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【会計情報トピックス】金融庁、「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」を公表
~制度開示の簡素化・共通化を提言~


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金融庁は、2016年4月18日、「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告-建設的な対話の促進に向けて-」(以下、「本報告書」という)を公表した。金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」では、昨年11月より計5回にわたり、企業情報の開示内容や日程・手続のあり方、非財務情報の開示の充実等について検討を行ってきた。本報告書は、これらの検討および審議を踏まえ、公表されたものである。



【提言内容のサマリー】

① 決算短信・四半期決算短信の整理・合理化
  • 監査・四半期レビューは不要であることの明確化
  • 記載内容の削減による合理化
  • 記載を要請する事項の限定等による開示の自由度の向上
② 会社法および金融商品取引法による開示内容の共通化・合理化
  • 会社法に基づく事業報告・計算書類および金融商品取引法に基づく有価証券報告書における記載内容の共通化・一本化
  • 有価証券報告書における記載内容の整理・合理化ならびに開示情報の充実
③ 対話の促進に向けた開示の日程・手続きのあり方
  • 株主総会日程・手続の柔軟化と開示の見直し
  • 事業報告・計算書類等の電子化の促進
④ 非財務情報の充実
  • 企業の経営方針・経営戦略や経営者による経営成績等の分析等の記載の拡充
⑤ その他
  • 単体財務諸表におけるIFRSの任意適用など


図表1:開示制度の概要

取引所規則会社法金融商品取引法
目的
  • 重要な会社情報を投資者に適時に提供
  • 株主・債権者に対する情報の提供
  • 投資者の投資判断に必要かつ重要な情報の提供
開示書類
  • 決算短信
  • 事業報告・計算書類
  • 有価証券報告書
財務情報
  • 連結財務諸表
  • 連結計算書類
  • 計算書類
  • 連結財務諸表(連結キャッシュ・フロー計算書を含む)
  • 個別財務諸表(キャッシュ・フロー計算書を含む)
非財務情報※1
  • サマリー情報
  • 直近2期の経営指標の推移
  • 業績予想(任意)
  • 経営成績、財政状態等に関する分析
  • 経営方針
  • 企業の概況
  • 主要な事業内容
  • 直前三事業年度の財産及び損益の状況ほか
  • 事業の状況
  • 事業の経過及びその成果ほか
  • 設備の状況
  • 提出会社の状況
  • 業務の適正を確保するための体制等の整備に関する事項ほか
  • 企業の概況
  • 主要な経営指標等の推移
  • 事業の内容ほか
  • 事業の状況
  • 業績等の概要
  • 財政状態、経営成績、キャッシュフローの状況の分析ほか
  • 設備の状況
  • 提出会社の状況
  • コーポレート・ガバナンスの状況ほか
開示※2
  • 決算期末日後45日以内(30日以内がより望ましい)【37.0日】
  • 株主総会の開催日の2週間前まで【63.9日】
  • 事業年度経過後3か月以内【87.4日】
会計監査
  • 制度上は不要
  • 必要
  • 必要

※1 決算短信の非財務情報については、「記載を要しない」ものとされている場合でも、投資判断に有用な情報であれば積極的な記載が要請されている。※2 【】は平均開示日数(「持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進研究会報告書」(経済産業省)より)



ここでは、本報告書で提言されている主な論点について、そのポイントを以下にまとめた。


1.決算短信・四半期決算短信 決算短信および四半期決算短信(以下、「決算短信等」という)については、その速報性に比して記載事項が多くなっており、作成・公表の事務負担が過重となっていることに加えて、記載内容も有価証券報告書と重複しているとの指摘がなされている。このため、投資判断に重要な情報を迅速に提供するという目的・役割に即して整理・合理化を行うための提言がなされている。 具体的には、決算短信等による迅速な情報開示を求める観点から、短信公表前に監査・四半期レビューが終了している必要はないことを改めて明確化するほか、決算短信等の早期提出を促す観点から、速報性が求められる項目のみを開示することや記載を要請する事項を限定し、記載内容については可能な限り自由度を高めることが提言されている(図表2参照)。


