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IFRSに関する実務上のポイントをシリーズでお届けしています。
第2回目は、有形固定資産に関する実務上のポイントとして、減価償却と初度適用の取扱いについて取り上げます。
◆基準間差異
日本基準では、減価償却方法に関して法人税法の規定に従っていることが一般的です。一方、IFRSでは資産の将来の経済的便益が企業によって消費される予想パターンを反映するものでなければならないとされており(IAS16.60)、定額法、定率法および生産高比例法が採用できます(IAS16.62)。
また、耐用年数については、日本基準では法人税法における法定耐用年数を一般に採用しているのに対し、IFRSでは、(a) 企業によって資産が使用されると見込まれる期間または(b) 当該資産から得られると予測する生産高又はこれに類似する単位数と定義されています。
日本基準においては、法人税法に準拠した減価償却方法(建物=定額法、それ以外=定率法)を使用しているケースが一般的ですが、IFRSにおいては将来の経済的便益の消費パターンにより償却方法を検討する必要があること、及びIFRSには法定耐用年数の概念がなく、原則として、税法上の法定耐用年数を用いることはできないという点で基準間差異があります。
◆ポイント
(1)減価償却の違いがクローズアップされる理由は?
減価償却の違いが注目されるのは、「国際会計基準(IFRS)に関する誤解(平成22年4月 金融庁)」の個別的事項の6にもあるように、「定率法がまったく使えなくなるのではないか」と言われること、また減価償却方法を変更する場合、特に初度適用において、過去に遡って修正する必要があるかどうかによりその影響が非常に大きくなることが挙げられます。
(2)IFRS上定率法は使えるか?
IFRSが適用されると「定率法が使えなくなる」という声が良く聞かれますが、その根拠の1つとして、無形資産に関するものですが、『適用する償却方法は,企業によって予想される資産の将来の経済的便益の消費パターンを反映しなければならない。そのパターンについて信頼性をもって決定できない場合には,定額法を採用しなければならない。』(IFRS38.97)という規定が挙げられます。
現行の定率法をIFRS上でも適用するためには、会社の収益パターン(つまりは経済的便益)が定率法による減価償却パターンに比例することが必要と思われます。
しかし、日本企業の多くは減価償却方法として税法基準を採用しており、平成19年度税制改正による250%償却も採用していることから、通常の定率法とも異なっています。定率法を採用するには、分析の結果、会社の収益パターンと定率法による償却パターンが、概ね合致することが必要です。さらに、250%償却を継続して使用する会社は、同様に収益パターンがそれらの償却パターンに合致することを説明する必要があります。
分析の結果、会社の収益パターンと合致する結果を得られなかった場合には、定率法はIFRS上不適切であり、定額法による償却が妥当になるという結論が導かれます。このような場合には、IFRSにおいては現行の減価償却法として適用している定率法から定額法への変更が必要となります。
ここ数年の間に減価償却方法を定率法から定額法へ変更している会社がありますが、これらの会社は日本基準(税法基準)による250%償却が、IFRSにおいては認められないということを見越して変更しているとも考えられます。
(3)基準間差異は連結上だけ認識すればよいか?
基準間差異の取扱いには以下の2通りの考え方があります。
①減価償却方法や耐用年数は全くの基準間差異であり、日本基準を継続して適用する個別財務諸表上での取扱いとIFRSが適用される連結財務諸表上での取扱いは異なってよいという考え方。
②減価償却方法や耐用年数は基準間差異であるが、同一物に対して適用される減価償却方法や耐用年数に基準間差異はなく、日本基準であってもIFRSであっても同一の減価償却方法や耐用年数が適用されるべきであるという考え方。
①の考え方に基づくと、減価償却方法の違いは基準間差異によるものとなるため、個別財務諸表上は従来の方法(定率法)の採用を継続し、早期償却という税務メリットを享受することができます。したがって、連結上でのみ減価償却方法を変更し、単体では従来のままの減価償却方法を採用することになります。
この場合、実務上の対応としては、固定資産管理システムにおいて複数帳簿を持つことが必要となります。固定資産管理システムは会計上の簿価と税務上の簿価を管理しており、すでに複数帳簿により管理しているのが一般的ではないかと思われます。したがって、会計上の簿価が日本基準とIFRSで異なっても、対応は可能であると思われます。ただし、減損が生じた場合には、管理すべき帳簿の数はさらに増えることに加えて、IFRSでは減損の戻入れができるため、戻入れが発生した場合には複数帳簿はさらに倍になることもあり得るので、実務上管理する上では非常に煩雑になることが予想されます。
これに対し②の考え方に基づくと、減価償却方法の違いは基準間差異であるが、個別財務諸表及び連結財務諸表で採用する減価償却方法は統一するべきであるということになります。同一物に対して減価償却方法が異なるということはないという考え方です。つまり、日本基準上とIFRSで採用すべきは減価償却方法および耐用年数は同一となります。
