KNOWLEDGE & TOPICS

ナレッジ&トピックス 社長コラム

【IFRSポイント解説】第4回:無形資産

IFRS対応PT

印刷する


IFRSに関する実務上のポイントをシリーズでお届けしています。
第3回目は、無形資産に関する実務上のポイントとして、1.無形資産の定義及び認識と2.自己創設無形資産について取り上げます。


1.無形資産の定義及び認識


◆基準間差異


(1)日本基準

日本基準では、企業会計原則や財務諸表等規則において、無形固定資産に属する項目が列挙されていますが、無形資産の定義及び認識要件を明示的に示している基準はありません。


(2)IFRS

IFRSでは、無形資産として資産計上するためには、①無形資産の定義、②認識要件、の2要件を立証する必要があります。(IAS.38.18)

①無形資産の定義を立証するためには、a「識別可能性」、b「支配」、c「将来の経済的便益の存在」、を満たす必要があります。②認識要件を立証するためには、a「将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高いこと」、b「取得原価を信頼性をもって測定できること」、を満たす必要があります。


(3)日本基準とIFRSとの差異

日本基準では、無形資産の定義及び認識要件を明示的に示している基準は存在しないのに対し、IFRSでは、①無形資産の定義、②認識要件、が明示されています。従って、日本基準で資産計上されているが、IFRS上では資産計上できないものがないか検討する必要があります。


◆実務上のポイント


IFRSで無形資産として資産計上するための要件、「①無形資産の定義」と「②認識要件」について詳細に述べていきます。


(1)IFRS上、無形資産として資産計上するための要件

① 無形資産の定義

a「識別可能性」

次のいずれかを満たす場合には識別可能性があります。(IAS.38.12)

(ア) 分離可能であること

(イ)契約又はその他の法的権利から生じるものであること

(ア) の分離可能というのは、無形資産を分離又は区別して、売却、譲渡、ライセンス化、賃貸又は交換等が可能なことをいいます。(イ)の法的権利から生じるというのは、取得した無形資産が契約、法令等によって、法的に譲渡される権利から生じている状態をいいます。


b「支配」

他者が、対象となる資源から生ずる将来の経済的便益を利用することを制限できる場合に、資産を支配しているといえます。通常、企業が資産を支配できる能力は、法的権利に起因します。(IAS.38.13)


c「将来の経済的便益の存在」

無形資産から生じる将来の経済的便益には、製品又はサービスの売上収益、費用削減又その他の利益が含まれます。(IAS.38.17)


②認識規準

a「将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高いこと」

企業は、外部証拠に重点をおいた入手可能な証拠に基づき、最善の見積りをもって将来の経済的便益を把握します。(IAS.38.22) (IAS.38.23)


b「取得原価を信頼性をもって測定できること」

当該資産の取得に要した支出額を、客観的に測定できることが必要です。


③ 実務上、無形資産として資産計上するための要件

以上の「①無形資産の定義」及び「②認識規準」をまとめると、実務上、IFRSで無形資産として資産計上するための要件は、「識別可能性」、「支配」、「将来の経済的便益」、「信頼性ある測定」、の4つを満たすことです。


(2)日本基準上、無形固定資産として計上されている資産は、IFRS上の無形資産の要件を満たし資産計上できるか?

日本基準上、資産計上されているが、IFRS上は資産計上できないのではないか?という論点に関して、特に重要になってくるのが、法人税法上の繰延資産です。法人税法上の繰延資産は以下のような資産をいい、日本の会計実務では、「長期前払費用」や無形固定資産の中の「その他」として資産計上されていることが多い資産です。


① 自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のために支出する費用

② 資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立ちのき料その他の費用

③ 役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用

④ 製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用

⑤ 上記①~④の費用のほか、自己が便益を受けるために支出する費用


法人税法上の繰延資産が、IFRSで無形資産として資産計上するための要件、すなわち、「識別可能性」、「支配」、「将来の経済的便益」、「信頼性ある測定」、を満たすか否かは、慎重に判断する必要があります。法人税法上の繰延資産は、特に、「識別可能性」、「支配」、「将来の経済的便益」を立証することは困難であることが多く、一般的には、IFRS上、無形資産としては計上できません。

また、仮に資産計上できたとしても、法人税法上の繰延資産の耐用年数は、例えば、「その資産の耐用年数の7/10に相当する年数」とされているものもあります。このような場合、耐用年数が当該資産の利用可能予想期間を示しているとは言えない可能性が高く、IFRS上は耐用年数を見直す可能性が高いといえます。

