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国際会計基準審議会(IASB)は、2017年9月14日、公開草案「『重要性がある』の定義(IAS第1号及びIAS第8号の修正案)」(以下、「本公開草案」という)を公表した。IASBは、本公開草案において、「重要性がある」の定義を明確化し、現行の要求事項への理解を改善するために、 IAS 第 1 号「財務諸表の表示」およびIAS 第 8 号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」の軽微な修正を行うことを提案している。
企業が財務諸表を作成するにあたっての重要性の判断については、財務報告開示に関する討議フォーラム(2013年)やIAS 第 1 号修正案「開示に関する取組み」(2014年公開草案)に対するフィードバック等を通じて、実務上、困難が伴っていることが指摘されていた。このためIASBは、2017 年 9 月、 企業が重要性の判断を行う際に役立つためのガイダンスとして、IFRS 実務記述書「重要性の判断の行使」(重要性の実務記述書)を公表した。
一方で、現行の「重要性がある」の定義は、企業が重要性のない情報を財務諸表において開示することを助長する可能性があること、さらに「概念フレームワーク」(2010 年および公開草案)で示されている定義が、IAS 第 1 号および IAS 第 8 号で使用されている文言と異なっており、「重要性がある」について複数の定義が存在することによって、実務上、混乱を生じさせる可能性があることが認識された。
こうした点を踏まえ、重要性の定義に関する混乱を避けるため、IASBは、本公開草案において、IAS 第 1 号および IAS 第 8 号における定義の見直しを提案している。なお本修正案は、既存の定義に対する理解を容易にすることを意図したものであり、IFRS 基準における基本的な重要性の概念を変えることを意図したものではないとしている。
IAS第1号(7項)およびIAS第8号(第5項および第6項)における「重要性がある」の定義を以下のとおり修正する。
本修正案 | 現行 |
---|---|
情報は、その省略、誤表示または覆い隠すことにより、特定の報告企業の一般目的財務諸表における主要な利用者が当該財務諸表に基づいて行う意思決定に影響を与えると合理的に予想し得る場合には、重要性がある。 | 情報は、脱漏または誤表示により、利用者が財務諸表に基づいて行う経済的意思決定に単独または総体として影響を与える場合には、重要性がある。 |
本公開草案では、現行の要求事項をより明確化するため、主に以下の変更を加えている。
① 重要性のある情報を覆い隠すことは、それを省略するのと同様の効果を有する可能性があることに着目し、「情報を覆い隠すこと」を定義に含めて、IAS 第 1 号の第 30A 項の既存の要求事項※を織り込んでいる。② 現行の「利用者」という用語の解釈が広くなりすぎる可能性があるという指摘を踏まえ、「利用者」を「主要な利用者」に置き換え、その定義を明確化している。すなわち「主要な利用者」とは、事業および経済活動についての合理的な知識を有し、情報を入念に検討し分析する「現在および潜在的な投資者、融資者および他の債権者」と定義している。③ 現行の定義における「影響を与える可能性がある」という閾値は低すぎて適用範囲が広くなりすぎる可能性があるため、「影響を与える可能性がある」という閾値を「影響を与えると合理的に予想し得る」に置き換えている。
※ IAS 第 1 号第 30A 項では、「企業は、重要性のない情報で重要性のある情報を覆い隠したり(中略)することによって財務諸表の理解可能性を低下させてはならない」と規定されている。
【適用日および経過措置】(5項)
本基準適用日以後に開始する事業年度における重要性の判断から将来に向かって適用する。早期適用は認められる(IAS第1号136R、IAS第8号54G)。
以上
外部リンク:
・IASB issues Practice Statement 2 Making Materiality Judgements and publishes Exposure Draft Definition of Material
・Exposure Draft and comment letters?Definition of Material
・IASBが実務記述書第2号「重要性の判断の行使」と公開草案「『重要性がある』の定義」を公表