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米国の分断と日本の断層

菊川 真
プライムジャパン代表 公認会計士

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安倍首相がトランプ次期大統領と会談をした。何かと異例づくしだったようだが、その光景は、あたかも今後の日米関係を暗示しているようでもあった。


トランプ勝利の要因については、様々な見解があるものの、個人的には消去法、つまり、ヒラリー・クリントンでは変わらないという、二者択一に迫られた下での消極的評価の結果に過ぎないと感じている。その人柄や政策が支持されたわけではない。


ただ、米国内部に抱える不満や格差による分断が、結果として想像をはるかに超えたものであったことは間違いないし、そのような政治的分断が、これから各方面にどのように作用するのかも正直分からない。ひとつ言えることは、日本が、これまで経験してこなかった地政学的リスク、米国という経済大国のカントリーリスクに直面するということである。


「アメリカ第一主義」を過激に訴えたトランプ氏の公約の中でも特に注視すべき政策は、法人税率を15%(現在35%)に引き下げることを含めた税制改革である。CRFBの資料(2016年9月26日)によれば、その減税規模は10年間で6兆ドルに迫り、日本のGDPを上回る。もしこれが実現された場合、国際的な経済活動に及ぼす影響は計り知れない。今年は、パナマ文書によって、タックスヘイブンに注目が集まったが、世界最大の経済大国であり、かつ世界一税率が高いとされてきた米国が、広い意味でのタックスヘイブンとなる可能性が出てくる。その際、日本は決定的な打撃を受ける事態に直面する。


人類の歴史は、スクラップ・アンド・ビルドを繰り返しながら“進化”を果たす、いわば壮大な社会実験の所産である。肝心なことは、その実験を担う主体が誰かということである。近代日本は、主として欧米の実験にならい、その果実を享受してきたが、我々がいま抱えている問題は、フロントランナーとしての自覚なしには解決できないものである。


異次元緩和やヘリコプターマネー論などに見られるように、わが国が他国の実験場となるようなことがあってはならない。私たち日本人は、自立性と独自性を持って進むべき方向を見極めなければならないが、私自身を含めて、アメリカ的なるものとの差異を判断基準とする思考パターンに慣れきった戦後日本にとっては、大きな歴史的試練となるに違いない。


米国の分断から生じたトランプ大統領の登場は、私たちが、いずれ何とかなるであろうと考え、また目を逸らしてきた日本の諸問題を、断層のように目の前に晒す。


もはや、havenはない。


以上