KNOWLEDGE & TOPICS ナレッジ&トピックス
ナレッジ&トピックス
ギリシャに端を発した財政危機に揺れる欧州ですが、ここ数年、監査制度のあり方について高い関心が寄せられています。2010年10月、EUの欧州委員会は、いわゆるリーマンショックに代表される金融危機を踏まえて、グリーン・ペーパー「監査に関する施策:金融危機からの教訓」(”Audit Policy: Lessons from the Crisis”)を公表し、広く関係者からの意見を募っていました。これは、金融危機において監査制度が適切に機能していなかったのではないかとの問題提起がなされたことを受けて、監査人の役割や監査制度の見直しに関して取りまとめたものですが、その内容は、監査の目的や役割、期待ギャップ問題、監査報告書の記載内容といった論点から監査人の第三者による選任の是非や監査報酬のあり方、監査法人のローテーション制の導入、非監査サービスの提供の適否、監査の寡占市場の解消等まで監査に関する包括的な議論が含まれていました。
その後、欧州委員会は、この11月30日に正式な規制案を公表していますが、その内容はこれまでの監査制度に大きな変化を及ぼすものとなっています。
(“Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on specific requirements regarding statutory audit of public-interest entities” “Proposal for a Directive of the European Parliament and of the Council amending Directive 2006/43/EC on statutory audits of annual accounts and consolidated accounts”)
同日、発表されたプレスリリース「財務諸表の信頼の回復:より高品質、ダイナミックかつオープンな監査マーケットを目指して」(”Restoring confidence in financial statements: The European Commission aims at a higher quality, dynamic and open audit market”)では、金融危機は、欧州の監査システムに重大な欠点のあることを浮き彫りにしたとし、危機以前およびその間ならびに危機以後における一部の大規模な金融機関の監査では、財務健全性に深刻な問題があったにもかかわらず、「無限定適正意見」を表明していたこと、また各国の監督当局による最近の検査でも監査の品質を批判している点を指摘しています。これらの背景としては、現状の監査マーケットは寡占市場のため、監査人の選択肢が限られていること、またいわゆる「ビッグ4」の一角が破綻した場合のシステミック・リスク、利益相反や監査人の独立性に関する問題や金融危機の際に大きな批判となった財務諸表の信頼性を巡る疑念等を挙げています。
今回の改革案は、上記のような現状認識に基づいて、監査の役割の明確化と監査セクターに対する厳格なルールの導入を図り、監査の独立性強化と寡占状態にある監査マーケットの活性化を意図したものですが、監査人の役割のより厳密な明確化と定義付け、監査人の職業的懐疑心の強化、監査人に対する監督機能の改善などもその主要な目的としています。
主な改革案は次の通りです。
監査法人の強制的ローテーション
監査法人は6年ごとにローテンションすることとし、再び同じクライアントの監査を実施するまでのインターバル期間を4年とするもの。
強制入札
新しい監査法人を選定する際には、オープンかつ透明な入札手続きを経ることを上場企業に義務付けるもの。
非監査サービス
監査クライアントへの非監査業務の提供を禁止。また、大手監査法人には、利益相反に関するあらゆるリスクを回避するために、非監査部門を分離することを義務付けるもの。
域内統一サービス
欧州域内に「パスポート」制を導入することにより、法定監査のための単一市場を創設するもの。また、すべての監査人に対して国際監査基準に準拠した監査の実施を要請する。
この内、これまでの監査制度への影響が特に大きいのが、監査法人のローテーション制の導入と思われます。米国のPCAOBでも同様に研究が進められており、仮に制度化された場合、日本への影響も必至で、今後の議論の行方が注目されます。