Knowledge/解説コラム

金融行政に見る銀行の未来

菊川 真  プライムジャパン代表 公認会計士

2016/10/31

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金融庁は、2016年10月21日、「平成28事務年度 金融行政方針」を公表した。金融行政方針は、今後1年間、金融庁が何を目指し、具体的にどのような方針で金融行政を行っていくのかを明らかにしたものである。このなかで、金融庁は、金融を取り巻く環境は急激に変化しており、以下の3つの変革が必要との見解を示している。

(1)金融当局・金融行政運営の変革(2)国民の安定的な資産形成を実現する資金の流れへの転換(3)「共通価値の創造」を目指した金融機関のビジネスモデルの転換


ここでわが国の金融行政を少し振り返ってみよう。


日本の高度成長は、旧大蔵省と銀行による二層構造のガバナンス体制、すなわち護送船団行政とメーンバンク制に支えられていた。しかし、70年代後半ごろから金融の自由化と国際化の時代に入り、戦後体制にも限界が見え始めた。大きな節目となったのは、バブル崩壊後の1996年である。当時の橋本内閣は、金融行政の方針を180度変え、「フリー・フェア・グローバル」の3原則を掲げた金融システム改革、いわゆる金融ビックバンに乗り出した。バブル崩壊で傷んだ日本の産業構造を変革するには、もはや旧態依然とした金融システムでは立ち行かない。そのためには、それまでの二層構造によるガバナンスシステムから脱却し、欧米流の直接金融主体のリスクマネーの供給と市場規律による経営監視システムへ転換することが必要と考えられた。


これには大きな痛みも伴った。制度改革を先取りするかのように信用不安が拡大、金融機関の破たんも相次ぎ、海外からの圧力もこれまで以上に高まった。危機感を強めた政府は、2002年、「金融再生プログラム」を策定し、焦点となっていた不良債権問題をハードランディングさせる。バブル発生から金融システム不安が沈静化するまでの約20年間、わが国は、外圧にさらされながら、欧米流の規制緩和路線をお手本としてきた。そして、そうした日本の姿を、欧米の金融筋はやや冷ややかな目で眺めながら、グローバル化とユニバーサルバンク化を拡大させていた。


しかし、この構図は2007年に顕在化した金融危機により一変した。世界の金融システムが機能不全に陥る事態を前に、欧米の政府・中央銀行は、金融機関の国有化、公的資金の注入、不良債権の買い取りなどを迅速に行った。だが、こうした政策は日本の教訓を活かしたものでもあった。そしていまなお、金融危機の後遺症に悩まされている欧州銀行の存在は、信用不安の火種となっている。現在、世界の金融行政に見られる規制強化(バーゼルⅢ・ドット・フランク法など)の流れは、少なくともその方向性において、かつての日本の金融行政のあり様を思い起こさせる。


近年、わが国の銀行は、その本源的機能であるはずの「信用創造機能」を有効に発揮できていない。また、ビットコインに代表される仮想通貨の普及は、現行の通貨体制に影響を及ぼし、さらにその中核技術であるブロックチェーンを始めとするテクノロジーの進化は止まらない。今後、資本主義経済に大きな変革が起こり得るとすれば、それは「信用」「貨幣」「テクノロジー」というこれら3つを軸としたものになるであろう。そのとき、資本主義を支えてきた銀行は、必然的にその役割を問われることになる。求められる人材の質や行内のヒエラルキーも変わってくる。行政と業界との関係においても、戦後の「蜜月」関係からバブル崩壊後の「対立」関係を経て、現在は「対話」が重視されているが、これからは「交流」の度合いを深め、官民一体となった価値の創出が欠かせない。


規制強化への対応や金利低下による利鞘の縮小など、いま各国の金融機関は共通の課題に直面している。とりわけ、わが国の銀行は、少子高齢化に伴う社会構造の急激な変化などにさらされている点において、いまだどの国も経験していない領域に入っている。もはや、かつてのような手本となるモデルは存在せず、自らが新たなロールモデルを創り上げていかねばならない。


わが国はフロントランナーとなった。


外部リンク:
金融庁 平成28事務年度 金融行政方針について