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5回シリーズで、決算の正確性を確保しつつ、決算早期化の実現へ向けた具体的アプローチ方法を提言していきます。前回は、決算作業工程表作成後の改善に向けての具体的アプローチとして、ボトルネックの抽出について述べましたが、今回はボトルネックの改善策のご紹介です。
■ ボトルネックの改善
フェーズ区分した結果を決算作業工程表に記録し、これを分析・検証することにより、各フェーズ内でボトルネックとなっている作業工程が明らかになります。これを優先的に改善の対象とすれば、効果的に決算作業全体の早期化につなげることができます。ここでボトルネックの改善方法としては、主として①平準化、②前倒し、③時間短縮の3パターンに分けることができます。
①平準化
【改善事例】
グループ内部取引の照合について、従来は期末時にのみ実施していたため、連結決算担当部門の決算時の作業負荷が高かった。そこで月次単位で照合を実施することで、決算時の作業負荷を軽減して早期化につなげた。
②前倒し
【改善事例】
内部取引の照合について、従来は照合前の計数を記載した連結パッケージをグループ各社から回収し、連結決算担当部門主体で取引照合を行っていたため、連結決算手続きに際して内部取引の消去差額が生じ、調整に時間を要していた。そこで取引当事者であるグループ各社が主体となって内部取引照合を実施し、照合・調整後の計数を連結パッケージに記載・報告することで、連結決算担当部門の作業工数を削減した。
③時間短縮
【改善事例】
連結パッケージについて、従来の内容を踏襲するのみで必ずしもその必要性が検討されていなかったため、実際に決算で使用しない情報も入手していた。またパッケージ記載方法の説明が不十分であったため、パッケージフォームへの記載誤りや遅延が生じていた。そこで、パッケージを精査し、連結決算手続き上不要なパッケージを廃止し、またパッケージ記載上の留意点を理解しやすい表現に改めた。
前回(第3回)例示したケースの場合、早期化に向けた改善方法を示すと、次のようなものが挙げられます。
遅延要因①
【改善事例】
フェーズ区分(X+1)から(X+3)完了までに期末日後8営業日を要しています。これを全体で2営業日の早期化を図るとした場合、売掛金締め作業、個別貸倒引当金締め作業および一般貸倒引当金締め作業がボトルネックとなっていることがわかりました。そこでフェーズ(X+2)完了を6営業日から4営業日とし、フェーズ(X+1)完了を5営業日から3営業日とすることにしました。なお早期化のためにフェーズ分析を行う際には、後のフェーズから遡って検討するとわかりやすいと思います。それぞれの遅延要因と対応策は次の通りです。
フェーズ(X+1)の売掛金:入手した債権管理データに基づいた計数加工作業に時間を要しているため
【対応策】
データ加工の遅延理由を分析すると、入手した債権管理データの信頼性が低く、決算手続き中または事後に修正報告を受けるため、作業の手戻りが発生していることが判明しました。これは、従来債権残高の確認・検証を厳密に行わないまま債権管理データが作成されていたためであり、その対応として売掛債権の残高確認導入を検討しました。この場合、残高確認は期末日を基準日として実施するのではなく、期末日前で実施し、回答差異も期末日以前に調整しておき、確認基準日以降の重要な取引をサンプルで検討する方法を採用することによって、債権管理データの信頼性を高め、その結果早期化を実現しました。
遅延要因②
フェーズ(X+2)の個別貸倒引当金:作業に使用する個別引当債権異動明細表の入手が5営業日と遅延しているため。
【対応策】
個別引当債権異動明細表入手の遅延理由については、貸倒懸念債権の要引当額を算出するに際して、担保評価実施に時間を要することが判明しました。そこで、担保資産の処分見込額算定を期末日基準で一時に実施するのではなく、期末月中に暫定的に評価しておき、暫定評価実施以降にこの評価を変更するような事象の発生の有無を確認することを期末手続きとする方法を採用して早期化につなげました。
なお、連結決算がある企業グループにおいて、グループ各社の個別決算情報(連結パッケージ等)の誤りやそれによる手戻りは、連結決算処理の早期化を阻害する大きな要因となっており、グループ各社からの連結パッケージの精査に相当の時間を要しているケースも散見されます。したがって、グループ各社が連結パッケージを早期かつ正確に作成・提出することにより、連結決算全体の早期化が実現します。そのためには、子会社に対しても早期化を阻害するボトルネックを洗い出し、その改善に向けた取り組みを実施するとともに、併せて連結パッケージの正確性向上に向けた改善活動を実施することが必要となります。
いよいよ次回は最終回です。テーマは早期化と内部統制です。