Knowledge/解説コラム

【代表者コラム】コダックとIBM

菊川 真  プライムジャパン代表 公認会計士

2012/01/25

今年はデジカメ市場が熱いのだそうです。高画素化、動画、オートフォーカスといった従来からある機能の高度化だけでなく、レンズ交換式の「ミラーレス一眼」というこれまでの一眼レフの弱点であった大きなボディーを克服する新しいジャンルの商品も投入され、一気に市場は拡大する勢いと言います。そのような中、米映像機器大手イーストマン・コダックは1月19日、ニューヨーク州の連邦破産裁判所に連邦破産法11条の適用による事業再編を申請しました。皮肉にも、今から約40年前にそのデジカメを最初に開発したのがコダックでした。しかし、当時の経営陣はオーブントースター大のデジカメを見て、「プロジェクトとしてはおもしろいが、それ以上の価値はない」と判断したと言います。収益性の高いアナログフィルム事業から60%もの利ザヤを稼いでいたため、既存事業を脅かす恐れからお蔵入りしたとも言われています。


言わずと知れていますが、コダックの歴史は輝かしいものでした。1879年、創業者であるジョージ・イーストマンが写真用乾板の大量生産を可能にする感光乳剤の塗布装置を発明し、翌年に創業開始。1900年には販売価格1ドルのブローニーカメラを誕生させ、写真撮影を一般家庭に普及させて行きました。以来、コダックはさまざまな技術革新を行い、米国を代表するブランドとなりました。1969年、人類初の月面着陸をしたアポロ11号における月面での写真撮影はコダックのフィルムで行われ、ハリウッドの映画産業をも長年にわたって支えてきました。


コダックの破たんの原因については、一般には「デジタル化」に乗り遅れたこと、また将来を見据えた多角化の失敗と指摘され、いわゆる「イノベーションのジレンマ」の典型例ともされます。そのため往年のライバルであり、今や液晶パネル用光学フィルムから化粧品、医薬事業と次々に進出し、「化学メーカー」として変貌を遂げつつある富士フィルムホールディングスと比較検証される論調も目立ちます。


実際、コダックの業績は1996年に売上高約160億ドル(約1兆2000億円)を付けましたが、その後はほぼ一貫して売上を減らしています。皮肉にもデジカメが急速に普及し出した時期とちょうど重なりますが、直近の2010年の売上は約71億ドル(約5300億円)と富士フィルムの約1/4まで落ち込んでいます。何が両社の違いをもたらしたのか?この辺りについては、エコノミスト誌が詳細を報じています。

一言で言ってしまえば「Surprisingly, Kodak acted like a stereotypical change-resistant Japanese firm, while Fujifilm acted like a flexible American one.」(驚いたことに、コダックが変化に抵抗する典型的な日本企業のように行動し、富士フィルムは柔軟な米国企業のように行動したのだ。)ということでしょうか?


ペンローズは多角化の経済的根拠を「未利用資源の存在」にあるとしました。企業内に蓄積される「未利用資源」が「範囲の経済」(すなわち複数の製品を一企業が生産する方が、各製品を単独で生産するよりもトータルのコストが低くなること)をもたらし、より収益性の高いシナジー効果を発揮するということです。その意味で、富士フィルムの多角化はこの典型例と言えます。わたし自身、大学では化学工学を専攻しましたが、フィルムは高分子成分などを膜状に貼ったものでコラーゲンを含んでおり、一種の皮膚のような性質を持っています。富士フィルムは、その開発過程において20万点の化学物質を蓄積していたそうですが、フィルム事業で培ってきた化学合成技術や解析技術、コラーゲン技術、ナノ技術等を有効活用し医薬品、化粧品関連事業に乗り出し、成功したということです。