Knowledge/解説コラム

【IFRSナレッジ講座】IFRSの基礎と開示分析~任意適用企業の動向~
第1回 初度適用

菊川 真  プライムジャパン代表 公認会計士

2015/11/20

1.サマリー


IPOfirst
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JGAAPやUSGAAPに準拠していた企業が、IFRSを最初に採用する場合、初度適用に該当し、移行初年度において、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」に基づいた財務報告をしなければなりません。IFRS第1号は、IFRSを初めて適用する企業に対して、包括的なガイダンスを提供することを目的としています。







図表1 IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」

IFRS第1号の構成内容
  1. 適用範囲
  2. 認識および測定
    1. 会計方針
    2. 遡及適用の禁止項目
    3. 遡及適用の免除項目
  3. 表示および開示
    1. 企業の最初のIFRS財務諸表に表示する計算書と比較情報
    2. IFRSへの移行についての説明(調整表)

図表2 サマリー

  • 初度適用にあたっては、原則として、すべての基準を遡及適用しなければならない。
  • 報告初年度では、直近の財務諸表と少なくとも1年分の比較財務諸表を開示することを要する。
  • 最初のIFRS財務諸表には、比較情報として開示される最初の事業年度の期首の財政状態計算書(IFRS開始財政状態計算書)を含めなければならない。
  • 従前の会計基準からIFRSへの移行に伴う影響の開示も要する。


2.適用対象


IFRS第1号の適用対象は、企業が初めてIFRSに準拠して財務諸表を作成する場合および初度適用の対象となる会計年度の期中財務報告をIAS34号に基づいて行う場合になります(IFRS第1号2項)。

IFRS第1号の適用対象(IFRS1. 2-5)・ 最初のIFRS財務諸表・ 上記財務諸表の会計年度の一部を構成する中間(四半期)財務報告(該当ある場合)


ここで、「最初のIFRS財務諸表」とは、企業が明示的に限定をつけることなくIFRSに準拠している旨を記載し、会計処理の基礎としてIFRSを適用する最初の年次財務諸表を指します。


図表3 最初のIFRS財務諸表

最初のIFRS財務諸表


図表4 初度適用の事例

初度適用に該当する事例初度適用に該当しない事例
直近の財務諸表はすべての点でIFRSと合致していたが、IFRSに準拠している明示的・無限定の記述がなかった。IFRS準拠の明示的・無限定の記述を含む財務諸表とともに表示していた、他の国内の定めによる財務諸表の開示をやめた。
IFRSに準拠した財務諸表を内部用のみに作成し、外部利用者に公表していなかった。国内の定めに従って財務諸表を作成していたが、それらがIFRSに準拠している明示的・無限定の記述を含んでいた。
連結目的でIFRSに準拠した報告パッケージを作成していたが、完全な1組の財務諸表(IAS第1号)は作成していなかった。監査報告書に限定意見が付されていたとしても、IFRS準拠の明示的・無限定の記述を含む財務諸表を開示していた。


3.表示および開示


最初のIFRS財務諸表には、少なくとも3つの財政状態計算書、2つの包括利益計算書・持分変動計算書・キャッシュフロー計算書ならびに関連する注記を表示しなければなりません(IFRS第1号21項)。すなわち、直近で開示するIFRSに準拠した財務諸表に加えて、最低でも1年分の比較情報を開示しなければならないことになります。また、IFRS第1号を理解する上では、初度適用に関するいくつかの用語の定義を押さえておくことも重要です。


図表5 初度適用における用語の定義

IFRS移行日最初のIFRS財務諸表において、IFRSによる完全な比較情報を表示する最初の期間の期首
IFRS報告日財務諸表または期中財務報告の対象となっている最終の報告期間の末日
IFRS開始財政状態計算書IFRS移行日現在の財政状態計算書
最初のIFRS報告期間最初のIFRS財務諸表の対象とされている最新の報告期間

例えば、3月決算の企業が、2016年3月期からIFRSを初めて適用する場合(比較年度は1年)、IFRS移行日は2014年4月1日、IFRS報告日は2016年3月末、最初のIFRS財務諸表は2016年3月期のIFRS財務諸表となります。


図表6 初度適用と開示書類

最初のIFRS財務諸表



4.IFRS開始財政状態計算書


初度適用企業は、IFRSに準拠した会計処理の出発点として、IFRS移行日現在での開始財政状態計算書を作成および開示をしなければなりません(IFRS第1号6項)。この開始財政状態計算書の作成あたっては、まず移行日現在でのすべての資産および負債をIFRSに準拠して認識・測定することが求められています(IFRS第1号10項)。また、移行に伴う調整額は、その他の包括利益を経由することなく、直接利益剰余金(または適切な場合は、資本の部に属する他の項目)の期首残高に計上します(IFRS第1号11項)。


図表7 IFRS開始財政状態計算書の作成方法

IFRS開始財政状態計算書の作成方法

認識IFRSで認識が求められているすべての資産・負債の認識
認識の中止IFRSが資産・負債として認識を求めていない項目の認識の中止
分類の変更IFRSに基づいた資産・負債および資本項目への分類の変更
測定認識したすべての資産・負債の測定にIFRSを適用


5.会計方針


初度適用企業は、IFRS開始財政状態計算書、比較年度の財務諸表および最初のIFRS報告期間の財務諸表に対して、同一の会計方針を適用し、開示する最終のIFRS財務諸表の報告期間の末日(IFRS報告日)現在で有効な基準に準拠して作成しなければなりません(IFRS第1号7項)。準拠する基準の発効日または改訂日が、たとえIFRS移行日以降であったとしても、あくまで直近の会計処理基準が、開始財政状態計算書および比較情報として開示される財務諸表にも適用されます。


初度適用においては、原則として、各基準を遡及適用しなければなりません。すなわち、IFRS報告日において有効な基準を、あたかも当初から継続して適用していたものとして会計処理することが求められています。ただし、IFRSの初度適用に伴う実務上の負担軽減等の観点から、IFRS第1号では、遡及適用禁止と遡及適用免除の2つの例外規定を設けています(IFRS第1号12項)。遡及適用の免除規定は、任意で選択可能ですので、IFRS移行にあたって、どの免除規定を採用するかは、実務上、重要なポイントになります。ただし、免除規定は、あくまで特定の項目に限定されたものですので、他の項目に類推適用できない点には注意が必要です。



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