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IFRSに関する実務上のポイントをシリーズでお届けいたします。
まず第1回目として、収益認識に関する実務上のポイントを物品販売を題材に取り上げます。
◆基準間差異
日本基準では収益認識に関する一般的規定はありませんが、IFRS上では、以下のように物品販売の場合の5つの要件が定められており、これらを満たした場合に収益を認識すると定められています。
(a) 物品の所有に伴う重要なリスク及び経済価値を企業が買手に移転したこと(b) 販売された物品に対して、所有と通常結び付けられる程度の継続的な管理上の関与も実質的な支配も企業が保持していないこと(c) 収益の額を,信頼性をもって測定できること(e) その取引に関連して発生した又は発生する原価を信頼性をもって測定できること
この結果、収益認識時期が日本基準と異なる可能性があります。
◆ポイント
日本基準においては、販売基準が適用されていますが、実際には販売基準といっても、出荷基準である場合や引渡基準である場合など企業によって対応も異なっているケースが多く見受けられます。一方IFRSでは、収益認識に当たり「リスク及び経済価値が移転している」という指標が最も重視されるため、収益認識基準として受渡基準や検収基準が一般的であると言われています。
実務的対応上のポイントとしましては、日本基準による会計処理をできる限り踏襲しつつ、基準間差異が明らかな会計処理のみを調整するという基本方針が肝要であると考えます。
では、日本基準による出荷基準を適用するためには何を検討する必要があるでしょうか?
(1)出荷基準を適用するために、契約書や約款を見直すことができないか?
例えば、契約書や約款に「配送業者に引き渡した時点で所有権は相手方に移転する」、「出荷した時点で所有権は相手方に移転する」といった記載を行う方法が考えられます。このように出荷時点で「リスク及び経済価値が移転している」と裏付けることにより、会計処理として出荷基準を継続して適用することも可能と言えます。
ただし、この方法は契約書や約款といったビジネスの根幹をなす文書を変更することになるため、従来の商慣行や法的な債権債務の関係が変わってしまうことも考えられますので、法的リスクを十分に検討する必要があります。
(2)出荷基準を適用するための別の論拠はないか?
契約書や約款を見直すことができない又はそもそも選択肢としてあり得ない場合には、法律上の所有権が移転したタイミングと「リスク及び経済価値の移転」したタイミングが異なることを論拠づける必要があります。
例えば、輸送中のリスクを売り手が負っていないことを説明することが可能であれば出荷基準を継続して適用することが可能であると考えられます。
(3)出荷基準と受渡基準との間の差異金額は重要性が乏しいと言えないか?
出荷から受渡までの期間が1日から3日程度であり、その日数に一日当たりの売上高を乗じても売上高に及ぼす影響が軽微である場合には、基準間差異はあるものの金額的影響が乏しいために修正を行わないと結論付けることも可能と言えます。また、この売上高に対応する売上原価を原価率を乗じることにより算出すれば、利益に対する影響はより小さいと言うことができます。なお、これらの検討は商材毎など、会社が管理している単位で検討することが可能です。
(4)受渡基準に変更しなければならない場合の対応方法は?
この場合、ERPのシステムを導入するなどの対応を取るようなケースもあり得ます。
この方法は、現在使用しているシステムが老朽化しており、会社の基幹システムをリプレイスする必要があると考えている場合には採用することも可能でしょうが、コストを掛けずに実務上対応する方法として、「みなし着荷」により収益認識することが考えられます。「みなし着荷」基準を適用するに当たっては以下の数式で算出します。
「出荷から着荷までの期間」×「一日当たりの売上高」を出荷基準による売上高から控除します。
また、この控除した売上高に対応する売上原価は、簡便的に控除した売上高に原価率を乗じることにより算出することができます。一般に経理担当者の心理として記帳されていない金額に基づく修正は嫌がられると思いますが、この方法の場合は、記帳した金額に基づいて見積りを行っているので、実務的にも採用し易いのではないかと考えられます。
◆基準間差異
日本基準では、収益の額の表示方法について、一般的に定めた規定はなく、総額表示あるいは純額表示のいずれも実務上行われています。一方、IFRS上は対象となる取引において、企業が主体性をもって本人当事者として行うものなのか、又は他の第三者の代理人としての立場で行うものかを判断し、取引の総額又は純額のどちらかを会計処理として取り扱うかを決定する必要があります。
◆ポイント
IFRSにおいては、IAS18 B21 において、本人当事者として行動しているか代理人として行動しているかを判定するため、以下4つの要件を定めています。
(a)顧客に対する物品若しくは役務の提供又は注文の履行について、企業が(例えば、顧客が注文又は購入した製品やサービスの適合性について責任を負うことにより)第一義的な責任を有している。
(b)顧客による発注の前後、輸送中又は返品の際に、在庫リスクを企業が負っている。
(c)企業が価格決定の自由を、直接又は間接に(例えば、追加的な物品又は役務の提供により)有している。
(d)顧客に対する売掛金について、企業が顧客の信用リスクを負担している。
実務上、この判定に当たっては、米国会計基準におけるEITF 99-19「収益について取引当事者として総額で計上するか、代理人として純額で計上するか」に基づいて、収益を総額計上するべきか、純額計上するべきかの判断を行うことも可能です。EITF 99-19には総額が妥当であると判断する指標として、以下の8つが定められています。
① 契約の主たる債務者である。
② 商品受注前又は顧客からの返品に関して一般的な在庫リスクを負っている。
③ 自由に販売価格を設定する裁量がある。
④ 商品の性質を変更したり、サービスを提供することによって付加価値を加えている。
⑤ 自由に供給業者を選択する裁量がある。
⑥ 物品またはサービスの仕様の決定に関与している。
⑦ 商品受注後又は発送中の商品に関して物理的な損失のリスクを負担している。
⑧ 代金回収に係る信用リスクを負担している。
また、純額が妥当であると判断する指標として、以下の3つを上げています。
① 供給元(仕入先)が主たる債務者である。
② 企業が稼得する金額は確定している。
③ 供給元等の第三者が信用リスクを負担している。
この純額表示の指標①は、総額表表示の指標①と実質的な意味合いは同じであり、純額表示の指標②は総額表示の指標③と、また純額表示の指標③は総額表示の指標⑧と実質的に同じことを意味しています。
したがって、IFRSにおける4要件と同等の指標をも含んでいることから、結果として総額表示の8つの指標を検討することで、実質的にはIAS B21の要件を満たしていると考えられます。
なお、これらの8つの指標をすべて同じ水準で見るのではなく、会社のビジネスによって重視すべき指標は変わる点に留意する必要があります。この点についてEITF 99-19には事例が含まれているため、どの指標を重視すべきか実務上判断する上で有益と言えます。