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【会計情報トピックス】リストリクテッド・ストックの会計処理
~新たな株式報酬の導入~


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平成28年度税制改正では、経営陣に中長期の業績向上や企業価値向上に関するインセンティブを付与するため、役員報酬として支給された一定の譲渡制限付株式(いわゆるリストリクテッド・ストック)を損金算入の対象とする制度整備が行われた。また経済産業省は、4月28日、「『攻めの経営』を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる『リストリクテッド・ストック』)の導入等の手引~」を公表し、制度を導入する際の税務、会社法、会計上の論点等を整理している。以下、制度の概要と会計処理上の取扱い等について簡単にまとめた。



-リストリクテッド・ストックとは-


リストリクテッド・ストックとは、一定期間の譲渡制限が付された株式のことで、欧米を中心に新たな株式報酬制度として活用されている。企業から役員または従業員等に対する対価の一部として一定期間の譲渡制限が付された株式(以下、「特定譲渡制限付株式」という)を報酬として交付することにより、企業価値向上へのインセンティブを付与し、株主目線の経営を促す効果が期待されている。付与された役員等は譲渡制限解除後に当該株式を譲渡することによりキャピタルゲインを得ることができる。平成28年4月1日以後に交付決議される特定譲渡制限付株式から適用される。


図表1 リストリクテッド・ストック活用のイメージ

会計処理例



-制度の概要-


わが国の会社法では、一般に株式の無償発行や労務出資が認められないと解されていたことから(会社法第199条1項2号・3号)、リストリクテッド・ストックを役員等に対する株式報酬として活用することは行われてこなかった。この点、制度導入に向けた論点整理※1において、法人が役員等に対して金銭報酬債権を付与し、役員等が当該金銭報酬債権を現物出資するのと交換に特定譲渡制限株式を交付するという解釈指針が示され、新しい株式報酬制度としてリストリクテッド・ストックを導入することが可能となった。


※1.「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」(2015年7月公表)において「法的論点に関する解釈指針」が示されている。


平成28年度税制改正においては、役員等に特定譲渡制限付株式が交付された場合、その役員等の所得税の課税時期は、当該株式の交付日ではなく、譲渡制限解除日とされた。法人側では、譲渡制限解除日に役務提供を受けたものとされ、その役務提供に係る費用の額は同日の属する事業年度において損金算入することとされている(法人税法第54条1項)。また役員等における特定譲渡制限株式に係る所得税法上の収入金額は、譲渡制限解除日における価額とされているが(所得税施行令第84条1項)、法人の損金算入となる費用の額は、あくまで特定譲渡制限株式と交換に役員等から払い込まれた金銭報酬債権に相当する額とされている(法人税施行令第112条の2第5項)。


なお法人が役員給与として特定譲渡制限株式を交付した場合、事前確定届出給与の要件に該当する特定譲渡制限株式による給与の額は損金に算入され、またこのうち株式交付等のスケジュールに係る要件を満たすものについては、事前確定届出給与の届出が不要とされている(法人税法第34条1項2号、法人税施行令第69条2項)。



-会計上の取扱い-


法人が役員等に報酬債権を付与し、その役員等から当該報酬債権の現物出資と交換に特定譲渡制限付株式を交付した場合、付与した報酬債権相当額を「前払費用等の適当な科目」で資産計上するとともに、現物出資された報酬債権の額を会社法等の規定に基づき「資本金(及び資本準備金)」として計上することになる。


交付後は、現物出資をされた報酬債権相当額のうち当該役員等が提供する役務として当期に発生したと認められる額を、合理的な方法(対象勤務期間、すなわち譲渡制限期間を基礎とする方法等)により算定し、費用計上(前払費用等の取崩し)することが考えられる。なお、付与した報酬債権相当額のうち譲渡制限解除となる条件の未達により、法人が役員等から株式を無償取得することになる部分(役員等から役務提供を受けられなかった部分)については、相当する前払費用等を取崩し、同額を損失処理することなどが考えられる。



図表2 会計処理事例(単位:百万円)

【前提条件】
・ 役員から報酬債権45百万円の現物出資を受け、特定譲渡制限付株式450株を発行・ 譲渡制限期間は3年・ 譲渡制限解除の条件は、譲渡制限期間中、勤務を継続すること・ 法定実効税率は40%とする


・報酬債権付与および株式発行時

前払費用等45資本金等45

・役務提供1年目

株式報酬費用
繰延税金資産
15
6
前払費用等
法人税等調整額
15
6

・役務提供2年目

株式報酬費用
繰延税金資産
15
6
前払費用等
法人税等調整額
15
6

・役務提供3年目

株式報酬費用
未払法人税等
法人税等調整額
15
18
12
前払費用等
法人税等
繰延税金資産
15
18
12

以上





外部リンク:経済産業省 「攻めの経営」を促す役員報酬 ~新たな株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引~