法人税法上の繰延資産以外の資産についても、IFRS上、無形資産として計上できるか否かに関しては、上記のような検討が必要になります。







@NEXT@

2.自己創設無形資産


自己創設無形資産とは、外部からの購入ではなく、自社内で作り出した無形の資産です。IAS.38では、自己創設無形資産を、①研究局面から発生したものと②開発局面ら発生したものに分けて規定しています。

日本基準で、IAS.38の自己創設無形資産に相当するものとして、今回は、研究開発費と自社で制作する自社利用のソフトウェア制作費をとりあげます。


◆基準間差異


(1)日本基準

研究開発費は、すべて発生時に費用として処理します。また、ソフトウェア制作費のうち、研究開発に該当する部分も研究開発費として費用処理します。(研究開発費等に係る会計基準三)

研究開発費に該当しないソフトウェア制作費に関しては、制作目的別に、販売目的のソフトウェアと自社利用のソフトウェアとに区分します。このうち、自社利用のソフトウェアに関しては、将来の収益獲得又は費用削減が確実であるものについては、将来の収益との対応等の観点から、その取得に要した費用を資産として計上し、その利用期間にわたり償却を行います。(研究開発費等に係る会計基準の設定に関する意見書)


(2)IFRS

自己創設無形資産が認識規準を満たすか否かを判定するため、企業は資産の創出過程を、① 研究局面、②開発局面、に分類します。(IAS.38.52)

①研究(又は内部プロジェクトの研究局面)に関する支出は、発生時に費用として認識します。(IAS.38.54)② 開発(又は内部プロジェクトの開発局面)から生じた無形資産は、企業が次の6要件すべてを立証できる場合に、資産として認識しなければなりません。(IAS.38.57)


(a) 使用又は売却できるように無形資産を完成させることの、技術上の実行可能性(b) 無形資産を完成させ、さらにそれを使用又は売却するという企業の意図(c) 無形資産を使用又は売却できる能力(d) 無形資産が蓋然性の高い将来の経済的便益を創出する方法。とりわけ、企業は、無形資産による産出物又は無形資産それ自体の市場の存在、あるいは、無形資産を内部で使用する予定である場合には、無形資産が企業の事業に役立つことを立証しなければならない。(e) 無形資産の開発を完成させ、さらにそれを使用又は売却するために必要となる、適切な技術上・財務上及びその他の資源の利用可能性(f) 開発期間中の無形資産に起因する支出を、信頼性をもって測定できる能力


なお、仮に上記6要件を満たすとしても、内部で創出される、ブランド、題字、出版表題、顧客名簿及び実質的にこれらに類似する項目は、無形資産として認識できません。(IAS.38.63)


(3)日本基準とIFRSとの差異

開発における支出に関して、日本基準では開発費として費用処理されるのに対して、IFRSでは開発局面における6要件を全て満たせば無形資産として計上しなければなりません。

自社で制作する自社利用のソフトウェア制作費に関して、日本基準では将来の収益獲得又は費用削減が確実であれば無形固定資産として計上するのに対して、IFRSでは、ソフトウェアに関する明確な基準はなく、自己創設無形資産の開発局面における6要件を全て満たせば無形資産として計上しなければなりません。いいかえれば、IFRSでは、開発局面における6要件のうち一つでも満たすことができなければ、ソフトウェア制作費を資産計上できません。


