Knowledge/解説コラム

【代表者コラム】IFRSを巡る国内の動向と展望 No.3~ GAAP差異と修正国際基準の意義(2)~

菊川 真  プライムジャパン代表 公認会計士

2015/09/08

はじめに


IPOfirst
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国内におけるIFRS任意適用企業は、近年、着実な増加を見せているものの、ここからさらなる積み上げを図るためには、日本基準とIFRSとの相違に起因する実務上の対応等、依然としてクリアすべき課題も少なくない。そうしたなか、2015年6月30日にはASBJから修正国際基準が公表され、日本基準、IFRS、米国基準と併せて4つの会計基準が国内に並存することになった。
このような状況を踏まえ、前号および前々号では、IFRSの任意適用の足元の状況、および日本基準とIFRSとの重要な差異について概観した上で、修正国際基準について、その公表に至る経緯・概要等についてご紹介した。修正国際基準における初度エンドースメント手続では、「削除又は修正」を必要最小限にする観点から、日本基準とIFRSとの間で会計基準に係る基本的な考え方の相違が大きい、「のれんの非償却」と「その他の包括利益(OCI)のリサイクリング処理」の2項目に限定して行われている。
そこで本号では、前号に続き、これら2つの論点について、さらに掘り下げた検討を加えるとともに、最新の動向についてもご紹介した上で、IFRSを巡る今後の展望について考察してみたい。



1.のれんの非償却


企業結合により取得したのれんについて、元々IFRSでは償却することとされていた(1983年IAS第22号)。しかし、2004年に公表されたIFRS第3号において、のれんの償却を禁止するとともに、毎年の減損テストを求める内容に改正されている。IFRS第3号において、のれんを非償却とした主たる理由は以下のとおりである。


IFRSの考え方

非償却とする主な理由
  1. のれんの減価パターン・耐用年数は、一般に予測不能である。
  2. 企業結合後の自己創設のれんが認識されない状況において、企業結合により取得したのれんの費消を表す償却費の有用性には疑問がある。
  3. 厳格で実用的な減損テストを開発できれば、償却しなくとも、財務諸表利用者により有用な情報を提供できる。

これに対して、修正国際基準において、のれんの償却を行うべきとしている主たる理由は以下のとおりである。


修正国際基準の考え方

償却すべきとする主な理由
  1. のれんは投資原価の一部であり、その後の利益は、原価を超えて回収された超過額であると考えられ、費用と収益を対応させる観点から償却を行うことが必要。
  2. のれんの構成要素の一部が超過収益力を示すとすると、競争の進展によって通常はその価値が減少するものであり、償却を行わないとその減価を無視することになる。
  3. のれんの減価が全く認識されない可能性がある方法よりも、規則的な償却により、毎期の減価を認識する方法が合理的である。
  4. 通常、十分な分析を行った上で買収の意思決定をするため、耐用年数の見積りは可能である。また、見積りの難しさはのれんに限定されない。
  5. 費用配分を行う償却と回収可能価額を算定する減損テストでは、目的が異なっているため、減損テストによって償却を補うことはできない。


日本基準とIFRSの検討


IFRSにおいては、のれんの減価パターンは予測不能なため、非償却とした上で、毎期の減損テストによって償却を補完していこうというのが、その基本的な考え方である。
これに対して、日本基準は、のれんは買収におけるコストであるという認識のもと、毎期の収益と対応させて償却し、減損は兆候があった場合に判定するというのが基本的な立場である。端的に言えば、規則的償却により、買収先の業績悪化等を原因とした突然の巨額損失の計上を回避するという保守的会計思考が、日本基準の考え方の根底にある。のれんを償却することに関して、修正国際基準において示されている理由は、このような従前からの考え方を踏襲したものである。


この点について、のれんを投資原価の一部と見るか否かについては、議論の余地があるものの、少なくとも競争の過程で、のれんを費消しつつ、買収後の収益を獲得していくことは間違いない。したがって、買収等により獲得した経済的資源の消費を反映し、収益との適切な期間対応を図るという考え方は、合理的である。また、時の経過とともに、当初ののれんは自己創設のれんによって置き換えられていくが、自己創設のれん※1は会計上認識しない以上、自ずと何らかの減価を認識する必要がある。


