジェンスによって把握したリスクに応じて買収価格を再調整する、あるいは発見した偶発債務等に関する売り手の表明・保証と違反した場合の損害賠償規定を買収契約書に反映することなどがある。
具体的には、例えば子会社を買収する場合で、法務デューデリジェンスを実施した結果、重要な契約にChange of Control条項(親会社が交代した場合には契約を継続しない条項)がある場合や関係会社と有利な条件により契約を締結している場合等がある。
このような場合、契約の巻き直しに係る追加コストを正常収益力に反映し、事業計画・EBITDAの修正を行い、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチによる買収価格の再調整を行なうことが必要となる。


2.スタンド・アローン問題
ある企業グループに属している子会社、あるいはある企業に属していた一事業部門を買収する際には、スタンド・アローン問題への対応がポイントとなる。スタンド・アローン問題には、その形態によって以下のようなものがある。① 全社共通サービス   ・ 今まで提供を受けていた全社共通サービスが受けられなくなることにより、代替的な業務委託や雇用が必要となる場合② グループ会社取引   ・ グループ会社からの資金の提供   ・ 第三者よりも安価なサービスの提供   ・ グループ一括調達による安価な原材料の調達   ・ 売り手のグループ会社しか提供できないサービスを受けており、当該サービスの継続がディールの絶対条件である場合③ ブランド・顧客情報   ・ グループ固有のブランドが売上に大きく寄与している   ・ グループ会社から有用な顧客情報や技術提供がある
スタンド・アローン問題があった場合には、それらが対象企業の企業価値や収益力等に及ぼす影響の程度を見極め、独立企業として買収の価値があるのかを慎重に見極めることが必要である。


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2.デューデリジェンスの種類と内容

デューデリジェンスには、その調査範囲・対象によって①ビジネス(人材、顧客、販売力、損益予測等)、②財務・税務(収益性、資産の実在性、負債の網羅性、税務、事業計画等)、③法務(現契約、訴訟案件、特許,技術ライセンス等)等に大別されるが、それ以外にもその目的に応じていくつかの種類がある。

種類調査内容
ビジネス
  • ターゲットの事業内容の理解
  • バリュー・ドライバーの把握
  • 競争力の検討
  • 買収後の事業計画の策定など
財務
  • 実態純資産分析
  • 正常収益力分析
  • キャッキュ・フロー分析
  • ストラクチャーの会計上の影響分析など
税務
  • 過去の税務調査の状況
  • 税務ポジションの把握・調査
  • ストラクチャーの税務上の影響分析など
法務
  • 契約関係(株主間契約、所有権、Change of Control条項など)
  • 許認可
  • 紛争・訴訟案件の把握
  • 追加的責務負担契約の把握など
人事
  • 企業年金の調査(PBO計算)
  • 労働条件、人事制度
  • 未払残業代、未払社会保険料の調査
  • 労働法に係るリスクの把握
IT
  • ITインフラ整備状況の把握
  • 進行中のプロジェクトの把握
  • 規模・スキル調査
  • 結合上の問題点の検討
環境
  • 土壌汚染
  • 地下水汚染など

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3.財務デューデリジェンスの調査内容

財務デューデリジェンスにおいて実施される具体的な調査内容は、主に以下の通り。(なお実際には個々のディールによってその内容も異なる)。

種類調査内容
実態純資産分析
  • 会計基準の適用状況
  • 不良債権、不良在庫の評価
  • 投融資の評価
  • 固定資産の償却状況
  • 繰延税金資産の回収可能性
  • 簿外・偶発債務の調査など
正常収益力分析
  • 売上高分析(部門別、製品別、地域別、顧客別など)
  • 費用分析(固変分解、人件費分析など)
  • 部門別損益分析(部門固有費、部門共通費など)
  • スタンド・アローン・イシューの把握(全社共通サービスに係る問題、グループ会社との取引に問題、ブランド、顧客情報に係る問題)
キャッシュ・フロー 分析
  • 運転資本分析
  • 年次・月次キャッシュ・フロー分析
  • 資本的支出分析など

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4.DDが適切に行われないことによるリスク

デューデリジェンスが適切に行われなかった場合には、買収に伴う「Deal Issue」を十分かつ的確に把握することが出来ず、結果として当初想定していたM&A戦略に則った統合目的を達成することが困難となる。以下に代表的なケースをご紹介するが、このような事態に直面しないためにも、その買収目的・規模等に応じて、しっかりとしたデューデリジェンスを行うことが必要である。


・ 買収対象に関するリスク  潜在的な問題点を見過ごしまま、経営戦略に合わない不適切な買収をしてしまうケース。リスクの特定が不十分なことによる買収時点で想定していなかった損失の発生(引当不足、偶発債務等)、環境問題、労働組合問題、スタンドアローン問題、マネジメントの質、特許や技術的な問題、企業イメージを損なう不祥事の発生等がある。


・ 買収価格に関するリスク  本来、買収価格に反映されるべきリスクや問題点が反映されない結果、実態よりも高い価格で買収してしまうケース。


・ 買収契約書に関するリスク  本来、盛り込むべき条項が反映されずに不適切な契約を交わしてしまうケース。例えば、DDの過程で発見した重要な偶発債務について、売り手が買収価格修正に応じない場合の表明・保障と損害賠償に関する条項が反映されない場合やクロージングの条件、買収代金の支払条件などが考えられる。


・ 事業計画に関するリスク DDは買収後の事業計画策定の基礎データとなるものであるが、それらが適切に行われない結果、例えば事業計画と実績が乖離し、「のれん」の減損が発生してしまうケースが代表的である。