図表2:決算短信等

決算短信等の整理・合理化
監査・レビュー記載内容の削減自由度の向上
  • 決算内容が定まった段階での迅速な開示を求める観点から、短信公表前に監査および四半期レビューが終了している必要はないことを明確化する
  • 早期提出を促す観点から、速報性が求められる項目のみに限定する。
  • 例えば、経営方針の記載は、必ずしも速報性が求められる情報ではないことから、有価証券報告書において記載する。
  • 記載要請事項については、サマリー情報、経営成績・財政状態・今後の見通しの概況ならびに連結財務諸表および注記に限定し、その他は企業の任意の記載とする。
  • 投資判断を誤らせるおそれがない場合には、連結財務諸表の開示を行わなくてもよいこととする(開示可能となった段階で速やかに開示)。


2.事業報告・計算書類 事業報告・計算書類(以下、「計算書類等」という)の記載事項の多くは、有価証券報告書で提供される情報と同種の事項となっている。また、それら同種の記載事項の内容については、経団連ひな型と有価証券報告書との間において差異が生じており、上場会社からは、両者の記載内容を共通化すべきであるとの指摘がなされている。 このため、本報告書では、計算書類等と有価証券報告書について、共通の記載を行うことが可能であることを明確化し、両者を実質的に一体化して作成・開示することなどを提言している(図表3参照)。


図表3:計算書類等

計算書類等



3.有価証券報告書 有価証券報告書においては、これまで、その時々に応じて記載項目を追加する等の改正が行われてきたが、その中には記載内容が重複していると考えられるものや制度導入時に意図していた情報開示がなされていないものがある。一方で、他の書類で開示されている情報の中には、詳細な情報開示という観点から、むしろ有価証券報告書に記載することがより望ましいものがある。 そこで、本報告書では、より体系立った分かりやすい開示が行われるよう、記載内容の整理・合理化を行うとともに、その開示内容の充実を図ることが提言されている(図表4参照)。その他、新株予約権等の記載の合理化、有価証券報告書における「大株主の状況」について事業報告との共通化などが提言されている。


図表4:有価証券報告書

計算書類等



4.株主総会の日程・開示のあり方 株主総会の日程や開示書類のあり方については、機関投資家より以下のような指摘がなされている。
・ 株主に対する情報提供を充実するため、株主総会の開催前に有価証券報告書を開示すべき・ 招集通知等の発送から株主総会開催日までの期間は、国際的な水準を勘案すべき(例:英国では約4週間以上)・ 必要があれば株主総会の開催日を7月に遅らせるなど、株主が議案の検討に十分な期間を確保できるようにすべき
 本報告書では、このような指摘や国際的な動向を踏まえ、①株主総会前のできるだけ早い時期に有価証券報告書を開示する、②議案の十分な検討期間を確保するため、適切な株主総会日程の設定等を行うことが提言されている。



5.非財務情報の開示の充実 非財務情報には、経営方針・経営戦略やMD&Aなどのほか、ガバナンスや社会・環境など様々な情報が含まれるが、近年、企業のガバナンス強化に向けた取組みの進展などにより、投資家からの関心は更に高まっている。 本報告書では、今後とも、ステークホルダーのニーズに応じて企業の創意工夫を生かした開示を行っていく観点から、任意開示の形で非財務情報を充実させていくことを提言している。 また、企業情報へのアクセスの利便性を向上させる観点から、例えば、複数の開示書類の情報を1つの書類に統合する方法や、同一のウェブページ上に複数の開示書類へのリンクを体系的に掲載する方法など、情報の提供方法についても創意工夫を発揮することが重要であるとしている。


以上


外部リンク:金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告の公表について