Knowledge/解説コラム

【代表者コラム】IFRS15号最新動向、FASBによる基準改訂案の概要とIASBの動向

菊川 真  プライムジャパン代表 公認会計士

2015/05/20

1. はじめに


IFRS
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国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)は、収益認識に関する新たな会計基準を共同で開発し、2014年5月、それぞれIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」(IFRS15号)および米国会計基準アップデート2014-09:ASC Topic 606(Topic 606)(以下、合わせて「新収益認識基準」という)として公表した。その後、両審議会は、移行リソース・グループ(以下、「TRG」という)を共同で立ち上げ、新収益認識基準を実務に適用する上での課題を整理するとともに、TRGより提起された論点については、両審議会での合同会議を開催し、基準改訂の要否および内容等についての検討が進められている。


そのような中で、FASBは、今般、新収益認識基準に関する修正を提案する公開草案(以下、「本公開草案」という)を公表した(2015年5月12日)。本公開草案は、実務に適用する上でのばらつきが生じるリスクや新基準への移行コストおよび基準適用上の複雑性を軽減することを目的としている。


本公開草案に含まれている修正案は、TRGを通じて提起された論点に対処するため、主に2015年2月18日に開催された合同会議(以下、「本合同会議」という)において、FASBが暫定的に決定した内容(知的財産のライセンスおよび履行義務の識別に関するガイダンスの明確化)を反映したものである。そこで本稿では、本合同会議でのFASBの決定事項および本公開草案の概要ならびにIASBの動向等について解説する。



2.概要


IASBとFASBは、2015年2月18日、本合同会議を開催し、TRGを通じて明らかになった以下の2つ論点について検討を行った※1


① 知的財産のライセンス (Licences of intellectual property)
② 履行義務の識別 (Identifying performance obligations)


その結果、両審議会は、それぞれの新収益認識基準について、規定の明確化を図るための改訂案を提示することを決定している。両審議会は、明確化によって、基準の理解可能性と適用可能性を高めることが可能となり、一貫性のある統一的な適用に資することになると考えている。ただし、規定を明確化することについては方針が一致しているものの、変更内容など各論では異なる見解が表明されている。全体として、FASBは明確化に向けた基準の改訂に積極的であるが、IASBは、限定的な改訂に留める方針で、慎重な姿勢を取っている。これは、IFRS15号の早期適用も認めている中で、公表後、間もない段階で改訂することのリスクやその影響を懸念しているためである。


※1  本合同会議の時点までに、32個の論点がTRG会議(2014年7月、2014年10月、2015年1月の計3回)において議論された。その大半の論点に関して、関係者が新収益認識基準を適切に理解し、適用する上で問題ないとされたが、いくつかの論点については、さらなる検討が必要と判断され、両審議会に照会がなされた。本合同会議では、その内の上記2項目について議論された。



3.知的財産のライセンス


知的財産(ソフトウェア、メディア・コンテンツ、特許権・商標権など)のライセンスに関する収益については、ライセンスが契約に含まれる他の財・サービスと区別できる場合には、顧客に付与された権利が知的財産に対する使用権なのかアクセス権なのかによって、その認識のタイミングが異なる。すなわち、ライセンス付与に関する約定の性質が使用権の場合は、一時点における支配の移転として収益を認識し、アクセス権とみなされる場合は、一定期間にわたって収益を認識することになる(IFRS15号:B56項-B62項) 。この際、アクセス権を付与するライセンスとなるのは、以下の3つの要件をすべて満たす場合とされている(IFRS15号:B58項)。


① ライセンス対象となる知的財産に対して、企業が重大な影響を及ぼす活動を行うことを、契約により要求されているか、または顧客が合理的に予測できる。② 企業活動によって、プラスまたはマイナスの影響が、ライセンスを通じて顧客にも及ぶ。③ 企業活動によって、顧客に対して財・サービスが移転することはない。


(1)ライセンス付与に関する約定の性質

本合同会議において、両審議会は、ライセンスを付与する約定がアクセス権となる要件①の「重大な影響を及ぼす活動」とは、知的財産の「有用性※2」に重大な影響を及ぼす場合であることを、規定上、明確にすることで合意した。また、知的財産の「有用性」が重大な影響を受けるとは、具体的には、以下のいずれかの場合であることも決定している。


a.  企業活動によって、知的財産の形態(デザインなど)または機能が変化する場合b.  知的財産の価値が、企業活動により重大な影響を受けるか、または大きく依存している場合(ブランドやロゴなど)


