Knowledge/解説コラム

【代表者コラム】IFRSを巡る国内動向と展望 No.2 ~GAAP差異と修正国際基準の意義(1)~

菊川 真  プライムジャパン代表 公認会計士

2015/09/03

はじめに


IPOfirst
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前号では、IFRS任意適用の足元の状況を確認した。2015年6月末現在のIFRS任意適用企業(適用予定を含む)は88社にのぼり、100社の大台も視野に入ったといえるだろう。また任意適用企業の時価総額合計は、東証時価総額の20%を占めるようになり、すでに米国基準適用企業を超えて一定割合を占めるに至っている。一方で、IFRS任意適用のさらなる積み上げを図るには、日本基準とIFRSとの相違等を起因とした対応など、実務においてクリアしなければならない課題も少なくない。そうした中で、企業会計基準委員会(ASBJ)より、「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」(以下、「修正国際基準」という)が、2015年6月30日に公表されたことは周知のとおりである。

修正国際基準では、大きく2つの項目について「削除又は修正」(エンドースメント)が行われているが、このように限定してエンドースメントが行われたことは、ある意味、現行の日本基準とIFRSとの間にある根本的な違いを、あらためて浮き彫りにしたのではないだろうか。したがって、修正国際基準の成り立ちについて検討を加えることは、今後議論を深めていく上でも、一定の意義があるように思う。そこで本号では、日本基準とIFRSとの主要な差異に触れつつ、修正国際基準について、その公表に至る経緯やその検討プロセスについて整理するとともに、その意義について考察してみたい。なお、文中の意見に関する部分は、筆者の個人的見解であることを申し添えておく。



1.公表に至る経緯


修正国際基準は、2013年6月に企業会計審議会より公表された「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」(以下、「当面の方針」という)を踏まえ、IFRSのエンドースメント手続の一環として策定されたものである。「当面の方針」では、IFRSの任意適用の積み上げとIFRSに対する積極的な意見発信を図ることが重要であることが示され、その方策の一つとして、現行制度における指定国際会計基準に加えて、IFRSの個別基準を一つ一つ検討し、必要があれば一部基準を「削除又は修正」して採択するエンドースメントの仕組みを設けることが提言された。

このため、ASBJにおいて「IFRSのエンドースメントに関する作業部会」を設置し、2013年8月より審議を重ねた結果、修正国際基準として、先般、公表されるに至ったものである。

IFRS対応の変遷



2.修正会計基準の位置付け



指定国際会計基準については、いわゆるピュアなIFRSを前提に、既に任意適用している企業が着実に増加していることを踏まえると、現行の制度的な枠組みとして維持する必要がある。
一方で、さらなる任意適用の積み上げを図る観点から、IFRSをより柔軟に受け入れることを可能とすべく、我が国の会計基準とIFRSとの間のGAAP差異のある項目について、一部を見直し、「削除又は修正」するものとして修正国際基準を制定したものである。


図表2.両基準の制度的枠組みと位置付け

指定国際会計基準修正国際基準

IASBにより公表された会計基準等について、一部を指定しないことは可能だが、一部を修正する手続きは念頭に置いた規定とはなっていない。IASBにより公表された会計基準等について、我が国で受入可能か否かを判断し、必要に応じて「削除又は修正」(エンドースメント)する。



現時点では、IASBにより公表された会計基準等のすべてが指定されており、結果として「指定国際会計基準」はIASBにより公表された会計基準等と同一、すなわちピュアなIFRSのアドプションとなっている。日本と基本的な考え方と合わない、あるいは実務上の困難さがある場合において、一部の会計基準等を「削除又は修正」する仕組みを設けることで、IFRSをより柔軟に受け入れることが可能になるとともに、我が国の考え方を意見発信することが可能となる。

指定国際会計基準と修正国際基準



3.GAAP差異と検討プロセス


(1)検討の対象となった主な論点

作業部会では、2012年12月31日現在でIASBより公表されている会計基準等を、エンドースメント手続の対象としている(初度エンドースメント手続)。
具体的には、IFRSと日本基準を比較して、基準間差異の洗出しを行った上で、それらの論点を項目毎に整理・検討を行っている。論点は2つに大別される。① 「会計基準に係る基本的な考え方に重要な差異があるもの」② 「任意適用を積み上げていくうえで実務上の困難さがあるもの(周辺制度との関連を含む)」その結果、最終的に「削除又は修正」の対象となった項目は、「のれんの非償却」と「その他の包括利益(OCI)のリサイクリング処理」の2つである。

