Knowledge/解説コラム

【代表者コラム】IFRS分析-実務における適用状況 No.2

菊川 真  プライムジャパン代表 公認会計士

2012/09/26

2011年11月、SECは「実務におけるIFRS分析」(”An Analysis of IFRS in Practice”)と題するスタッフペーパー(以下、本スタッフペーパー)を公表しました。本スタッフペーパーは、実際にIFRSを適用している企業の財務諸表の分析と評価を通じて、その実務上の適用状況を詳細に報告しています。本コラムでは、以前、本スタッフペーパーの概要について触れましたが、今回は具体的な調査・分析の内容について、ご紹介します。なお、文中意見に関わる部分は筆者の私見です。


SECスタッフは調査対象となった企業の財務諸表を、開示の透明性と明瞭性、IFRSへの準拠性、財務諸表の比較可能性の観点から分析し、各項目について検討を進めています。以下、主要項目についてポイントをご紹介します。


会計方針


会計方針の選択適用について、IFRSではIAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」を定めています。また具体的な会計基準が存在しない場合には、類似の基準やIFRSの概念フレームワークを検討することとされていますが、IFRSと矛盾しない限りにおいて、他の基準設定主体による指針や実務を参照することが可能としています。本スタッフペーパーによると、調査対象企業の20%が会計方針の開示において、現地国の指針を参照していたことがわかりました。
会計方針の開示に関して、IFRSはIAS第1号第117項において、財務諸表の作成に用いた測定の基礎および財務諸表を理解する上で関連性のあるその他の会計方針の両方を開示することを求めています。この会計方針の開示について、分析対象企業は概ねIFRSの基準に適合していたものの、その開示のレベル、詳細度は企業によってかなりのばらつきが見られたと指摘しています。例えば、特定の取引に対して適用した会計基準又は具体的な会計方針の開示がなかったケースが複数の企業で見られたこと、また会計方針の開示が明確でない代表的な領域として、株式報酬、事業結合、廃止事業、事業セグメント等を挙げています。
IFRSでは、例えば将来に関する想定事項やその他の見積り上の不確実性の主な要因について、最も重要な影響を与える会計方針を適用する過程で経営者が行った判断を開示することを求めていますが(IAS 1.122-133)、対象企業の5%がこれらの開示を行っていなかったと述べています。一方で、これらの開示を行っていた企業では、最も重要な影響がある会計方針として、2から12の会計方針を開示しており(平均は6)、項目としては、金融商品、有形固定資産及び無形固定資産の減損、引当金、従業員給付、法人所得税については過半数の企業が開示していたと述べています。


財務諸表の表示


そもそもIFRSは、財務諸表の厳密な様式を具体的に規定しているわけではなく、その様式および内容について一般的な指針を示しているに過ぎません。したがって本スタッフペーパーでも、表示に関しては、各企業がさまざまな解釈に基づいてIFRSの規定を適用し、その様式・内容が国家間・産業間で相違していること、また多くの場合、現地国のレギュレーションに基づいて作成されていると指摘しています。ただし、いずれの場合も、対象企業の財務諸表の表示は、IFRSの規定と矛盾していないように見受けられるとコメントしています。


財政状態計算書における資産・負債の分類については、対象企業において相当程度の比較可能性がありました。大部分の企業は、資産・負債の表示について流動・非流動区分を採用し、いわゆる固定性配列に基づいた表示を行っていました。ただし、銀行業や保険業については、多くの場合、流動・非流動の区分は行わず、また銀行業は流動性配列、保険業は固定性配列を採用していました。この点は、明瞭に識別可能な営業循環で商品又はサービスを提供していない金融機関等に対するIFRS規定の趣旨とも合致しています(IAS 1.63)。また、金融資産の分類表示については、さまざまな形態があったとしています。例えば、ある銀行業に属する企業の場合は、「金融資産」または「投資」のような単一科目で表示し、詳細な内容については注記で補完しているケースもあれば、金融資産の分類(例えば売却可能金融資産、トレーディング資産、ローン等)に応じて、財政状態計算書に区分表示しているケースもありました。


損益計算書の表示に関しては、IFRSでは、認識された収益・費用のすべての項目を単一の包括利益計算書により表示するか(1計算書方式)、損益計算書と包括利益計算書の別箇の計算書により表示するのか(2計算書方式)の選択適用が認められていますが、圧倒的多数の企業が2計算書方式を採用していました。費用の表示に関しては、IFRSは、費目別分類表示又は機能別分類表示の選択適用を認めていますが、実際の適用状況は、おおよそ半分ずつでした。また、機能別分類表示を選択した場合、IFRSでは、費用の費目(性質)別分類に関する追加的情報を開示することが求められていますが(IAS 1.104)、分析によると、機能別分類を選択した対象企業の約1/3が費目別の金額を開示していなかったとしています。その他の事例として、例えば関連会社の損益のうち投資企業の持分(いわゆる「持分法による投資損益」)は独立項目として表示することとされていますが(IAS 28.38)、表示区分に関する具体的な規定が存在しないため、実務上はいくつかの取り扱いが見られます。この点に関して、本スタッフペーパーでも、6つの表示パターンがあったとしています(具体的には、①税前利益の前、②金融収益・費用の内訳項目、③営業利益の内訳項目、④営業利益の後、⑤当期利益の前、⑥売上その他の収益の内訳項目)。


キャッシュフロー計算書に関しては、圧倒的大多数の企業が間接法を採用していました。出発点となる「損益」については、IFRS(IAS第7号)では特段の規定がなく、実務上は税引前損益や税引後損益が多いように思われますが、本スタッフペーパーの調査では10種類のパターンがあったとしています。その他に、現金同等物の分類に関してもばらつきがあり、例えば、ある国の企業は保有する一定の投資信託株式を現地の金融規制当局の指針に基づき、現金同等物に分類している事例もあったことが紹介されています。