この場合、定額法を採用するとした場合には、税務上も定額法に変更する必要がでてきます。法人税法において確定決算主義を採用しており、損金経理が要件とされていることから、会計上定額法を採用した場合、税務上定率法を継続しても別表調整が必要になり、早期償却のメリットを享受することはできません。そのため、実務上の対応として、IFRS上の簿価=日本基準上の簿価=税務基準上の簿価とすることになります。また、複数帳簿管理の面から見てもこちらの方が運用は数段楽になると思われます。
①および②のどちらの考え方に基づいても、実務的対応を図ることは可能です。
複数帳簿による運用が可能である会社にとっては、連結上のみ対応する①の考え方の方が、早期に償却できるという税務メリットを享受することが可能になります。
(4)経済的耐用年数の決定方法
IFRS適用後の耐用年数は、各資産が実際に用いられる経済的耐用年数を調査し、これをもって耐用年数とする必要があります。
実務上は法定耐用年数を継続することをまず模索すると思いますが、その裏付けをとることが必要です。まず処分実績等から過去の固定資産の利用実績等を把握し、耐用年数を調査することになります。固定資産の利用状況によっては、法人税法に定められた耐用年数と実際の資産の経済的耐用年数に違いがある可能性があります。
このような場合には、定性的要因による分析や他社が採用している耐用年数を参考値として使用するなど別のアプローチから耐用年数を説明ないし決定することが必要となります。また、耐用年数を定めるプロセスおよび毎期見直すプロセスを設定しておく必要があります。
◆基準間差異
IFRSでは、有形固定資産の移行日における処理について、以下の2つの方法があります。
(1)各有形固定資産の取得当初からIFRSを適用していたものとして減価償却計算を行う方法
(2)移行日における公正価値をもってみなし原価とする方法(IFRS1.Appendix D5)
◆ポイント
初度適用に当たっては、開始財政状態計算書作成のために移行日における有形固定資産の帳簿価額をどのように算定するかが非常に重要なポイントなります。
特に製造業にあっては、過去に遡って減価償却計算を修正することは、原価計算の修正に及ぶ可能性があり、その影響は大きいと思われます。
それでは実務上の対応としてどのような方法が考えられるでしょうか?
(1)各有形固定資産の取得当初からIFRSを適用していたものとして減価償却計算を行う方法
この方法は、有形固定資産の取得当初からIFRSを適用したものとして、減価償却方法及びその他の有形固定資産の評価に係る基準間差異を適用して移行日時点における帳簿価額を算定する方法です。過去に遡って適用するため、長期に亘って固定資産を保有している企業のような場合には、過去のデータがない等実際の適用には困難さを伴うと考えられます。
また、原価計算に影響を及ぼすこととなる場合、製品原価が変わり、計算の煩雑さとともに影響は大きいと言えます。
一方で、耐用年数が短い有形固定資産で構成されている、あるいは固定資産自体あまり多く保有してない企業にとっては過去に遡って修正することは可能と思われますが、一般的には遡って修正することは、実務上難しいと言えます。そのため下記(2)のように「移行日時点における公正価値をもって『みなし原価』とする」方法が定められています(IFRS1.Appendix D5)。
(2)移行日における公正価値をもってみなし原価とする方法(IFRS1.Appendix D5)
これには①移行日における公正価値を算出する方法と②IFRS移行日又はそれ以前における日本基準上の再評価額をみなし原価とする方法の2つの方法が認められています。
①移行日における公正価値を算出する方法
この方法は、移行日における公正価値を算出して、みなし原価とする方法です。この場合、土地、建物については、公正価値を算出することは比較的容易ですが、その他の有形固定資産、例えば機械装置や器具備品については、実務上、公正価値を算出することは非常に困難さを伴います。
②IFRS移行日又はそれ以前における日本基準上の再評価額をみなし原価とする方法
この方法は、当該有形固定資産の公正価値は測定せず、従来の日本基準で処理を行ってきた結果として算定された簿価をもって、IFRS移行日時点の有形固定資産の帳簿価額にする方法です。ただし、この場合には再評価日で、公正価値またはIFRSによる取得原価または償却後原価(一般物価指数、個別物価指数を調整後)と再評価額が概ね同じでなければならないとされています(IFRS1.Appendix D6)。
つまり、日本基準での簿価が、そのまま移行日におけるIFRSのみなし原価として認められるわけではありません。従前のGAAP(日本基準)による再評価額が公正価値またはIFRSによる取得原価または償却後原価(一般物価指数、個別物価指数を調整後)と再評価額が概ね同じであることを説明するには、結局公正価値を算定する、またはIFRSを遡及適用することによりIFRSの下での取得原価または償却後原価を算定する必要が生じる可能性があります。
この場合には、全ての有形固定資産に対して公正価値やIFRSの下での取得原価または償却後原価を算定する必要はなく、有形固定資産を種類、耐用年数などでグルーピングして簡便的に計算する方法で対応することになると思われます。