なお、知的財産が、それ自体で重要な独立した機能を有する場合(例えば、ソフトウェアやメディア・コンテンツなど)、その有用性の大部分はその機能に依存しており、企業の継続的な活動によって重大な影響を受けるものではないとしている※3


※2 原文では“utility”と表現され、本公開草案では、便益・価値を提供する能力と定義されている(paragraph 606-10-55-59a)。なお、 本合同会議での資料FASB Memo 1(Licenses of Intellectual Property)では、期待される役割・機能を満たす能力と定義されていた。※3 例えば、企業の販売促進活動などによって、ソフトウェアの有する機能自体が変化するわけではない。


(2)ライセンス付与に関する約定の性質の識別

さらにFASBは、上記に加え、知的財産のライセンスを2つの区分に分類することにより、ライセンス付与に関する規定をより明確化することを、本合同会議において決定している。IASBは、この点については支持していない。


◆  機能的知的財産(Functional intellectual property)
・  その有用性の大部分が、独立した機能から派生している知的財産(例:ソフトウェア、生体化合物、薬物構造式、映画・テレビ番組・音楽などのメディア・コンテンツ)。・  ライセンス提供者の継続的活動が、当該知的財産の機能的有用性に影響を及ぼすことはあり得るが、その有用性は当該活動から独立したものであり、また機能自体も変化しないことから、重大な影響が及ぶことはない。したがって、ライセンス付与に関する履行義務は、顧客の使用可能となった一時点で充足される。


◆  象徴的知的財産(Symbolic intellectual property)
・  重要な独立的機能を有していない知的財産で、その有用性のほとんどが、ライセンス提供者の過去または現在の活動(日常的なビジネス活動を含む)に関連しているもの(例:ブランドやチームなどの名称やロゴ、フランチャイズ権)。・  独立的機能がないということは、その有用性はライセンス提供者の継続的活動に依存していることを意味している。したがって、ライセンス付与に関する履行義務は、一定期間にわたって充足される。


本公開草案では、ライセンス付与に関する約定の性質に関して、ライセンスがアクセス権もしくは使用権のどちらで構成されているのかを判定するに際しては、機能的知的財産または象徴的知的財産のいずれかに分類する等、本合同会議での上記決定事項(1)、(2)を反映した修正案を提示している(Topic 606-10-55-59~64)。また、本公開草案の中では、ライセンスの性質を判定する際のフローチャートも提示されている(Topic 606-10-55-63A)。


FASBは、本公開草案で提示された修正案によって、関係者の主たる懸念事項(例:ライセンス付与が一時点で履行されているのか、それとも一定期間にわたって履行されているのかの線引きがあいまいである等)について、実務上の判断要素を減らすことができるなど、基準適用をより容易にすることができると考えている。


【コメント】
両審議会による改訂のアプローチは異なっているものの、実務上、実質的な差異はほとんど生じないものと考えられる。ただし、ロゴなどの象徴的知的財産にもかかわらず、ライセンス提供者による重要な活動が見込まれないような特定の状況の場合には、結果として異なる会計処理となる可能性は残されている。例えば、すでに消滅したスポーツチームのロゴのライセンスを付与する契約において、ライセンス提供者は、もはや当該知的財産の有用性に重大な影響を与える活動を行わない場合などである。このようなケースでは、IASBのアプローチでは、使用権とみなされるため一時点で収益を認識することになる一方、FASBのアプローチでは、象徴的知的財産として一定期間にわたって収益を認識することになり、差異が生じる可能性がある。


(3)売上高または使用量ベースのローヤルティ

新収益認識基準では、ライセンスのアクセス権・使用権に基づいた収益認識の規定(IFRS15号:B56項~B59項)にかかわらず、売上高または使用量に応じたローヤルティを受領するライセンス契約については、 (a) 売上の計上または使用された時点、もしくは(b) ローヤルティ配分にかかわる義務(の全部または一部)が履行された時点のいずれか遅い方のタイミングで収益を認識するという例外規定が定められている(IFRS15号:B63項)。


