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IFRSに関する実務上のポイントをシリーズでお届けいたします。
第5回目は、固定資産の減損に関する実務上のポイントとして、1.減損の兆候と2.将来キャッシュ・フローの見積りの方法について取り上げます。
◆基準間差異
(1)日本基準
日本基準においては、減損の兆候としては、次の事象が挙げられています(固定資産の減損に係る会計基準二 1)① 資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっているか、あるいは、継続してマイナスとなる見込みであること② 資産又は資産グループが使用されている範囲又は方法について、当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたか、あるいは、生ずる見込みであること(注2)③ 資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したか、あるいは、悪化する見込みであること④ 資産又は資産グループの市場価格が著しく下落したこと
(2)IFRS
IFRSでは、減損の可能性として、次の兆候を考慮しなければなりません。(IAS36.12)
①外部の情報源(a) 当期中に、時間の経過又は正常な使用によって予想される以上に、資産の市場価値が著しく低下している。(b) 企業が営業している技術的、市場的、経済的若しくは法的環境において、又は資産が利用されている市場において、当期中に企業にとって悪影響のある著しい変化が発生したか、又は近い将来に発生すると予想される。(c) 市場利率又は投資についてのその他の市場収益率が当期中に上昇し、かつ、これらの上昇が資産の使用価値の計算に用いられる割引率に影響して資産の回収可能価額を著しく減少させる見込みである。(d) 報告企業の純資産の帳簿価額が、その企業の株式の市場価値を超過している。
②内部の情報源(e) 資産の陳腐化又は物的損害の証拠が入手できる。(f) 資産が使用されており又は使用されると予測される範囲若しくは方法に関して、当期中に企業にとって悪影響のある著しい変化が発生し、又は近い将来において発生すると予測される。これらの変化は、資産が遊休となること、資産の属する事業の廃止若しくはリストラクチャリングの計画、予定されていた期日以前の資産の処分の計画、又は資産の耐用年数が確定できない状態から有限となるよう再評価することを含む。(g) 資産の経済的成果が予想していたより悪化し又は悪化するであろうということを示す証拠が、内部報告から入手できる。
(3)日本基準とIFRSとの差異
日本基準では、「固定資産の減損に係る会計基準」において減損の兆候が例として示されているものの、実務的にはこれに該当する場合にのみ減損の兆候があるとしています。一方、IFRSでは、減損の兆候を示す最低限の例を示しているに過ぎず、総合的に判断することが必要となります。また例示として挙げられている兆候もその範囲が広いため、日本基準に比べて、IFRSの方が減損の兆候を早めに認識することになる可能性があります。特に日本基準には、上記の(2)①(c)と(d)に相当する項目はありません。
◆実務上のポイント
日本基準④「市場価格が著しく下落したこと」には、少なくとも市場価格が帳簿価額から50%程度以上下落した場合が該当する」(固定資産の減損に係る会計基準の適用指針15)とされています。一方、IAS36.12において日本基準と同様に、(a)「当期中に、時間の経過又は正常な使用によって予想される以上に、資産の市場価値が著しく低下している。」ことが挙げられていますが、数値基準は示されていません。この点について、IFRSの適用に当たり、会計処理方法の検討の際に、市場価格が著しく下落した場合に該当する要件を決定する必要がありますが、日本基準の具体的数値基準をIFRSにおいても適用できると考えられます。
また、業績が予算よりも著しく悪化している場合には、たとえ営業利益を計上していても、(g)「資産の経済的成果が予想していたより悪化し又は悪化するであろうということを示す証拠が、内部報告から入手できる。」に該当することになり、減損の兆候があることになります。
さらに、減損の兆候の有無の検討時期について、IFRSでは「企業は、各報告期間の末日現在で、資産が減損している可能性を示す兆候があるか否かを評価しなければならない」(IAS36.9)とされていますが、期末に全ての資産の減損の兆候を把握することは決算日程を考慮すると実務上困難であることから、期中に一定の基準日を設け減損の兆候の可能性がある資産を把握し、期末日に当該兆候の内容に重要な変化がないか検討する方法が実務的には実施しやすい方法となります。
◆基準間差異
(1)日本基準
減損損失を認識するかどうかの判定及び使用価値の算定において見積られる将来キャッシュ・フローを、企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積ります。(固定資産の減損に係る会計基準の適用指針36、以下「適用指針」とします。)
将来キャッシュ・フローの見積期間は、資産の経済的残存使用年数又は資産グループの中の主要資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い年数とします。
(2)IFRS
将来キャッシュ・フローの見積りは以下のように行います。(IAS36.33)
(a) キャッシュ・フロー予測は、当該資産の残存耐用年数にわたり存在するであろう一連の経済的状況に関する経営者の最善の見積りを反映する、合理的かつ支持し得る前提を基礎にしなければならない。外部の証拠により重点を置かなければならない。(b) キャッシュ・フロー予測は、経営者によって承認された直近の財務予算/予測を基礎にしなければならないが、将来のリストラクチャリング又は資産の機能を改善又は拡張することから生じることが予想される、将来のキャッシュ・インフロー又はアウトフローの見積りは除外しなければならない。これら予算/予測を基礎とした予測は、より長い期間を正当化し得ない限り、最長でも5年間でなければならない。(c) 直近の予算/予測の期間を超えたキャッシュ・フロー予測は、逓増率が正当化できる場合を除き、後続の年度に対し一定の又は逓減する成長率を使用した予算/予測に基づくキャッシュ・フロー予測を推測して延長することにより、見積らなければならない。この成長率は、より高い成長率を正当化し得ない限り、当該製品、産業又は企業が活動している単数又は複数国の、又は資産が使用されている市場の、長期平均成長率を超えてはならない。
(3)日本基準とIFRSとの差異
日本基準とIFRSとの主な差異は以下のとおりです。
① 日本基準では、成長率について市場平均を超えた成長率が使用される可能性があります。一方、IFRSでは、市場の長期平均成長率を超えてはならないとされています。② IFRS では、キャッシュ・フロー予測は、経営者によって承認された直近の財務予算/予測を基礎にしなければなりません。日本基準においても、取締役会等の承認を得た中長期計画の数値に基づく(適用指針36(1))という点において、差異はありません。
ただし、IFRSにおいて、経営者による財務予算/予測の内、5年超の部分については、 契約等の客観的な証拠がない限りそのまま使用することはできません。
◆実務上のポイント
使用価値の算定にあたっては、以下の事項について留意する必要があります。
(1)将来キャッシュ・フローの見積り
(2)割引率
(1)将来キャッシュ・フローの見積り
日本基準では、成長率について市場平均を超えた成長率が使用されることがあります。一方、IFRSでは、市場の長期平均成長率を超えてはならないこととされているため、日本基準で算出した将来キャッシュ・フローより小さい金額になる可能性があり、その場合には、減損金額が大きくなります。
また、経営者は過去の実際のキャッシュ・フローと過去のキャッシュ・フロー予測との間の差異理由について検討を行い、現在のキャッシュ・フロー予測の基礎となる仮定の合理性について査定を行わなければなりません。
(2)割引率資産に固有な利率が市場から直接利用可能でない場合
企業は、以下のような見積りを出発点として、割引率を算定することになります。
(a) 資産価格算定モデル(CAPM)のような技法を利用して決定した当該企業の加重平均資本コスト
(b) 当該企業の追加借入利子率
(c) その他の市場借入利率