Knowledge/解説コラム
【代表者コラム】「IFRS第15号の明確化」のポイント解説 【前半】
~公表後の主な動向~
菊川 真 プライムジャパン代表 公認会計士
2016/06/30
I.はじめに

国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)は、収益認識に関する新たな会計基準を共同で開発し、2014年5月、それぞれIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」(IFRS15号)および米国会計基準アップデート2014-09:ASC Topic 606(Topic 606)(以下、合わせて「新収益認識基準」という)を公表しました。その後、両審議会は、移行リソース・グループ(以下、「TRG」という)を立ち上げ、新収益認識基準を実務に適用する上での課題を整理するとともに、TRGから提起された論点については、両審議会の合同会議において検討が進められてきました(図表1)。
図表1:IFRS第15号公表後の主な動向
今般、IASBは、IFRS第15号の一部を改訂する「IFRS第15号の明確化」(以下、「本改訂」という)を公表しました(2016年4月12日)。本改訂は、以下の論点を含んでおり、2018年1月1日以後開始する事業年度から発効されます。また、早期適用も認められています。
① 履行義務の識別② 本人か代理人かの検討③ 知的財産のライセンス付与④ 経過措置の簡素化(移行時の実務上の便法を追加) |
本改訂は、TRGを通じて提起された論点に対処するため、IASBとFASBとの合同会議によって決定した内容に基づいたものでありますが、IFRS第15号の基本原則を変更するものではなく、基準を開発した際のIASBの意図を明確にすることを目的としています。IASBは、本改訂により、実務上のばらつきが生じるリスクや新収益認識基準を実務に適用することに伴うコストと複雑性を軽減し、一貫性のある基準の適用に役立つと考えています。
本改訂と前後して、FASBも新収益認識基準の改訂を最終化していますが、IASBとFASBでは、一部異なる決定を行っています。IASBは、早期適用も認めている中で、公表後、強制適用前に基準を改訂することによる混乱や影響を懸念し、修正が必要か否かを検討するに際しては高いハードルを適用し、変更はできる限り最小化することとしています(BC27E項)。これに対して、FASBはより広範な修正を加えています(BC27F, G項)。このため、IASBは、両審議会が異なる決定を下したことによって、会計上異なる結果が生じる可能性があるとしています。
Ⅱ.IASBとFASBの改訂内容の異同
両審議会は、以下の論点については同じ修正を行っています。
- 履行義務の識別
- 本人か代理人かの検討
- 売上高ベース・使用量ベースのロイヤルティ(知的財産のライセンス付与)
ただし、履行義務の識別について、FASBは、IASBによる本改訂にはない変更を別途追加しており、ライセンス付与に関しても、約定の性質の定義に係るガイダンス等、IASBが変更の必要なしと決定した論点について変更を加えています。
また移行時の経過措置のうち、条件変更した契約に関しては、両審議会とも同様の実務上の便法を追加していますが、完了している契約に関しては、FASBは、①完了している契約の定義を変更し、また②累積的影響額調整アプローチ(IFRS15:C3(b), US Topic 606-10-65-1(d)82))を適用した場合にのみ、IASBによる経過措置と同様の実務上の便法を追加しています。
さらにFASBは、IASBが変更を見送った論点、すなわち回収可能性の検討、現金以外の対価、売上税の表示についても改正を行っています。
図表2:両審議会による新収益認識基準の明確化
トピック | 論点 | IASB | FASB |
---|---|---|---|
履行義務の識別 |
| 変更 (IFRS第15号明確化) | 変更 (ASU 2016-10) |
| 変更なし | ||
ライセンス付与 |
| 変更 (IFRS第15号明確化) | |
| |||
| 変更なし | ||
本人か代理人かの検討 |
| 変更 (IFRS第15号明確化) | 変更 (ASU 2016-08) |
経過措置(移行時の実務上の便法) |
| 変更 (ASU 2016-12) | |
回収可能性の検討 |
| 変更なし | |
現金以外の対価 |
| ||
売上税の表示 |
|
NEXT:「改訂のポイント:履行義務の識別」