この点に関し、売上高または使用量に応じたローヤルティ契約がライセンス以外の他の財・サービスも含む場合、当該例外規定はライセンス契約のみに適用されるのか、それともライセンスを含むロイヤルティ契約全体に適用されるのかが論点となっていた。そのため、両審議会は本合同会議において、この例外規定の適用範囲・対象を明確にするため、以下の改訂を行うことで合意した。


a.  ある一つのローヤルティを、売上高または使用量ベースのローヤルティに関する例外規定を適用する部分と例外規定を適用しない部分に分けない、かつb.  ローヤルティの大部分(the predominant item)が知的財産のライセンスである場合には、売上高または使用量ベースのローヤルティに関する例外規定を適用する。


本公開草案では、上記決定事項を反映した修正案を提示している(Topic 606-10-55-65A・B)。


【コメント】
今回の修正案によって、ローヤルティに関する実務上の煩雑さを避ける効果が期待できる。一方で、両審議会も認めていることであるが、知的財産のライセンスがロイヤルティの大部分を占めているか否かについての判断は求められることになる。また、結果的に、ローヤルティに関する例外規定が、より多くの取引に適用され得ることにもなるため、 “the predominant item”とする客観的な評価基準を定めるとともに、取引の実態を反映した適切な運用が求められるであろう。


(4)ライセンスの性質の決定

FASBは、他の財・サービスと区別できないライセンスの性質に関して、以下の内容の改訂を行うことを、本合同会議において決定した。


・  契約に含まれる他の財・サービスと区別できないライセンスの場合、当該ライセンスを含む財・サービスの履行義務全体が一定期間にわたって充足されるのか、それとも一時点において充足されるのかを適切に判定するために、ライセンスに関するガイダンスを適用した上で、ライセンス単体の性質およびライセンスを含む履行義務全体の認識期間を決定する必要があり得る。


これは例えば、期間10年のライセンスと期間1年のサービスの取引が一体となって組み合わさった履行義務について、仮にライセンスを区別して識別した場合に、当該性質がアクセス権であるとするならば、その一体となった履行義務全体が、ライセンス期間より短い1年で充足すると結論付けるのは適切ではないという考え方に基づいている。


本公開草案では、ライセンスと他の財・サービスを含む単一の履行義務の会計処理に当たっては、ライセンス付与に関する約定の性質を検討すべきこと、および収益認識のタイミングに関する取扱いを明確化する修正案を提示している(Topic 606-10-55-57~58C)。


IASBは、この論点に関しては、 IFRS15号とその結論の基礎に十分なガイダンスがあると考えており、明確化の必要はないことを、本合同会議において決定している。


(5)ライセンス契約上の制限

FASBは、ライセンス契約上の制限について、以下の改訂を行うことを、本合同会議において決定した。


・  ライセンス契約上の制限(時期、地域的または使用上の制限など。例えば映画の放映権に関するライセンスの場合で、放映できる頻度や時期的な制限など)は、ライセンスの属性に係るものであり、契約に含まれる財・サービスの識別には影響を及ぼさない、すなわちライセンスの数には影響しないことを明確にする。


例えば、テレビ番組に関するライセンスについて、付与されたライセンス期間の内、実際に放映できるのは、当該期間中の特定の日のみに制限されている場合、全体として単一のライセンスとなるのか、それともそれぞれ複数のライセンスとなるのかが議論となっていた。FASBは、このような制限はライセンスの機会を定めるものであって、ライセンスの数を変更させるものでないことを明らかにしている。


IASBは、この論点に関しては、 IFRS15号とその結論の基礎に十分なガイダンスがあると考えており、明確化の必要はないと、本合同会議において決定している。



4.履行義務の識別


収益認識モデルのステップ2「履行義務の識別」においては、まず契約上、顧客に移転するすべての財・サービスを履行義務として識別することになっている。この際、契約に含まれる複数の財・サービスが、以下の2つの要件をいずれも満たす場合には、別個の履行義務として識別し、個別に会計処理することになる(IFRS15号:第27項)。


a.  個々の財・サービスの区別可能性    顧客が、その財・サービスからの経済的便益を、それ単独で、または顧客にとって容易に利用可能な他の資源と一緒に得ることができる。b.  契約の観点からの区別可能性    その財・サービスを顧客に移転する約定が、契約に含まれる他の約定(財・サービス)と区別して識別することができる。


上記(b)における「他の約定(財・サービス)と区別して識別することができる」ことの判定要素として、新収益認識基準では、以下のように示されている(IFRS15号:第29項)。


a.  企業は、その財・サービスを契約に含まれる他の財・サービスと組み合わせて、ワンセットの重要なサービスとして提供していない。b.  その財・サービスが、契約に含まれる他の財・サービスを大幅に修正またはカスタマイズしない。c.  その財・サービスは、契約に含まれる他の財・サービスに高度に依存していない、または相互関連性が高くない。