◆実務上のポイント


(1)開発に関する支出

研究費は、日本基準、IFRSとも費用として処理します。

開発費は、日本基準では費用処理しますが、IFRSでは、開発局面における6要件を全て満たせば資産計上しなければなりません。
これをまとめると下記のようになります。


【研究及び開発に関する支出】

自己創設無形資産IFRS(IAS38)日本基準
研究局面費用費用
開発局面6要件を充足
していない
費用費用
6要件を充足
している
資産費用

従って、日本基準で開発費として費用処理されているものの中で、IAS38の開発局面における6要件を満たしているものがあればIFRS上は資産計上することになります。

6要件は抽象的な表現ですので、以下で、具体的な内容を説明します

(a) 使用又は売却できるように無形資産を完成させることの、技術上の実行可能性  資産を完成させるため、特に新規の開発に関しては、例えば、適切なスキルを有した人材、適切な機能を有した設備等を確保する必要があります。そして、開発過程における不確実性がなくなり、資産完成の可能性が高くなった時に、当該要件を満たすと考えられます。(b) 無形資産を完成させ、さらにそれを使用又は売却するという企業の意図  社内の権限規程に基づき、稟議書、決裁書、起案書、等で承認プロセスを経ていれば、企業の意図は満たされていると考えられます。(c) 無形資産を使用又は売却できる能力  社内で使用する資産を開発する場合には、開発依頼部署において、当該資産の使用目的が明確にされ、使用体制が構築されていれば、使用できる能力は満たされていると考えられます。社外に売却する資産を開発する場合には、資産を完成させた後、実際に売却するための販売体制が構築されていれば、売却できる能力は満たされていると考えられます(d) 無形資産が蓋然性の高い将来の経済的便益を創出する方法  とりわけ、企業は、無形資産による産出物又は無形資産それ自体の市場の存在、あるいは、無形資産を内部で使用する予定である場合には、無形資産が企業の事業に役立つことを立証しなければならない。  実務上は、日本基準と同様、将来の収益獲得又は費用削減の可能性が高いことを、最善の見積もりをもって立証する必要があります。(e) 無形資産の開発を完成させ、さらにそれを使用又は売却するために必要となる、適切な技術上・財務上及びその他の資源の利用可能性  例えば、必要となる技術上、財務上及びその他の資源を示す事業計画等で立証することができます。また、融資先から当該計画への融資承諾書を受領して外部資金の利用可能性を立証することもできます。(f) 開発期間中の無形資産に起因する支出を、信頼性をもって測定できる能力  原価計算システムが整備及び運用されていれば、内部で創出される無形資産の取得原価を信頼性をもって測定できることは多いといえます(IAS.38.62)。原価計算システムが整備及び運用されていない場合には、原価の集計範囲を明確にし、正確な金額を適時に集計する内部統制の整備・運用が必要になります。自己創設無形資産の取得原価は、直接配分可能な原価のすべてから構成されます。直接配分可能な原価の例として、次のものがあります。(IAS.38.66)

   (ⅰ) 無形資産を創出する上で使用又は消費した材料及びサービスに関する原価

   (ⅱ) 無形資産の創出から生じる従業員給付の原価

   (ⅲ) 法的権利を登録するための手数料

   (ⅳ) 無形資産を創出するために用いられる特許及びライセンスの償却

   (ⅴ) 借入費用


(2) 自社で制作する自社利用のソフトウェア制作費

日本基準における「自社で制作する自社利用のソフトウェア制作費」の会計処理をまとめると以下のようになります。


【日本基準:自社で製作する自社利用のソフトウェア制作費の会計処理】

日本基準
ソフトウェアの制作費会計処理
研究開発に該当する部分費用
研究開発に該当しない部分将来の収益獲得又は費用削減が確実でない費用
将来の収益獲得又は費用削減が確実である資産

これに対し、IFRSでは、ソフトウェアに関する固有の規定は存在せず、自己創設無形資産の開発局面における6要件を満たすか否かの観点から、資産計上できるかを検討します。IFRSにおける「自社で制作する自社利用のソフトウェア制作費」の会計処理をまとめると以下のようになります。


【IFRS:自社で製作する自社利用のソフトウェア制作費の会計処理】

IFRS(IAS38)
自己創設無形資産(ソフトウェアの制作会計処理
研究局面費用
開発局面6要件を充足していない費用
6要件を全て充足している資産

以上より、「自社で制作する自社利用のソフトウェア制作費」に関して、日本基準とIFRSを比較すると以下のようになります。


【独自仕様の社内利用ソフトウェアを自社で(又は委託により)製作する場合】

IFRS(IAS38)日本基準
自己創設無形資産会計処理会計処理ソフトウェアの制作費
研究局面費用費用研究開発に該当する部分
開発局面日本基準の研究開発に
該当する部分
6要件を充足していない費用費用
6要件を全て充足している資産費用
日本基準の研究開発に
該当しない部分
6要件を充足していない費用費用将来の収益獲得又は費用削減が確実でない日本基準の研究開発に
該当しない部分
費用資産将来の収益獲得又は費用削減が確実である
6要件を全て充足している資産資産

日本基準で資産計上されていた「自社で制作する自社利用のソフトウェア制作費」に関して、仮にIFRSの開発局面における6要件を全て満たさないならば、IFRSでは資産計上できないことになります。