Knowledge/解説コラム

【代表者コラム】不正会計問題と監査制度

菊川 真  プライムジャパン代表 公認会計士

2015/08/24

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株式会社東芝(以下、「東芝」)の不正会計問題については、すでに様々な視点から多くの論述がなされている。今回の事案を巡っては、経営陣の責任、監査委員会や社外取締役等によるガバナンスの問題が指摘されているが、外部監査人の責任の有無について問う声も多い。そこで本稿では、監査の視点から当該問題について考察するとともに、今後の監査制度のあり方について検討を加えたい。なお、文中の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることを申し添えておく。


7月に公表された第三者委員会調査報告書の要約版(以下、「調査報告書」)では、会計監査人による監査について、「本調査の対象となった会計処理の多くについては、会計監査人の監査(四半期レビューを含む)の過程において指摘がなされず、結果として外部監査人による統制が十分に機能しなかった。」としつつも、「工事進行基準による会計処理など、(中略)においては、外部の会計監査人がその見積りの合理性を独自に評価することは極めて困難」とし、「内部統制が有効に機能しない状況下では、(中略)独立の第三者である会計監査人がそれをくつがえすような強力な証拠を入手することは困難である。」とした上で、会計監査人の監査の妥当性の評価については、調査報告書は「目的としていない。」としている。


会計監査について評価は行わないとしている点は、法的権限のない第三者委員会が、会社からの委嘱に基づいて調査を行っている以上、ある意味当然ではある。しかしながら、その前段にある会計監査の限界に触れている点については、率直に言って違和感を禁じ得ない。


確かに会計監査では、会社の内部統制に依拠しつつ、リスクアプローチに基づいた監査手続きを実施している。しかしながら、今回問題とされた工事進行基準のような会計上の見積りには、不確実性が内在するとの認識のもと、財務諸表に虚偽表示が発生するリスクを識別・評価し、内部統制に依拠する程度、および詳細テスト・分析的手法等を加味した監査手続きを実施するものである。さらに必要に応じて、個別事項について、経営者をはじめとする関係者への質問や追加的な監査手続きを実施することもある。この点に関しては、2011年のオリンパスによる不正会計事件を契機として、紆余曲折を経たものの、不正リスク対応基準も導入されている。


現代の財務報告は、工事進行基準に限らず、税効果、減損、退職給付、金融商品等、見積りの要素が増加し、経営者の判断や一定の仮定に基づいた会計処理が前提となっている。私自身、監査法人において金融機関の監査を担当していたため、見積りの監査の難しさは十分に認識しているつもりである。だからこそ、マーケットリスクや信用リスク等会社を取り巻く様々なリスクを考慮しながら、リスクの高い監査領域については重点項目として識別し、トップマネジメントを含めた経営陣、社外取締役、監査役会、内部監査部門、経理部門およびその他の関係部署とのコミュニケーションを適切に図ることが、実効性ある監査を実施する上では欠かせないと実感している。


どの企業においても、実務上の重要な役割を担っている中堅・若手社員はいるものである。そのようなキーパーソンを含めた様々な階層・立場の関係者と意見交換や連携を図りつつ、協力を得ながら、組織的に監査を実施しなければ、とても対処できないというのが実態であった。一概には断定できないものの、仮にそのような関係性を築けないのであれば、監査人としての正当な注意をより一層払うことに留意すべきであると考える。期待ギャップが存在していることは否定しないが、外部監査人に期待されているのは、専門家としての職業的懐疑心やプロフェッショナル・ジャッジメントではないだろうか。この点に関しては、その役割・立場は異なるものの、社外取締役と同様である。


いずれにしろ、個別の監査については、今後、監督当局である金融庁および公認会計士・監査審査会、日本公認会計士協会によるレビュー等が実施されることにより、その妥当性や責任の有無について検証されるであろう。



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