ただし、区別できる複数の財・サービスが、実質的には同じであり、かつ顧客への移転パターンが同一である場合には、当該一連の財・サービスは、単一の履行義務として会計処理することになる(IFRS15号:第22項・23項)。


(1)約定した財・サービスの識別

FASBは、契約上重要ではない財・サービスに係る約定については、識別する必要がないこと、またそれら重要でない財・サービスを合算して財務諸表レベルで重要性を評価する必要もないことを、規定上、明確にすることを本合同会議において決定した。


本公開草案では、上記決定事項を反映した修正案を提示している(Topic 606-10-25-16A)。なお、重要性(”materiality”)について、財務諸表全体ではなく、契約レベルで判定する点については、過度の負担を避ける趣旨であること、また「重要な財務要素」や「追加的な財・サービスに対する顧客の選択権」にも適用されている共通した考え方であることが結論の基礎において述べられている(Topic 606 BC11)。


IASBは、この点に関し、現行基準で十分理解可能であること、また改訂によって意図せざる結果を招くリスクを懸念し、基準修正の必要性はないと判断している。


(2)契約の観点からの区別可能性

FASBは、契約の観点からの区別可能性に関する要件を明確にするために、以下の改訂を提案することを、本合同会議において決定した。


・  適用ガイダンスの明確化を図るため設例を追加する。・  「区別して識別可能である」ことに関する判断の原則を、規定上明確にする。具体的には、当該判断をする際は、(a)各財・サービスを個々に移転するのか、それとも(b)各財・サービスを構成要素とするアイテムを一体として移転するのかを見極めることを明文化する。・  上記2つの判断の原則と、現行基準にある「他の約定(財・サービス)と区別して識別することができる」とするための3つの判定要素を整合させるようにする。


本公開草案では、上記決定事項を反映した修正案を提示している(Topic 606-10-25-21)。


IASBは、適用ガイダンスの明確化を図るための設例は追加することにしているが、基準の改訂は行わないと決定している。


(3)出荷活動

出荷・配送サービスに関して、特にそれらが顧客への支配の移転後に行われる場合(例:FOB(本船渡し条件))、当該出荷活動を約定されたサービスとして処理するのか、それとも履行コストとして取扱うのかが論点となっていた。FASBは、この点に関し、以下の改訂を行うことを、本合同会議において決定をした。これは現行のUSGAAPに基づいた実務への影響に配慮したものとされている。


・  出荷・配送が支配の移転前に行われる場合は、当該活動を履行活動、すなわち履行コストとして会計処理する。・  出荷・配送が支配の移転後に行われる場合は、財・サービスの履行義務として会計処理するか、または履行コストして会計処理するかの選択適用を認める。


本公開草案では、上記決定事項を反映した修正案を提示している(Topic 606-10-25-18A)。


IASBでは、この論点に関して、これまでIFRS関係者から要望が出ていないことから、特段の決定はしていない。このため、今後、実務上の重要な論点となり得るかどうかについて、利害関係者に調査をしていく方針である。



5.次のステップ


新収益認識基準では、一連の区別し得る財・サービスが特定の要件を満たす場合には、単一の履行義務として会計処理することを求めている(IFRS第22項・23項、Topics 606-10-25-14(b)~15)。この点に関して、2015年3月のTRG会議において、一部のメンバーから、当該規定は基準の適用を容易にするための条項であるにもかかわらず、かえって複雑化させる可能性についての見解が示されている。このため、本公開草案では、当該規定を任意適用とすべきか否かについても、コメントを求めている。本公開草案のコメント募集期限は2015年6月30日である。


一方、IASBは、IFRS15号の改訂案について、一つの公開草案のみを公表する予定である。IASBの公開草案には、本合同会議でのIASBの暫定的決定事項だけでなく、2015年1月・3月のTRG会議を踏まえて、必要と判断したその他の明確化を含む予定である。IASBは、具体的な修正案を決定する前に、追加的な調査とアウトリーチを実施することにしており、最終的な公開草案の公表は、2015年後半となると見込まれている。



外部リンク:
・Proposed Accounting Standards Update—Revenue from Contracts with Customers (Topic 606):
・IASB discusses issues emerging from TRG discussion