※1 自己創設のれんについては、IAS第38号「無形資産」において、資産として認識することが禁止されている。すなわち、場合によっては、支出が将来の経済的便益を生む出すために発生することもあるが、それは認識基準を満たすような無形資産の創出にはつながらず、信頼性をもって原価を測定できるような、識別可能な資産ではないからであるとされている。


IFRSが理由として挙げる、減損テストによって償却を補完できるとする主張は、回収可能価額には買収後に創出した自己創設のれんも含まれることを考慮すると、償却をしないことによって、実質的には自己創設のれんの資産化を認めることになりかねない。


減損のみのアプローチについては、適時・適正な減損テストおよびそれに基づいた適切な開示を行うことにより、利害関係者に対して有用な財務情報を提供し得るであろう。しかしながら、実務上、その適切な運用には相応のコストと判断を伴い、また、過去の事例にも見られるように、変化の激しい現代の経営環境においては、一般的に減損損失の計上が遅れる傾向にあるのも、また事実である。



のれんを巡る議論の動向


実際、のれんの会計処理を巡っては、世界的にも様々な議論がなされており、多くの調査およびレビューが実施されている。例えば、ASBJは、欧州財務報告諮問グループ(FERAG)等と共同で、ディスカッションペーパー「のれんはなお償却しなくてよいのか」を2014年7月に公表している。
ディスカッションペーパーでは、関係者へのアンケート調査を実施した結果として、①減損のみのアプローチによる情報の有用性に多くの関係者が疑問視していること、②作成者および監査人は、現行の減損テストのコストと主観性等に懸念を有していること、さらに③減損のみのアプローチは損失計上が遅くなりすぎることが多く、金融危機の一因となった可能性があることなどを明らかにした上で、のれんの償却を再導入することが適切であるとの見解を示している※2。
また、IASB議長のハンス・フーガーホースト議長は、2014年9月の日経新聞のインタビューの中で、のれんの会計処理について将来的な見直しを示唆していた※3


※2 なお、ディスカッションペーパーに寄せられたコメントのフィードバックが、2015年2月に公表されている。その中で、コメント提供者の多くが、ディスカッションペーパーの見解に同意していることが示されている。※3 のれんの減損処理のタイミングが遅すぎるとの認識を示しつつ、改善策として、より早く減損を認識するのか、規則的償却がよいのかについて、慎重に検討していくと述べている。


さらに、2015年6月、IASBは「IFRS第3号『企業結合』の適用後レビュー」を公表した。適用後レビューでは、現行基準を実務に適用する上での論点を洗出し、広くコメントを募集するとともに、今後の対応方針が示されている。中でも、のれんの会計処理、すなわち「減損のみアプローチ(非償却)」と「償却&減損アプローチ」については、最重要論点として扱われ、今後リサーチを実施する予定であることが示されている。


IFRS第3号「企業結合」の適用後レビュー

論点コメント今後の対応
のれんの会計処理
(減損のみアプローチと償却&減損アプローチ)
現行の(非償却)減損のみアプローチに対しては様々な見解が寄せられている。

【減損のみアプローチを支持する主な意見】
  1. 買収価格と関連付けたリターンの算定に有益
  2. 経営責任の評価に役立つ
  3. 買収が期待通り機能しているかの評価に役立つ
【償却&減損アプローチを支持する主な意見】
  1. のれんは時の経過とともに自己創設のれんによって置き換わられていく
  2. 耐用年数は他の無形資産と同様に見積可能
  3. 償却により損益の変動幅を緩和させることが可能
IASBは今後リサーチを行う予定。

【主な検討事項】
  1. 現行の減損のみアプローチにより提供されている情報を損なうことなく、いかにしてのれんの会計処理に伴うコストを削減し、または改善することができるか。
  2. 減損のみアプローチにより提供されている情報を損なうことなく、償却&減損アプローチを開発することが可能か否か。

このように、のれんの会計処理を巡っては、日本のみならず、欧州・米国を含めて、より一層検討に値する論点であるとする共通認識があることは間違いない。今後、のれんの会計処理については、減損テストのあり方を含め、改善に向けた議論がより活発化していくものと思われる。


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