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ナレッジ&トピックス 社長コラム

【図解M&A】第3回:M&Aに伴う統合リスク

トランザクションサービスチーム

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1.経営戦略としてのM&Aの有効性

M&Aの有効性は、戦略や事業を補完し、あるいは経営資源を有効活用することによって得られるシナジー効果に負うところが大きいが、特に新規事業への進出や海外展開を行う場合には、M&Aを行うことによって、いわば“時間を買う”ことが可能となり、企業価値向上の有力な手段となり得る。しかし、一方でM&Aはさまざまな統合リスクを伴うことから、戦略策定の初期の段階から、想定されるリスクを洗い出し、意思決定の際に十分な検討を行っておくことが重要である。

シナジー効果時間効果
戦略・ビジネスの結合、経費資源の有効活用による相乗効果(売上シナジー、コストシナジー)主力事業の拡張、新規事業への進出、海外展開を新たに行う場合における手段


企業・事業価値の向上



統合リスク




2.売り手側と買い手側の統合リスク比較

M&Aにおいて、売り手側と買い手側では直面しているリスクも異なるが、一般的に買い手の方がリスクが大きいと考えられる。

売り手企業買い手企業
M&A先進国の米国では多くの判例によって、M&Aにおける企業のあるべき判断指針が示され、またそれに伴って実務慣行も定着している。
例えば、取締役会は一定の場合に、株主利益最大化の観点から、株主にとって合理的に得られる最大の価格で売るための忠実義務、善管注意義務を負うとされている(レブロン基準)。このため株主対策として第三者である投資銀行などからフェアネスオピニオンを入手する実務慣行が定着している。特にゴーイング・プライベート取引では、投資家保護の要請がより厳格に適用され、フェアネスオピニオンその他の手続きの遵守が求められる。ただし日本では、レブロン義務があるか否かについては議論のあるところである。
一般に買い手はほとんどターゲット企業の実態を知らない状態からM&Aの検討を始めることになる。短期間での分析や調査を通して買収ターゲットのビジネスや組織に内在する問題点を整理・理解し、意思決定を行わなければならない点が、買い手企業の根本的なリスクである。
限られた時間と情報の中で交渉を行い、ディールをまとめなければならないため、基本的には不利な立場にあること、加えて買収対象先のリスクはすべて買い手側が負うことになる。
特に海外案件の場合は、経営環境、社会環境、商慣習、法規制、税制等が異なるため、より複雑な問題に直面し、それに応じて統合に伴うリスクも高まる。


売り手よりも買い手のリスクの方が大きい




3.項目別にみる買い手側リスク

M&Aにおける買い手側のリスク
買収価格一般に、M&Aの成功確率は50%前後と言われている。失敗の主な原因の一つは、「高く買ってしまう」こと。買収価格は、シナジー効果を織り込んだものとなるが、不確実性の高い場合には、価格に織り込まないことや、十分なデューデリを行い、リスクの分だけ価格をディスカウントしたり、買収条件や支払条件を有利にするような交渉が必要。
財務財務の実態面でのリスク。例えば不芳な与信管理のために多額の不良債権を抱えているケース。特に非上場企業の場合は情報開示の問題があるため、異常な増減の有無等の実態調査、偶発債務・簿外債務の有無、見積り項目、過去の税務調査の結果などについてデューデリによる詳細な調査が必要。子会社の有無とグループガバナンスの状況も重要。
営業基盤販売ネットワークは人のつながりに基づいた顧客基盤が最も価値のあるものであるが、その担い手となる人的資産が競合他社に移転してしまうケース。買収後に取引関係にあった相手先がその会社との取引を継続するという保証もない。あるいは特定の顧客、営業拠点、品目に売上が集中しているケース。
生産部門設備のメンテナンスを怠ったまま長期間使用し、老朽化しているケース。生産現場における労務問題、例えば組合の有無と会社との関係、従業員の年金や福利厚生の状況なども留意事項。また最近では環境問題に関連して,例えば土壌汚染対策を怠っていた場合には、想定外のコストが発生することになる。
人材企業の成否は人材の善し悪しに負うところ大であるが、M&Aは必ずしも、優秀な人材が確保できるものではない。M&Aは従業員に在籍することを法的に強制できるものではないため、買い手としては、ディールの過程でキーパーソンを見極め、個別に雇用契約を結ぶことも必要となる。
技術・知財ベンチャー企業の場合、創業者の力量によるところが大きいが、買収後にモチベーションが低下することがある。また買収をきっかけに優秀な若手技術者が他社に引き抜かれるケースもあり得る。取得した技術に関する法的保護(特許等)の有無も要注意。