Knowledge/解説コラム

【IFRSポイント解説】第9回:外貨換算

IFRS対応PT

2011/11/30

IFRSに関する実務上のポイントをシリーズでお届けしています。
外国為替については、日本基準とIFRSとでは類似点が多いですが、機能通貨の概念や個々の換算処理手続についていくつか相違点があります。
第8回は機能通貨の概念とこれを踏まえた外貨換算手続の概要と、在外営業活動体に対する純投資額から生じる為替差損益の処理について説明します。


1.外貨換算手続の概要


IFRSにおいては、以下の手続により外貨換算を行うことになります。

(1)各在外営業活動体に関する機能通貨の決定
(2)発生した外貨建取引の機能通貨への換算
      (外貨建取引の当初認識時における機能通貨への換算と報告期間末日等における換算)
(3)(連結)財務諸表の表示通貨の決定
(4)各在外営業活動体の機能通貨建財務諸表の表示通貨建財務諸表への換算

外貨換算手続き


IFRSにおいて、「外国通貨」(外貨)とは、「企業の機能通貨以外の通貨」(IAS21.8)とされ、また外貨建取引とは、「外貨で表示されているか又は外貨での決済を必要とする取引」とされています(IAS21.20)。機能通貨は企業が営業活動を行う主たる経済環境の通貨のことをいうものとされています。
日本基準においては、外貨建取引を「売買価額その他取引価額が外国通貨で表示されている取引」(外貨建取引等会計処理基準注解1)としています。
日本基準では円貨以外による取引を外貨建取引としており機能通貨という概念が存在しないのに対し、IFRSでは企業が自ら決定した機能通貨以外の通貨による取引を外貨建取引としている点で異なります。したがって、まず機能通貨の決定を行う必要があります。
また機能通貨は、在外営業活動体ごとに決定することが必要となります(IAS21.17)。
在外営業活動体とは、報告企業の所在国以外の国又は当該所在国の通貨以外の通貨にその基盤を置いている報告企業の子会社、関連会社、ジョイント・ベンチャー又は支店をいいます(IAS21.8)。日本基準における在外支店や在外子会社等(外貨建取引等会計処理基準二、三)を含む概念であり、IFRSの規定上これらは取り扱いが異なるわけではありません。


(1)機能通貨の決定
機能通貨とは、「企業が営業活動を行う主たる経済環境の通貨」のことをいいます。(IAS21.8)。この営業活動を行う主たる経済環境とは、企業が主に現金を創出し支出する環境のことを意味します。


① 主たる要因の検討

  機能通貨の決定にあたっては、まず営業活動を構成する販売面と原価面との双方の観点から、以下に記載する主たる要因を検討します(IAS21.9)。

a. 販売に関連する通貨

(ア) 財貨及び役務の販売価格に大きく影響を与える通貨。財貨や役務の販売価格が表示され、決済されるときの通貨が該当する。(イ) ある国における競争力及び規制が財貨と役務の販売価格を主に決定することになる場合には、当該国の通貨。

b. 原価に関連する通貨

(ア) 財貨や役務を提供するための労務費、材料費、その他の原価に主に影響を与える通貨。当該原価が表示され、決済されるときの通貨が該当する。


② 上記の要因を検討しても、機能通貨を明確に決定できない場合には、以下の要因も検討します(IAS21.10)。

(ア) 負債性金融商品や資本性金融商品の発行等の財務活動により資金が創出・調達されるときの通貨。(イ) 営業活動からの受取金額が通常留保される通貨


③ また上記の要因に加え、その機能通貨が報告企業の機能通貨と同じか否かを判断するために、以下の要因も追加的に考慮します(IAS21.11)。

(ア) 在外営業活動体の活動が、自主性をもって営まれているか、又は報告企業の延長線上で営まれているか。(イ) 報告企業との取引が、在外営業活動体の活動に占める割合。(ウ) 在外営業活動体からのキャッシュ・フローが、報告企業のキャッシュ・フローに直接影響を与え、また報告企業にすぐに送金できるようになっているか。(エ) 在外営業活動体の活動からのキャッシュ・フローが、既存の及び通常予定される債務の返済のために十分か。


④ 以上の事項を検討しても、機能通貨が明確に決定できない場合には、経営者は判断力を行使して、基本となる取引、事象及び状態の経済的効果を最も忠実に表す機能通貨を決定する必要があります(IAS21.12)。


⑤ 機能通貨の変更検討と変更時の処理

  企業の機能通貨は一度決定すると、基本的な取引、事象及び状態に変化がない限り変更することはできません(IAS21.13)。したがって機能通貨の決定方針・検討結果・根拠計数等を明確にしておく必要があります。

  また、機能通貨は、企業の基本的な取引、事象及び状態に変更がある場合には、変更が必要となる可能性があります(IAS21.36)。そのため、企業は毎期事業内容、取引スキームの変更の有無等、機能通貨に変更の必要性がないか検討を実施する必要があります。

  機能通貨に変更がある場合には、当該変更の日から将来に向けて新しい機能通貨に適用される換算手続を適用しなければなりません(IAS21.35)。機能通貨の変更は、将来に向かって効果を有します(IAS21.37)。すなわち、変更日における為替レートを使用してすべての項目を新しい機能通貨に換算します。


⑥ 機能通貨に関する実務上のポイント

a. 機能通貨は、企業グループを構成する親会社及び各子会社や、本店・支店等、営業活動体ごとに判断・決定する必要があります。この判断については、報告企業である親会社の側でグループ全体として整合するように決定することが重要と考えられます。  親会社を含め各(在外)営業活動体の現地通貨以外の通貨が機能通貨として決定された場合には、複数通貨での記帳が可能となるようなシステム対応を行う必要が生じます。

b. 初度適用に際して、IFRSにおける機能通貨が現地通貨(従来の記帳通貨)と異なると判断された営業活動体については、以下のように機能通貨ベースへの移行を行う必要が生じます。

(ア) 貨幣性項目及び非貨幣性項目(うち公正価値評価される項目)

    従来の記帳通貨による数値を当該通貨と機能通貨間の移行日時点における直物為替レートで換算します。

(イ) 非貨幣性項目(うち取得原価評価される項目)

    当該項目の取得日以降、各仕訳時点の為替レートに基づき遡及して外貨換算する必要があります。

  実務上は、多くの種類、品目、個数を保有しかつ取得日から長期間経過した有形固定資産の遡及計算についての負担が大きくなると考えられます。

    ただし、仮に有形固定資産の移行日における公正価値をもってみなし原価とする方法を採用した場合(【IFRSポイント解説】第2回:有形固定資産「移行日における公正価値をもってみなし原価とする方法」参照)には、移行日時点における為替レートにてみなし原価を換算すればよいことになります。

    固定資産の移行日における帳簿価額の算定方法に決定にあたっては、外貨換算の遡及修正への影響についても考慮した上で、総合的に検討する必要があります。