会計基準の差異


会計基準の差異



(2)検討項目として抽出された主たる論点

① 会計基準に係る基本的な考え方に重要な差異があるもの

項目IFRS会計基準等GAAP差異の概要
のれんの非償却IFRS第3号「企業結合」
  • のれんの非償却
IFRSでは非償却であるのに対して、日本基準では20年以内の期間にわたって規則的に償却する。

OCIのリサイクリング処理IFRS第9号「金融商品」
  • 資本性金融商品への投資のOCIオプション
  • 公正価値オプションを選択した金融負債の自己の信用リスク
IAS第19号「従業員給付」
  • 退職給付債務(純額)に係る再測定部分
IFRSでは、公正価値の変動部分など一定の項目についてOCIに計上する場合には、基本的にリサイクリングしないが、日本基準ではOCIに計上した後に、一定の条件のもとにリサイクリングする。

OCIのリサイクリング処理IAS第16号「有形固定資産」
  • 有形固定資産の再評価モデル
IAS第38号「無形資産」
  • 無形資産の再評価モデル
IFRSでは、原価モデルと再評価モデルを選択できるが、再評価モデルを選択した場合、評価差額はOCI認識し、リサイクリングしない。一方、日本基準では原価モデルのみである。

公正価値測定の範囲IAS第16号「有形固定資産」
  • 有形固定資産の再評価モデル
IAS第38号「無形資産」
  • 無形資産の再評価モデル
IAS第40号「投資不動産」
  • 投資不動産の公正価値モデル
IFRS第9号「金融商品」
  • 相場価格のない資本性金融商品の公正価値測定
IAS第41号「農業」
  • 生物資産および農産物の公正価値測定
IFRSでは、公正価値で測定するか、もしくは原価モデルとの選択適用ができるが、日本基準は原価モデル主体である。例えば、IFRS上、非上場株式は原則として公正価値で評価し、また投資不動産は公正価値評価を選択適用できる。
これに対して、日本基準上は、非上場株式については時価評価しないことが認められており、また投資不動産は公正価値の選択適用を認めていない。

開発費IAS第38号
  • 開発費の資産計上
IFRSでは、開発費は一定の要件(6要件)をすべて満たした場合には、無形資産として計上しなければならないが、日本基準では発生時の費用として認識する。

※1 青のハイライト部分は「削除又は修正」となった項目。その他の項目については、「削除又は修正」を必要最小限とする観点から、「削除又は修正」は行なわれていない。※2 その他の検討項目としては、固定資産の減損の戻入れ(IAS第36号「資産の減損」)、資本の部の表示および包括利益計算書の段階別表示(IAS第1号「財務諸表の表示」)、引当金の認識基準(IAS第37号「引当金、偶発負債及び債務」)、企業結合のおける全部のれん方式(IFRS第3号)がある。



② 任意適用を積み上げていくうえで実務上の困難さがあるもの(周辺制度との関連を含む)

項目IFRS会計基準等GAAP差異の概要
会計基準の適用、解釈に関する項目
  • 有形固定資産の減価償却方法、耐用年数の決定(IAS第16号)
  • 有給休暇(IAS第19号)
  • 金融負債と資本の分類(IAS第32号「金融商品:表示」)
  • 子会社、関連会社の報告日が異なる場合の取扱い(IFRS第10号「連結財務諸表」他)
    など
例えば、有形固定資産について、日本基準では、従来、税法基準に基づいた減価償却方法・耐用年数を用いていることが一般的であるが、IFRSでは、将来の経済的便益の消費パターンによる償却方法、予想される技術的・経済的陳腐化等を考慮した耐用年数を採用する必要がある。

その他の実務上の困難さを含む項目
  • 機能通貨(IAS第21号「外国為替レート変動の影響」)
  • 特定の業種において適用されている減価償却方法(IAS第16号)
  • 修正後発事象の会計処理(IAS第10号「後発事象」)
  • など
例えば、機能通貨について、IFRSでは、企業が営業活動を行う主たる経済環境等を考慮して決定しなければならないが、日本基準には、機能通貨の概念はなく、実質的に法的形態に応じて、所在国の通貨が機能通貨とみなされている。したがって、IFRSを適用することによって、自国通貨を報告単位とできない可能性がある。

開示に関する項目
  • 年度における開示(リスク感応度分析、確定給付制度に関する開示、子会社・関連会社等の要約財務情報)
  • 期中財務報告の範囲および開示対象の期間(IAS第34号「期中財務報告」)
例えば、IFRSでは、金融商品から生じるリスクの感応度分析に関する開示が求められる。また四半期での要約キャッシュフロー計算書の開示が求められ、第1・3四半期においては作成が省略できる日本基準と差異がある。



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